9話
「あれはミストという魔法だ」
ジークフリートが聖魔法を唱える前に、手から出た霧の様な水魔法はミストと言うらしい。ジュンイチは先程の聖魔法の講義を受けていた。
「手のひらをかざして、ミストと唱えればよい」
???頭にはてなマークが飛び交うジュンイチであった。
「それだけですか?」
「こつは少し抑え気味にすることだな。わたしもミストの魔法を使えるまで随分時間が掛かった。それまではウォーターストリームの魔法が得意でな、聖魔法をするたび手からジェット水流が出るものだから、傷口を広げたりして大変だったわい、はっはっはっ」
いや、はっはっはっじゃないだろうと思ったジュンイチであった。とりあえず真似することにした。
「ミスト」
なんということでしょう!軽く唱えただけで、手のひらに水蒸気が立ち上った。
「ほほう、ジュンイチ殿は優秀だな。一発でコツをつかんだ様だ」
考えてみればブレーサーを装着している時は、水の温度を上げ下げしていたのであった。その時の感触を思い描けば、ミストの魔法は簡単にできるのであった。
「訓練すれば、この様なこともできる。ミスト!」
ぶおっという感じで、ジークフリートの周りに霧が発生した。
「これのコツは、身体全体を手のひらの様に感じることだ」
霧が晴れてからコツを教えてもらうジュンイチであった。ミストの魔法は帰ってからでも練習ができそうだ。取り敢えず、聖魔法を使えるようになりたいと思い質問してみた。
「それで、聖魔法のコツは何でしょうか?」
「ふむ、感じることだ」
「感じることですか?」
「そうだ。手の平からミストを患部に放出し、傷の状態を感じつつ、ヒーリングと唱えればよろしい」
「それだけですか?」
「傷の状態が感じられるようになれば、おのずと傷を治すことが分かって来ると思う。唱える時には様々な思いを感じるのだ。傷の汚れ具合、損傷の深さ、筋肉や骨などの歪みなどを一片に治す様にな。まずは一つ一つ行う様にすれば上達は早いだろう」
そういうとジークフリートはにこりと笑うのであった。
「それはそうと、ジュンイチ殿は戦士ではあるまいか?一度わたしと対戦してみないか?」
「イエイエワタシハセンシデハアリマセン」
誰がこんな筋肉馬鹿と対戦するものか、と思いながら固辞するジュンイチであった。
「ふうむ?何か強そうな感触があったのだが、また機会があれば申し込むこととするか」
呟きを耳にしても、聞こえませーんという振りをするジュンイチであった。
その後は怪我人も出なかったため、ジークフリートと握手をし(痛かった)、帰り支度をするジュンイチであった・・・
*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*
「僕じゃない、僕はやってない!」
魔王城では今、バンダル、オリン、ステファン王子が会議室に集まっていた。オリンがバンダルにステファンが封印を解除した様な言い方をしたため、ステファン王子は自分の身の潔白を証明しようとしているところであった。
「僕が来た時には誰もいなかったんだ。そして部屋についていたら鍵が開いていたんだ!」
「でも、それでしたら扉の中に入る前に人を呼ぶはずですよね?ステファン王子は私が見た時には、扉を開けて中にいましたよ?」
「鍵が開いていたから何か起こっているんじゃないかと思って、確認しただけだ!僕は何もしてない!」
「まあまあ、オリンさんもその辺にして下さい。ステファン王子も落ち着いて。今サマルカンド様や他の方々に連絡を取りましたから、みんなで話し合いましょう」
バンダルが取りなすと、未だ興奮してはいるがステファンは会議室の椅子に座った。最近城の業務で心労が溜まっていた後にこの状況が重なり、ステファンの気持ちは乱れに乱れていた。椅子に座り両手を握りしめ、じっと机を見る。その様子をバンダルとオリンは眺めているのであった。
直にバンダルの連絡が着いた者が到着しだした。当番であった各種族の英雄たちがまず到着し、次にサマルカンドが会議室へ入ってきた。
「報告は聞いた。封印が解かれたそうだな?」
「はい、サマルカンド様。申し訳ございません」
「レーコ達には連絡したのか?」
「はい。レーコ様、ケーゴ様、ユーマ様には連絡が着きました。直にいらっしゃると思います。ジュンイチ様とリョウ様には連絡が着いておりません」
「ジュンイチ達は今はいいだろう。レーコの到着を待とう」
そういうとサマルカンドは会議室の奥の椅子に座り、目を閉じた。
「サマルカンド様、恐れながら申し上げます。レーコ様達が到着なされる前に、状況整理をしておいた方がよろしいかと思います。まずは私オリンから申し上げます。サマルカンド様が当番された後、私が引き継ぎました。そしてサマルカンド様をお見送りした後、封印の間に戻ってきますと扉が開いておりました。鍵が開いておりましたので不安に思い中を覗いてみますと、ステファン王子が封印の近くにおられました。直ぐ声をおかけしましたが、封印が解かれたとおっしゃられました。サマルカンド様をお見送りしてから私が封印の間に到着するまで、そこまで時間が経っておりません。私が思うに、鍵や封印を解いたのはステファン王子・・・」
「そこまでよ!」
バーンと扉を開けて入ってきたのは、レーコであった。
「犯人はあなたよ!」
レーコは指さすのであった・・・