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第13話 ホークヒル、稼働す

「いよっしゃあ〜〜! はい来たこれ! バッチリだ! バッチリ山が崩れたぞ、リオネル!」

「はあ」

「兵士だけじゃなくて冒険者らしき連中もいたな! よっしゃあ! ギャラリーとしては十分だわこれ! なっ、リオネル!」

「はあ」

「……あのさ、その手応えのない反応止めてくれる? これでも俺、ボスなんだけど? アイムボス。ユーアー」


 あれ、「部下」って英語でなんていうんだ?


「いやあ、ボス、見てください。私とおんなじ反応ですよ、あの人たちも」

「え?」


 リオネルに言われてオーディエンスたちの様子を確認する。


 ぽかーん。


 って感じだった。口開いて、あんぐり。

 え、えええ〜〜? ちゃんとキレイに壁が現れただろ? ちゃんと外壁に彫られた文字だってバッチリ読めるはずだろ?「ホークヒル」だって「鷹岡」から取ってるんだぜ? 花火もきっちり上がったろ? それに音声再生もうまく行ったはずだ!

 これらは全部トラップだけどな。

 あらかじめ壁面部分は俺が一度掘っておいて、そこにトラップを埋め込んでおいた。ボタンひとつでストーンと切り離されて落ちていくように。石だけにストーンってわけではない。

 落ちた先にもトラップだ。落ちてきた石や土、岩盤を吸収するトラップ。これは俺が空間精製(リムーブ)するときの感覚を詳細に思い出して、その効力を地面に付与した。離れた場所で空間精製(リムーブ)ができる優れものだ。

 花火もトラップだ。火薬成分の組成は難しかったけれども、リオネルが知っていたのはラッキーだった。試行錯誤を繰り返して火薬玉を造った。それを、筒から打ち上げて破裂させる。夏の夜空のキレイな花火とまではいかなかったけれども、運動会の朝に上げる程度のものは造れた。ま、これから冒険者たちの大運動会が始まるんですけどもね!

 最後はカヨちゃんの言葉だ。俺の中にしか聞こえない彼女の声を、大音量で外に向かって流すトラップを造った。音を流すことは難しくなかった。所詮音なんて震動だからな。薄い膜を造って震動させればオーケーだ。カヨちゃんの声を再現するのと、音量を大きくするところで手こずったけどな。

 カヨちゃんはなぜか機嫌を悪くしてそれ以後言葉数が少なくなった気がするけれども、機嫌の良かったころを知らない俺にとってはなんてことはない。


《…………》


 はっ! カヨちゃんがにらんでいる気がする!

 アレか? 俺にだけ囁いていたいのに他の男どもに聞かせてしまったのがイヤなのかい?


《…………》


「リオネル、なんだかこの部屋寒くね?」

「私骨なんで温度とかよくわかりませんけども温度ってボスがコントロールしてるんだから暑いも寒いもないんじゃないですか?」

「そ、そうだな」


 カヨちゃんについて触れるのはもう止そう。これは開けてはいけない危険な宝箱である気がする。


「ともかくだな! インパクトとしては十分だし、声でも説明したし、最初のプレゼンテーションとしては問題なかったはずだ!」

「はあ」

「問題なかったの! 問題なかったのー!」

「はあ……わかりましたよ」

「わかってない! リオネルはわかってない!」

「なんか女の子みたいな駄々のこね方ですけどボスの格好はぼろきれまとった青白い成人男子ですからね」

「止めろォ! 俺が結構気にしてるところをピンポイントで突くのは止めろォ!」

「あっ、冒険者に動きがありますよ」


 俺は監視部屋の窓から見下ろした。




――――――――――

*アルス*

――――――――――




「あっははははは! あはははははははは、なんだこれ! なんだよこれ〜!」

「ア、アルスさん……?」


 アルスは笑い転げていた。

 びびって逃げたのがバカバカしかった。


「あー……もう、涙出てくるほど笑ったわ」

「い、いや、アルスさん、これ笑い事じゃないんじゃ……? 俺、こんなの見たことないですよ」


 冒険者のひとりが言うと、「俺も」「俺もだ」「私も」となぜか兵士も言ってくる。


「アルスさんにはこれがなにかわかるんですかい?」

「当然だよ」


 アルスに、視線が集まる。兵士だけじゃなく兵士長までも。


迷宮(ダンジョン)さ。それも、ホークヒルという名の」


 にっこりと、アルス。


「えーっと……そりゃそうなんですが、アルスさん」

「これはダンジョン。それでいいじゃないか。ねえ、兵士長?」

「む?」

「ここがダンジョンなら僕らの出番、そうでしょう? 兵士長たちは山賊退治だ」

「ああ……ま、まあ、そうだな……」


 アルスが言ったことは正論だ。

 ダンジョン探査は基本的に冒険者の仕事。兵士はもともと山賊の調査と退治のために来ている。しかしそれでも興味がそそられるのか、兵士長はホークヒルをちらちらと見ている。

 これで、よし。兵士長の言質は取った。

 アルスは内心では快哉を叫んでいた。スケルトンが出た場所だから、死霊術師がいるのだろうと思っていたが、それ以上だ。迷宮だ。迷宮があるのだ。しかも新迷宮だ。誰も見たことがない、こんな迷宮。

 ダンジョンから産出する宝石、装備品、装飾品、書物……これらはいつ誰がどうして隠したのか、わかっていることはそう多くない。ただ、迷宮主がいて、迷宮主が生きていくためにダンジョンがあると言われている。

 ここが手つかずの迷宮なら——莫大な宝が手つかずで残っている可能性が高いのだ!


「行こう。僕らは冒険者だ」

「お、おうっ」

「そうだな、行こうぜ!」


 アルスに率いられてぞろぞろとついてくる冒険者たち。

 こんなときでもアルスは保険を忘れない。

 手つかずの宝があるのなら、手つかずのトラップもまたあるのだ。

 最初に特攻するのは、少なくとも自分以外の他の誰かにしたい。


「ふむ……ダンジョンへの入口は、と」


 アルスが視線を巡らすと、地上部分がちょっと変わった構造になっていることに気がついた。

 まず、先ほど崩れた岩や土が見当たらない。

 周囲には草や土が飛び散っているのに。

 つるりとした壁面は見上げるほど高いところまで続いていて、頂上は大体50メートルほどだろうか? 中腹より上のあたりに「ホークヒル」の文字が彫り込まれている。

 ……なんだか、彫り込まれた中になにかがありそうな気がするが、空中浮遊(フライ)の魔法でも持っていないと確認は難しそうだ。


「なんか凹んでますねえ〜」


 のんびりとした声の女性冒険者が言った。

 そう、地上階は凹んでいたのだ。ダンジョンの入口……というわけではない。左右に100メートルほどに渡って、凹んでいるのだ。きれいに高さもそろっている。4メートル程度の高さで内側にえぐれているのだ。

 近づいてみて、さらにそれが異様だとわかった。


「……イス?」

「これテーブルだろ」

「カウンターもある」


 アルスの心がざわつく。

 ……なんだ、これは? まるで「今すぐここでレストランを始められますよ」とでも言いたげな……。


「奥も結構広いな。宴会できそうな大部屋があったぜ」

「宴会って、おいおい」

「あっちは細かく仕切られたスペースばっかりだな。こっちが宴会ならあっちは屋台か?」

「ねえねえ、向こうは階段があって2階に続いてたよ」

「2階ィ?」

「5階まであった。部屋があるから、そんならあっちは宿屋でもやれそう……アルスさん?」


 気づけばアルスは真剣な顔で考え込んでいた。


「……ここは、古代の町の跡なのか?」

「町の遺跡ってことですかい?」

「そうだ……」

「でも、なんか声が言ってたのは『迷宮』ってことっすよねえ」

「そう……それが気になる。大体おかしいじゃないか。迷宮にくっついてる宿屋に、レストランに、屋台に、宴会場!」


 びし、びし、びし、びし、とアルスが指差した。

 うんうん、と冒険者たちがうなずいた。


「非常識だ!」


 うんうん、と冒険者たちがうなずいた——とき、


「おおい、こっちに迷宮の入口があったぞ!」


 声に、全員が殺到した。アルスがその先頭だった。


「なに……?」


 そして絶句するのである。


『現在、ホークヒルは「初級コース」のみオープンしております。「中級コース」「上級コース」については冒険者の皆さんのクリア状況を見て順次公開していく予定です。

 入場料金:銀貨1枚

 ※本ダンジョンは命の危険はまったくございませんのでお気軽にご参加ください。』


 壁に貼られたプレートと、銀貨を入れられそうな穴を見て。


「……非常識だ……」


 アルスが呆然とつぶやいた。




――――――――――

*俺*

――――――――――




「ほらぁ! だから言ったじゃないですかボスぅ!」

「う、うるさい!」

「非常識なんですよぉ、ここは!」

「うるさい! 入場料を取ってなにが悪い!」

「非常識ですよ!」

「うるさーい!」


 冒険者たちの声は伝声管を伝って聞こえてきていた。俺は彼らの姿もなんとなく見えてるけどね。

 で、言い争う俺とリオネル。

 それを見つめる骨ども。俺が言えば俺を見て、リオネルが言えばリオネルを見る。かちゃっ、かちゃっ、と首の振られる音。


「え、えぇ〜〜……そんなに非常識だったか?」


 こくこくとうなずく骨ども。

 そうかよ。

 だからリオネルは骨どもを軍隊に仕上げたと……? いやいやいやおかしいから。その発想はおかしい。


「だって考えてもみろ、冒険者を呼び寄せて、お前らが押し寄せてぶち殺して俺がレベルアップ……ってちょっとイヤじゃね?」


 おい、そこの骨、剣の素振りすんな。なに「殺る気満々」アピールしてんだ。やらねーよ。やらねーから。そういうんじゃねーから。わざわざ「ホークヒル」とかブランディングしようとしてんだよこっちは。流血したらブランドじゃなくてブラッドになるだろうが。


「まーたボスのワケわかんない……戦略(ストラテジー)ですかあ?」

「すべてのプロモーションにはゴールが必要だ。それを叶えるのがストラテジーだ。当然だ!」

「はあ……」

「それをわからんクソクライアントどもが、やれ『コンバージョンが』だの『KPIが』だの抜かしやがって。覚えたての英語使いたい大学生かよっての。その前にゴールの設定が間違ってたら意味がねえし、長期的な視野を持ってだな……」

「や、ほんと意味わからないんで止めてもらっていいですか、ボス」

「そうでした、すみません」


 おっと、俺がまたしてもダークサイドに落ちてしまうところだった。ダースベ○ダーになっちゃう。勇者(スカイウ○ーカー)に討伐されちゃう。……ちなみにスターウ○ーズは未見である。ほんと適当なこと考えてるな俺。

 ちなみにただでさえ版権管理に厳しいスターウ○ーズは某ネズミ系メガカンパニーに買収されてさらに版権管理にうるさくなったのであった。このうるささに対抗できるのは日本だとジャニ○ズだけだな。以上、版権ビジネスあるある。


「合法的に金を得るにはこれしか考えられなかったんだよ!」


 そう、迷宮魔法は結構使い勝手が難しいことに気づいたんだ。

 まずダンジョン内じゃないとダメだから、庇のように出っ張りの内側にいろいろと設置しないといけない。あのレストランふうのエリアも、宿屋ふうのエリアも、ダンジョン内なのである。

 そしてトラップ。

 リオネルたちのように召喚したものは自立して動いてくれるけども、冒険者をぶちのめす、ということをやらないのであれば意味がない。

 となれば俺ができる手段はすべて「設置系」のトラップだけとなる。

 トラップだから設置すんのは当たり前だけどな。

 しかも「相手を倒す」のでは「ない」。

 だとすると……?


「やるっきゃない。異世界SAS○KE」

「サス……」

「それ以上言うな、リオネル。世の中、どこの何者が商標を登録しているかわからないんだぞ」

「? とりあえずボス、銀貨1枚払えば、ボスがひとりでしこしこ造ってたダンジョンに行けるってことですか?」


 ひとりでしこしことか言うなよほんとこのクソ骨。バカにしてんの? あん? 童貞バカにしてんの?


「……ボス、なんで私をにらむんですかね……?」

「べつにぃ? にらんでませんけどぉ?」

「あっ、ボス。銀貨払うみたいですよ!」


 ほんとだ。そんな声が聞こえてきた——。


《アルスさん、俺、一番乗りしてもいいっすかね?》

《……構わないよ? 僕はあとからついていこう……と思ったけど、どこに入口があるんだろうね》

《とりあえず銀貨1枚入れてみますよー》

《あっ》

《ああ!?》

《あれ……あれ? あいつどこ行った!?》


 銀貨が1枚投入された。

 そうして——トラップが、発動した。


《まさか……転移トラップか!!》


 大・正・解〜!

悲報:原稿ストックが切れた


……細かく更新もできると思うんですが、ある程度読み応えあってまとまって更新したほうがいいかなと思うので、2〜3日に1度の更新になるかもしれません。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  常識を疑われる主人公。  ダンジョンのお披露目の仕方は、爆笑ものでした。  『異世界〇A〇UKE』とか、腹筋崩壊です。  モンスターよりも迷宮主が非常識とか、面白すぎます。  この先の展…
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