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第19話 魔族の少女……少女、だよ、ね?

 スケルトンの報告を聞いて、俺とリオネルは少年……だと思ってたのに少女だった彼女の元へと急いだ。えーと……確かホークヒルオープン前から寝ているから15日くらい? 半月寝てたのか。

 リオネルにたずねたところ、魔族がどれくらい寝ているかなんて知らないということだった。リオネルを始めスケルトンたちは元人間だしな。

 短い金髪に、紫がかった肌……ザ、魔族。

 着ていた服は確か——シャツとズボン。


「ういーす。魔族起きた、って………………?」


 部屋に入った瞬間、俺、言葉を失ったよ。


「あー。おいら、だいぶ長いこと寝てたみてーだな」

「————」

「腹減ったんだけど、なんかない? このスケルトンに言っても話が通じなくてさ」

「————」

「って話聞いてんの? なあ、オッサン」

「おおおおおおっさんちゃうわ!」


 ようやく声出た。


「つうかなんだよそれ!?」


 俺、叫ぶ。

 だって、だってな……そこにいたのは魔族ミリア、らしい。

 だけどな?

 身長、30センチくらい伸びてんだよ!

 髪の毛もきらきらしたロングになってんだよ!

 でもって身体もでかくなってるからシャツのボタンが全部ぶっとんで腕もぴっちぴちなんだよ!

 ズボンは完璧に切れたみたいでベタ座りの膝の上に載ってるだけなんだよ!

 首からヘソまでの一直線があらわになっていて、健康そうな胸がつんと出ていて——これはCカップ——いやいやいやいやいや。


「寝る子が育ち過ぎィ!」

「オッサン、うるせーって」

「おっさんちゃうわ! 鷹岡悠って名前があるわ!」

「タカオ=カユウ?」


 だからそのリオネルふう切り方止めろ。


「変わりすぎなんだよ!」

「腹減った」

「少年っぽかったのが実は少女でそれから女になってたとか意味わかんねーよ!」

「腹減ったー!」

「うっせー!」

「腹減った!」


 あんまり腹減った腹減ったうるさいので、レストランにおもむいてテイクアウト用料理を作ってもらい、なおかつミリアの着る服も買った——下着とかはわからなかったし女物の服を買う度胸がなかったので、男物だけどな……。

 初級第2ダンジョンがオープンしたことで冒険者たちが殺到していたのだから、俺が女物買っても目立たなかったかもしれないけど、それはそれ、度胸はないんである。

 で、話を聞いたところ——ミリアはすでに成人に達しており、いつ、こうなってもおかしくなかったのだそうだ。すげーな魔族の成人って。大人の階段何段飛ばしてんだよ。


「うんめー! ようやくまともな飯にありつけたぜ」

「どうでもいいけど金は払えよ」

「は? おいら金なんて持ってねーけど……げっ、ユウ、お前まさか、いたいけな美少女のおいらにあんなことやこんなことを」

「だからロリコンじゃないから」

「ろりこん?」

「なんですか、ボス。そのワードは」

「リオネルはここぞとばかりに食いつくんじゃねーよ」


 ていうかもう美少女っていうか少女じゃないんだよな。

 人間で言うなら18歳くらいだろうか。ちょうどあんなことやこんなことをしても合法の年齢……じゃなかった。そんな妄想するな、俺! こんなにガサツな言葉使いの魔族に! 大体種族が違うんだぞ!


「……なんかおいら、今すげー罵倒されたような気分」

「気にするな。こっちに四肢鳥の丸焼きがあるぞ」

「うおーっ! うまそう!」


 食欲があってなにより。


「っつうか、ミリア。家はどこにあるんだ?」

「さあ」

「さあじゃなくてさ……確か、怖いお父さんがいるんだっけ? 帰れよ。金置いてから」

「金ないって」

「じゃあ帰れよ。あとで金は送って」

「冷てーなー。それに金金金金言い過ぎ。守銭奴かよ」


 これが、奴隷であるところを救われ、飯までおごられた人間の態度ですかねえ? あ、人間じゃなくて魔族だったわ。じゃあしょうがないなー。


「とはならないぞ!」

「な、なんだよ、急に大きな声出して……」

「大体な、我がダンジョンは働かざる者食うべからずで——」

「我がダンジョン? あれ、ユウってもしかして迷宮主!?」

「え? うん」

「マジかー! すげーな! おいら初めて迷宮主見たよ、かっけぇー!」

「え? カッコイイ?」

「カッコイイよ! ダンジョン全部支配下なんだろ? すげーよ!」


 しょ、しょうがないなあ、この魔族はもう、口が達者でもう。


「……ボス、チョロすぎ」


 リオネルは黙れ。

 こんなガサツな女でも真正面からカッコイイとか言われたことのない俺の過去をお前は少しでも考えたことあるか?


「ダンジョン案内してくれよ! 服着ちまうから!」

「うおあ!? バカ、目の前で着替えるな!」


 あわてて背中を向けた俺——だけど一瞬、彼女のめくれたシャツからその健康的な乳が——見えなかった。無念すぎる。俺の反射神経の良さよ……。




「は? なんだこれ……」


 迷宮司令室にやってきたミリアは唖然としていた。

 彼女が着ているのは男物のシャツにパンツだけれど、彼女は腰回りが大きめなのでヒップから太ももまでがぴっちりとしている。なんとも……うん、すばらしい眺めである。


「ふっふふふ。すごいだろう」


 ビッグスクリーンに、オペレーションシートが10席(座っているのは全部スケルトン。ちなみに特に仕事はない)、清潔で広々と明るい空間。


「ボスはこういう無駄が好きなんです」

「無駄言うな」

「申し訳ありません。客観的な事実を申しましたまでで」

「もっと悪い」


 俺がいつものようにリオネルを叱る——って待てよ。なんでいつものように叱るんだよ俺。リオネルもちょっとは学習しろよ。


「なー、ユウ! あれなに?」


 ミリアが指したのはビッグスクリーン上、□□□□□というふうに□が連なっている場所だ。


「あれは稼働中のダンジョンを示してるんだ。挑戦者の位置もなんとなく見えるようになってる」

「挑戦者——冒険者のことか?」

「いや、冒険者以外も挑戦できるからな」

「は?」

「商人だってクリアしてる」

「は?」


 まったくワケがわからない、という顔をしていた。


「……話すより、とりあえずミリアもやってみたらいい。命の危険はないから」

「ど、どういうことだよ」

「ボスの非常識です。あなたもここにいたいのなら慣れたほうがいいですよ」


 なんかまたしてもリオネルが聞き捨てならないことを言っている。

 っつうかどうしてミリアも俺のダンジョンに住む、みたいな方向に持っていこうとしてるんだ。


「ここに転移パネルがあるから。ちなみに入場料は銀貨1枚」

「はあー!? 金取んのかよ、ダンジョンのくせに!」

「ダンジョンのくせにとはなんだ。お前だって魔族のくせに金を持ってないじゃないか」

「じゃあタダでいいよな」


 じゃあ、ってなんだよ、じゃあ、って。


「……無一文から取らないよ。ほら、行ってこい」

「わかっ——」


 話している途中に転移させてやったわ。ははははは。ミリアのきょとんとした顔が目に浮かぶぜ。ははははは。


「ボス、仕返しがチンケです」

「うっせー」


 どうせすぐにミリアは戻ってくるだろう——と思っていたら、案の定すぐに戻ってきた。

 銀の延べ棒を持って。

 ……え?


「なんか楽勝じゃん。あんなのでいいの?」

「ちょちょちょちょちょっと待てええええい! なにクリアしてんの!? なにさらっとクリアしてんの!?」

「だってトラップの位置とか丸見えだし」

「は?」


 ミリアを飛ばしたのは俺が動作確認用に造ったサンプルのトラップルームだ。転移先はこの司令室。彼女が持っているのはこれもまたサンプルの銀の延べ棒ではある。


「人間って不思議だなー。こんな簡単なトラップで喜べるんだ」

「ごめん、意味がわかんない。わかるかリオネル」


 リオネルは首を左右に振った。かちゃかちゃ。


「トラップの位置が見えるってどういうことだ」

「魔力の流れだよ」

「まりょくのながれだよ、じゃわからんがな」

「はあ? ユウってバカなの?」


 ほんとマジこのガキは……。

 だが俺は怒らない。大人である鷹岡悠はこんなことでは怒らないのだ。すー、はー。すー、はー。


「詳しく教えろクソガキ」

「…………」


 呆れたようにため息交じりでミリアが言う。


「トラップは空中を通っても発動するだろ?」

「おう」

「どうして発動するんだ?」

「……そりゃ、トラップ発動範囲を空中にしたからだ」

「そうじゃねーよ。つか、原理もわかんないのによくトラップなんて作れたな」


 ミリアが言うには、こうだ。

 トラップの感知範囲は、トラップが魔力を漂わせているのだそうだ。

 これを見ることで順番なんて覚えなくてもすぐにクリアできる——。


「……それって魔族の特権だよ、な……?」

「人間でもできるヤツがいるって聞いたことあっけど」

「今すぐトラップを改修するぅぅぅぅぅぅ!」


 俺、ミリアに教わりながら感知されないトラップ(新)を造ることに成功。

 いやほんと、ミリアを救ってよかった。情けは魔族(ひと)のためならずだわ。

 あとなんか知らんけどミリアがダンジョンに居座ると言い出した。俺、しばらく考えた結果……うむ、確かに俺の知らないことを知っていることもある。今回のトラップのように。だから滞在許可を出してやってもいいだろう。

 けして健康的なヒップラインに目がくらんだわけではない。




――――――――――

*アルス*

――――――――――




「アルスさん! 大変ですよ!」


 因縁をつけてきた冒険者を返り討ちにし、その喉元に切っ先を突きつけていたところへ他の冒険者がやってきた。


「いや、たいして大変ではなかったよ。僕の実力だったら彼らくらい軽くあしらえる」

「えっとそうじゃなくて——いやそっちも十分大変なんですけど! そうじゃなくて!」

「なんだい?」


 絡んできた冒険者にどう落とし前をつけさせようかと悩んでいたアルスは、初めて、走ってきた冒険者の異常に気がついた。


「あ、新しいダンジョンです……!」




 レストランと雑貨店の間、10メートルくらいの広さがある通路。

 そこをまっすぐ行くとダンジョンの入口である。


「あれ? こんなに広かったっけ」

「つい今し方、いきなり広がったんですよ」

「……そんな音聞こえなかったけど」

「無音でした」


 アルスは報告に来た冒険者といっしょにやってくる。絡んできた冒険者のことはもうすっかり頭の外だ。


「初級第1ダンジョン……初級第2ダンジョン……?」


 もともとあったダンジョンの入口——転移トラップは、通路の最奥、右手にあった。その左側に新たに転移トラップができたらしい。

 上部には「初級第2ダンジョン」と書かれたプレートが掲出されている。


「……相変わらず丁寧なことだ」


 アルスの想定を簡単に越えてくるこのダンジョンを腹立たしく思いながらも、アルスは初級第2へと向かった。

 当然のように冒険者が群がっている。


「すまない、通してくれないか?」

「あっ、アルスさん! おいお前ら、アルスさんが来たぞ!」


 ざわついていた冒険者たちの声のボリュームが一段下がり、アルスの前で人垣が割れた。「アルスさんだ」「挑戦するのかな?」「そりゃアルスさんだし」ささやきが聞こえる。


「よう、アルス。お前も気になるか」

「ま、一応ね」


 人垣の先にいた男——筋骨隆々で、額が少々広がりつつある。焦げ茶のあごひげが生えている男——上級冒険者であり、アルスと同様初級第1ダンジョンをクリアした男、ボガートだ。

 彼は冒険者らしく、硬化させた革のプロテクターを装着している。このダンジョンでは必要のないものであるにもかかわらず。アルスとしてはボガートの、武人らしい振る舞いは嫌いではなかった。


「今度のはどうなってる?」


 アルスがたずねると、ボガートはくいっとアゴで示しただけだった。

 そこには注意事項の記載されたプレートが貼られている。


『現在、ホークヒルは「初級第1コース」「初級第2コース」のみオープンしております。「中級コース」「上級コース」については冒険者の皆さんのクリア状況を見て順次公開していく予定です。

 こちらは「初級第2コース」の入場口です。

 入場料金:1人あたり銀貨1枚(最大5名まで同時参加が可能)

 ※本ダンジョンは命の危険はまったくございませんのでお気軽にご参加ください。』


「同じ……ではないね」

「ああ。最大5名というのが気になるな」

「同じ場所に転移するのだろうか? あるいは……」

「わからん。わからんが——知る方法はある」


 ボガートはにやりと笑い、人差し指と中指で、銀貨をつまんで見せた。


「行ってみねえか? 俺とお前で」


 オッサンのくせに、きざったらしいことをする。


「いいよ。やろう」


 だが、そういうところも嫌いではない。

 不意に誕生したボガートとアルスのコンビに、周囲の冒険者たちが一気に沸き立つ。


「すげえー!」

「特級と上級の組み合わせとか滅多に見られねえぞ」

「いきなりクリアしちゃうんじゃない!?」

「報酬なんだろうな」


 もうクリアした気になってるな……とアルスは苦笑しながらも、ボガートの隣に立った。

 銀貨の投入口は5箇所ある。「同時参加を希望する場合は同時に投入すること」という注意書きが書かれているから、同じタイミングで銀貨を入れればいいのだろう。


「行くよ、ボガート」

「おう!」


 そしてふたりの姿は、消えた。


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