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第二章 其の七

 その日の夕食はカルストルも一緒で楽しかった。そして、いつもの食事に加えてチーズとワインが出た。

「すごい! 豪華です。これ、もしかしてカルストル様が?」

「そう。結婚一周年のお祝いのつもりでね。馬車じゃなくて驢馬ろばで運んだから少しだけど」

「ありがとうございます」

 感激してお礼を言うとカルストルは、たいしたことじゃないよ、と微笑んだ。

 食事の間、魔王とカルストルは、ずっと近隣の国の情勢についていろいろ話していたけどハナにはさっぱりわからなかったので、静かにチーズを味わっていた。結構臭いけど、とても味が濃く美味しかった。

 

 食事を終えて部屋に戻る途中、何人かのターラに

「ご結婚一周年おめでとうございます」

 とか

「御馳走様でございました」

 と声をかけられた。不思議に思って魔王に聞くと、

「ああ、カルストルにもらったワインをみんなに分けた。ハナの分が少なくなってすまない」

 と言われた。

「いえ、全然いいですよ。みんながあんなに喜んでくれるなんて。魔王様、気前がいいですねえ」

 ハナが誉めると魔王はちょっと厳しい顔をして軽く首を振った。この人は、もしかしたら、いい人扱いされるのが苦手なのかもしれない。


 カルストルは部屋に帰る前に、もう一度ハナを満面の笑みでハグしたので、ハナはまた緊張で硬直した。

「おやすみ、ハナ。僕は明日の朝、早く発つから君には会えないかもしれない。これから、バルラスとジェッキオにも行くけど、何かいるものはある? 少し先になるけど、探してきてあげるよ」

 本当にカルストルはこんな兄がいたらいいのにな、と憧れてしまうような人だ。

「あの、もし、鏡があったら。でも、高かったらいいです。この国、貧乏みたいですから」

「ああ、値段のことは気にしなくていい。どっちみち婚礼道具には入っていたはずだし。希望通りの物があるかどうかわからないけど」

「うう、ありがとうございます。そうか、ロディアさん、着の身着のままで嫁いだんですね。略奪婚だったから」

「いや、でも、宝石類はこれでもかっていうぐらいしっかり身につけてったけどね。全く、あいつらしい」

 やっぱり兄も兄なら妹もやるものだ。

 じゃあ、また、と、とびきりの笑顔を見せてカルストルは部屋に入っていった。


 魔王はハナの部屋の前まで一緒に来て立ち止まった。

「ハナは今日は何をしてきたんだ」

「豚の丸焼き、じゃなくて吊し豚を見てきました。怖いです」

 魔王は不思議そうな顔をした。

「ハナは人間を切ったり刺したりできるんだから豚ぐらい大丈夫だろう」

「いいえ、免許ないんで、まだそういうことしてません。それに、切ったり刺したりするときは、いきなりやるわけじゃなくうて、ちゃんと本人の了解もらって、手術の時は切るとこ以外は布で隠すし、あんまり怖くないです。目の前で剣を構えてこっちを狙ってる人間を、ずぶっとかばすっとかやるわけじゃないですよ」

 魔王は外の暗闇に顔を向けたまま、少し笑った。

「ハナ、おまえは製鉄所のこと、どう思う」

「え、あたし、ロディアさんじゃないから、あたしの意見なんか聞いてもしょうがないですよ」

「どっちみち、ロディアの意見で決めるわけじゃない。ただ、ハナは岩小人が見えるようだから」

 見えたと言っても、気のせいかもしれないし、と前置きしてからハナは答えた。

「あたしはいいですよ、自然保護ってことで。貧乏は嬉しくはないけど耐えられるし。魔王様は魔物達の棲む森を守りたいんですよね」

 魔王は微笑んで、そうだな、と言った。

 おやすみ、と言うと魔王は、今日はキスしようとはせず、ハナを部屋の前まで送ってくれた。

 エルシノアはいい国だと思った。いい国というのは、為政者が本当にその国を愛していて、国の人を大切にすることで、できるのかもしれない。

こんなことができるのに、どうして魔王は悪い人だとみんな、言うのだろう。


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読んでくださってありがとうございます。


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