8話
結局自治都市には、翌日の朝9時に到着した。
前日、日が落ちる前に近くの草原で野営を行った。ジュンイチは携帯食を取り、ワイバーンは近くの野獣を狩ってもらった。夜間はまだ寒く感じるが、ジュンイチは大丈夫だ。近くにモンスターはいる様だが、ランクが低いのか、ワイバーンの近くにいるジュンイチの傍には現れることはなかった。ひと眠りし、日が昇ってから再び飛んで来たのである。
「そこの旅人、止まりなさい!」
「あー、おはようございます。ジュンイチと申します。帝国から連絡が入っていると思いますが、所用があって訪ねて来ました」
「何か身分証になるものは持っていますか?」
「ギルドプレートでいいですか?」
「ふむ、ちょっと待っててください、今確認してきます」
自治都市の周囲には見慣れた防壁が存在し、門に兵士が2人見張りをしていた。ジュンイチとワイバーンを見掛けると、来訪理由を尋ね、自治都市のギルドへ問い合わせをしてくれた。その後ワイバーンを預かってもらい、ジュンイチは聖ホーエンハイム自治都市の冒険者ギルドへと案内されたのである。
聖ホーエンハイムのギルドは、自治領で運営されており、帝国・王国の冒険者ギルドとは連携はあるものの、独自の機関である。それぞれの自治都市で運営方法は異なり、そこに集まる冒険者は職種が偏った者が多い。ここホーエンハイムのギルドでは、聖魔法の使い手が最も多く、このギルドから他の自治都市へ派遣することも多いそうだ。
ジュンイチはギルドへ案内されると、ギルドマスターへの面会を求めた。しばらく待っていると、面会が許された様だ、ギルマスの部屋へと通された。
「おはようございます。聖ホーエンハイムの都市へようこそ。私はギルドマスターを務めます、エリーと申します」
都市名からして、ごつい筋肉質のおじさんが出てくると思っていたが、優しいお姉さんの様だ。物腰は柔らかく、実に女性らしいギルマスであった。
「おはようございます。初めまして、ジュンイチと言います。帝国から案内を送って頂いたのですが、こちらで聖魔法を教えてもらいに来ました」
「はい、存じ上げております。帝王アルフレッド様直々に文書を頂きましたので。ここホーエンハイムでは教官となれる人物が多少おりますので、そちらをご紹介致します。失礼ですが、ジュンイチ様は水魔法が得意でしたよね?」
「はい、得意と言いますか、水魔法しかできません」
「本来ならば私が教えたいところなのですが、私は光魔法が主なので教えることができません。ではこれから水魔法を主とした教官をご紹介致しますので、そちらへご案内いたします」
そう言って立ち上がるエリーであった。慌ててジュンイチも立ち上がり、後に続いた。ギルマスの部屋を出ると、別棟に繋がると思われる渡り廊下を通り、ある研究室へと至った。
「ジークフリートさんおられますか?エリーです」
ドアをノックし、声掛けをする。少しの間の後、研究室の扉が開いた。
「ジークフリートさん、こちらが以前お話ししていましたジュンイチ様です。ご教授をお願いします」
「エリー殿、ご苦労様です。後は引き受けます。ジュンイチ殿、初めまして。わたしがジークフリートです。よろしく」
そこにはジュンイチが想像していた、ごつい、筋肉質の、おっさんがいたのであった・・・
「・・はっ、初めましてジュンイチです。宜しくお願い致します」
一瞬呆然としてしまったジュンイチであった。なぜこんな筋肉男が聖魔法使いをしているのか、などと余計なことを考えてしまっていたのであった。
「それではジークフリートさん宜しくお願いしますね。ジュンイチ様、またお会いしましょう」
そう言ってギルマス・エリーは自分の部屋へと帰って行った。
「それではジュンイチ殿、さっそくではあるが、聖魔法をお見せしよう」
「あっ、はい」
いきなりですか?と思いながらも、部屋を出て行くジークフリートの後ろをついて行くジュンイチであった。
「これから向かうところは修練所です。修練所は2か所ありましてな。1つは魔法鍛錬の場所、1つは戦闘鍛錬の場所です。この聖ホーエンハイムの都市にも幾人か戦士がおりまして、その戦士が鍛錬する場所です。多少荒っぽい鍛錬を行いますので、その横で傷を治してあげながら、聖魔法の鍛錬を行うのです」
その戦士たちは、他の自治都市から派遣された戦士が大部分だそうだ。この都市の周辺にもモンスターは出現する。ただ北は氷に閉ざされ、東西は海に囲まれているこの都市では、ランクの低いモンスターが時々現れる位だそうだ。その為、冒険者なりたての戦士見習などがこの都市へ派遣されるらしい。故に軽傷であるが怪我が多く、聖魔法の練習にはもってこいなのだそうだ。
「なあに、怪我人がいなければ作ればよいだけです」
何か怖いことを聞いたような気がするが、スルーしておくジュンイチであった。
「おはようございます!」
びくーーーっとした戦士たちは続いて、びくびくしたような顔つきで、それぞれジークフリートに挨拶を返していた。
「誰か怪我人はおりませんかな!」
これが地声なのだろうか、修練所いっぱいにジークフリートの声が響き渡る。
「ふむ、なければわたしが・・・」「あーー、ジークフリート様、先ほどこちらが怪我をしました」
慌てて1人を数人が指さし、答えるのであった。
「じゃあ、こちらへ来なさい。ジュンイチ殿、見てるがよい、これが水魔法から派生した聖魔法である」
患部に手をかざすとジークフリートの手から霧が発生した。
「ヒーリング!」
みるみる内に、擦り傷が癒えて行くのであった・・・