第四章 其の四
フォルズスもユシリスも初めて聞く。
フォルズスというのは、現在のバルラス国王、つまり、魔王を虐待した前の王の実子で、第一王子。ユシリスは、妾に入った魔王の母親と、前国王の間にできた第二王子、つまり、魔王と国王というふたりの兄と、どちらとも血のつながりがある弟ということだそうだ。
そして、年の近いフォルズスと魔王は、昔から折り合いが悪く、そのために彼は領土もなにも相続せずバルラスを出たらしい。
「じゃあ、今の貧乏生活の原因ってことですね。でも、難しいですよねえ。魔王様、あの性格じゃ、頭下げて領土くださいとか、死んでも言えなそうだし」
「僕からすると、あの人はちょっと無欲すぎるけど。もうちょっとうまくやる方法はあるんじゃないかと思うけどね。だって、バルラスの東や南の領土は、ほとんど彼が攻め落とした領主達の国だったんですよね?」
聞くとドランはため息をついた。
「はい。その新しく併合した地方の領主達が、最近は次々と独立を宣言したり年貢を滞納したりしております。アルシス様がいらっしゃらなくなってから歯止めが利かないと申しますか・・・。ゴルタルド将軍が南は押さえておられますが、東の方は、かなり崩れております。
実は、今回はそのことでお願いがあって参りました」
お願いについては、魔王に直接話した方がいいということで、ドランは彼が回復するまでこの国で待つ予定だそうだ。
「ところで、セイアン人に会ったんだって? 帰り方、わかった?」
「あっ、そう。聞いてください。ひどいんです。やっぱりカルストル様の言ったとおり、あたしもセイアン人嫌いです」
ハナはカルストルに、ヤズーに会った話をした。
帰り方がわからない上に、女は見かけだけ、と言われた。それは、暗にハナにロディアの代わりになれと言われたのではないだろうか。
カルストルは興味深そうに目を見開いた。
「ハナとしてはどうなの? そういうの。魔王様にもし、相手しろって言われたら」
急に顔が熱くなって、必死で否定した。
「言わ、言われてないですっ! だって、いくらロディアさんの顔でも中身があたしじゃ嫌に決まってますってば。もーっ!」
「怒るほど嫌いなのか、あの人のこと」
「だだだ、だって、浮気じゃないですか、そういうの。あたしにとっては不倫だし。ロディアさんの旦那さんなんですよ?」
カルストルはちょっと考えたけれど、にこっと笑った。
「大丈夫だよ、子供産まれても、魔王様かロディアに似てるんだろうから」
「ええっ! なんで外国人、そういう考え方なんですかっ! 男はともかく女は気にしますよっ! ロディアさん、帰ってきたら浮気者って怒っちゃいますよ」
そうかな、とカルストルは考え込んだが、ドランは温かく微笑んだ。
「ハナ様がアルシス様のこともロディア様のことも、とても大切に思ってくださっていることがよくわかりました。突然のご境遇の変化で、ご苦労なさっておられるようで、お気持ちお察しいたします。私どもに、ご協力できることがございましたら、なんなりとお申し付けください」
「ありがとうございます。ええっと、ほんとは、小麦欲しいですけど、でも、魔王様いない時に勝手にお願いとかしちゃだめですよね。そんな、お情けにすがるみたいな」
ドランは真面目に首を振った。
「いえ、もし、ユシリス様の依頼をアルシス様が引き受けてくださるなら、小麦は支払われると思いますよ。詳しいことはまた、お戻りになられてからお話しいたしますが」
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