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第12話 グランド・オープニング・セレモニー!

 ミリアはずっと寝ていた。夜が明けて昼になっても寝ていたのだから、なんかもう人間とは違う生き物なんだろうと思うことにした。わからないものをあれこれ考えても仕方ない。「思慮深きクライアント様がなにを考えているのか推測するなどおこがましいことであるブチ殺すぞアイツら」と酔ったはずみに営業が言っていたがつまりはそういうことだ。

 おにゃのこに触るのが怖いとかそういうことじゃない。断じてない。ないったらない。


「ボス、来たようです」

「!」


 迷宮司令室にいた俺に、リオネルが告げる。崖上にある監視部屋からの報告だ。

 待ちに待った——調査隊だ。


 山賊どもを追い払った翌朝、つまり今朝、乗合馬車が通りがかった。

 そこからは軽い騒ぎになった。

 乗合馬車が止まると、冒険者たちが街道に降り立つ。そして山賊を見つけてなにかを叫ぶ。山賊が縛られているとわかると近づいていき、なにかを確認した。山賊は目を覚ましていたようでなにかを話していた。

 冒険者はちらりと迷宮のある山を見た——うむ、うむ、我々のことを聞いたな? たぶん見たのはスケルトン歩兵部隊が飛びだしてきた場所と、弓兵部隊が撃った場所だ。そこはすでに俺が適当な岩で塞いでしまっている。

 それからは早かった。山賊のひとりだけを捕まえると急いで馬車に戻り、来た道を引き返したのである。

 死体や他の山賊は置きっ放しで。

 いつ俺たちに襲われるかわからないと思ったんだろう。

 で、町に報告に行ったんだな。


 それから数時間——待ちに待った「到着報告」。

 つまり、調査隊がやってきた。


「おおっ」


 監視部屋から見下ろす。

 町の方面からやってくる、10人程度の歩兵——おぉ……みんなそろいの鎖帷子だ。頭はとんがってる鉄兜。長い棒のてっぺんからぶら下がっている、赤色の旗。旗印まではよく見えないな。

 ひとりだけ馬に乗ってる……ん、その向こうはなんだ? 馬車? 乗合馬車っぽいけど——あ、そうか。朝の乗合馬車が出なかったもんな。歩兵は調査隊兼護衛ってところか。スケルトンに襲われないように。


「ボス、どうします?」

「無論、やる」

「…………」

「なんだね、リオネルくん」

「……いやあ、本気でこんなことやるのかなあ、って……」

「今さら怖じ気づいたとは言わせんぞ」

「そういうことじゃないですけど……」

「では準備しなさい」

「はい」


 のろのろとリオネルが離れていく。

 なにがそんなに気乗りしないのか。

 ただ迷宮を公開するだけだぞ?


「総員、準備はいいか!?」


 伝声管を持って俺が叫ぶ——ちなみに、伝声管を伝っても俺の声は直接骨に届かないので、結局のところリオネルの通訳が必要である。

 しかし何事にも気分が重要なのだ。気分が。


「迷宮公開10秒前!」


 兵士たちが近づいてくる。

 ちょうど草原が切れて、切り通しに入ってくるあたり。


「9! 8! 7! 6! 5——」


 そう、迷宮を公開するだけ。

 だからたいしたことはない——。


「4!」


 ワケがない。

 これはセレモニーだ。

 俺の迷宮が、この世界に華々しくデビューする、グランド・オープニング・セレモニーだ。


「3!」


 まずは第1印象。

 末代まで語り継がれる——と言ったら大げさだけど、これを見た連中が町に戻って話題にさ(バズら)せるくらいのインパクトが必要だ。


「2!」


 プロデュース俺。

 ディレクター俺。

 デザイナー俺。

 プランナー俺。

 そして参加者は——お前らだッ!


「1……あ」


 もう、公開が始まってた。

 あああああ、俺の言葉が通じないとやっぱりこれかよぉぉぉ〜〜〜。




――――――――――

*アルス*

――――――――――




 特級冒険者アルスは朝、北部方面へ向かう乗合馬車を逃していたために昼過ぎまで待たなければならなかった。

 そのせい——おかげ、と言っていいのか。

 冒険者ギルドに飛び込んできた情報を耳にすることができたのだ。


「東部方面乗合馬車が山賊をふん縛って戻ってきたみたいだぜ。しかもやったのはスケルトンだってぇ話だ。ごろごろ死体があったんだとさ」


 なんだって? スケルトンが山賊を?

 確かにあそこには山賊がいるという話だったが——スケルトンとどうして戦う?


「その話、ちょっと聞かせて欲しいなあ〜」

「う、うおっ、こいつぁアルスさんじゃないですか」


 これでもアルスは有名人だった。

 身長は165センチ程度と小柄だが、ブルーの髪に眼、魔法も使えれば剣も使えるという器用な戦闘スタイルで特級冒険者にまで上り詰めた。

 ちなみに「特級」というのは、ほとんどの冒険者が望める最上の階級だ。

 下級、中級、上級ときてからの特級。

 一応この上に星級というものがあるが、これはよほどのことがない限り与えられない。


「どうしてスケルトンが山賊と戦うんだい?」

「それは俺にもわかりませんや。どうも山賊がそうウタッてるってぇ話で」

「山賊は生きていたんでしょ? なぜ逃げない?」

「縛られてましたよ」

「乗合馬車の連中が縛ったんだろう?」

「いや、どうも乗合馬車の連中が言うには——たまたま俺の知り合いも乗ってたから教えてもらったんですがねえ」


 と、冒険者はアルスに話しかけられたのがうれしいのか得意げにぺらぺらしゃべる。

 その周囲に他の冒険者も集まってきた。


「もう、縛られて、転がされてたってぇ話で」


 それは——不可解だ。あまりにも。


「なんでスケルトンが山賊を縛るの?」

「……俺にはわかりませんぜ。骨どもの考えることは」

「ふむ——わかった。ありがとう」


 これ以上情報は得られないだろうと踏んだアルスは、周囲を見回すと、


「東部方面、誰かいっしょに行かないか? スケルトンが出たということは死霊術師がいるはずだ」


 ざわっ、と冒険者たちの間にさざめきが走る。

 それもそのはず。死霊術師がスケルトンを召喚している——山賊を倒せるほどの。となれば、とんでもない魔力の持ち主か、


「魔法宝石を持ってるかもね」


 一粒手に入れれば1カ月は遊んで暮らせるだろう魔法宝石を持っているか、だ。


「マジかよ。行こうかな」

「おいおい……山賊を殺すようなスケルトンだぞ。きっとすごい数が……」


 怖じ気づく者もいる。

 そこへアルスは続ける。


「領主様の兵士も出るだろう。山賊の残党を探すためにね」


 安全はこの町の兵士が担保してくれる——。

 となれば、冒険者である。


「行くぜ!」

「俺もだ、行くったら行く!」

「あーんっ、あたしのパーティーメンバー今日に限っていないんだけど〜!」

「アルスさん、行きましょうや」


 10人を超える冒険者たちが賛同した。

 アルスはにっこり笑う。


「ではみんなで乗合馬車へと向かおうか」


 ぞろぞろと冒険者を引き連れていく——なぜ、アルスはこんなことをするのか。

 危険(リスク)回避(ヘッジ)するためだ。

 基本的にひとりで行動するアルスは、不確定要素——今回の場合は「山賊に勝てるスケルトン」——がある場合には、少しでも危険が少なくなるように振る舞う。

 これだけ人間がいれば不測の事態があっても大丈夫だろう。


(少なくとも、僕が逃げる時間くらいは稼げる)


 冒険者が増えることで、得られた獲物が減ってしまうことは仕方がないと割り切る。

 これが生き残るコツだ。

 もちろん、うまく他の冒険者を出し抜いて魔法宝石を手にしてやろうとも思っている。

 さわやかな弁舌、無邪気な笑顔の裏。

 アルスはしたたかな打算を持って生きていた。




「ふうん、ここがねえ」


 アルスを載せた馬車は草原のなだらかな街道を走り、切り通しへとやってきた。

 領主の派遣した兵士たちに合わせているために速度はゆっくりだが、贅沢は言えないだろう。

 先頭をゆく兵士長が騎馬の足を止める。それに合わせて行軍は止まり、馬車も停車した。


「…………?」


 そのときアルスは得も言われぬイヤな予感を覚えた。

 馬車から飛びだし、背の高い草むらの陰に入り、身を伏せる。


「あれ? アルスの旦那、どこですか?」

「おっかしいな。さっきまでそこにいたのに……」


 イヤな予感があった場合、なにがなんでも身を隠す。たとえただの気のせいであったとしても——そうでなければ生き残れない修羅場を、何度も、アルスはくぐってきたのだ。


「えー、ではここから山賊が出たという領域に近づくが——」


 兵士長が兵士たちに演説をしている。

 なんだ……? このイヤな予感の元はなんだ……?

 草の陰から切り通しをうかがう。

 違う、そっちじゃない……。


「——練度の高い我々と山賊とでは戦いにもならないほどの実力差がある。貴様らは油断さえしなければ勝てる——」

「あれ?」

「なんだ……あれ」

「——こら、貴様ら、私語を慎まんか」


 あ——。

 アルスも、気がついた。


「兵士長、あそこの山肌——」


 兵士が言いかけたところだった。


 ガラッ……。


 ガラガラ……。



 ゴゴッゴゴゴガガガガラガラガラガラガラドドドドドドドドドドド!!



「うわああああああ!?」

「崖崩れ!」

「山だよ、山が崩れてきたんだ!!」


 アルスはすでに走っていた。背を向けて逃げていた。

 なんだ、なんだ、なんだ!? なにが出てくるんだ!? 竜か!? ゴーレムか!?



 ちゃ〜ちゃ〜ちゃちゃちゃ〜ちゃちゃ〜ちゃ〜ちゃ〜〜〜〜〜♪



「…………は?」


 マヌケな音楽。

 思わず足を止めた、アルス。


 立ち上る土煙。

 山は切り立った崖——というか、つるりとした壁面をこちらに向けていた。

 巨大な、巨大な壁だ。

 そこに——彫られていた、文字。


『ホークヒル』


 打ち上がるなにか——魔法だろうか——ぽんっ、ぽんっ、と大空で弾けて小さな光と煙が散る。


《——ここはホークヒル。一攫千金を夢見た冒険者たちの、夢を叶えられる場所。失敗しても命は失わず、ケガすらしない。ここは理想の迷宮なのです——》


 女の子の声が、聞こえてきた。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 風に乗って土煙がこちらにやってくる。

 それを浴びても、たっぷり1分は誰もなにも言わなかった。


「……なんだこれ?」


 若い兵士が言った。

 その言葉は、すべての人間の思いを代弁していた。


ついに公開される迷宮!

次回、「迷宮無双」(なにかがまちがっている)

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― 新着の感想 ―
>次回、「迷宮無双」(なにかがまちがっている) こんな迷宮は二つと無い! という意味では間違ってないよ!(^^) 書店で本を買って、デジャブを覚えて 検索したら……大分前に読んでた小説だった!(^o…
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