7話
「ステファン王子、まだ案件が残っております。執務室へ戻って下さい」
「うるさい!少しは休ませてくれ。後の業務は僕じゃなくても出来るだろう。後は任せた!」
その頃ステファンは、目の下に隈を作りながら、私室へと向かっていた。細かい議案もステファンに目通しさせないと気に済まないセバスは、悉くステファンにお伺いを立てるのであった。
セバスらしい細やかな計らいと言えばその通りであるが、まだ10にもならないステファンには、重荷以外の何物でもなかった。
「明日から少し僕は休暇を取るから、セバスに明日そう言って置いてくれ」
「承りました」
側付きのメイドにそう言うと、ステファンはベッドに飛び込んだ。ここ数週間、休みなく働いたせいで、心身ともに疲れきってしまったのだ。明日は誰がなんと言おうとも、魔王城に行こうと考えているのであった。
「セバス様、何も全てを王子に決めさせなくとも良いのでは無かろうか」
執務室へ呼び寄せた財務大臣が、宰相であるセバスにそう助言した。
「今が大事な時である。誰もが異を唱えなくなる時まで、頑張って頂かなくては」
王子の了承を得なくとも良い書類に目を通しながら答えるセバスであった。
翌日予定通りステファンは魔王城へと赴いた。朝食も早めに取り、セバスが来る前に魔法陣から転移した。魔王城に到着すると安堵のため息を一つ付き、そのまま封印の間に移動した。今日の当番はステファンが休む前であれば、自分の当番である。現在は他の方々が交代で当番しているはずだ。その人に言って交代してもらおうと思いながら、封印の間に到着した。
何故か封印の間には人影がなかった。通常であれば見張り番の人が必ず1人いるはずである。訝しく思いながら扉を確認すると、鍵が開いていた。こんなことは初めてである。何かあったのではないか、誰か呼ばなくてはと思いながらも、まず中を確認してみることとした。
そっと、扉を開けてみると、そこには、
破られた封印があるだけであった。
「何者だ!」
ステファンの後ろから怒鳴り声が聞こえた。
「待ってください!僕です、ステファンです!扉が、封印が解かれています!」
「・・・ちょっと待っていてください。『バンダルさん、すぐ来てください。封印が解かれました』ステファンさんそこを動かないでください。今バンダルさんを呼びましたので」
レーコが作成した封印が解かれ、リオンが解き放たれた。再び物語が動き出したのであった・・・
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5月に入り、ゴールデンウィークがやってきた。ごっそりの宿題は出されたが、またステータスを駆使して徹夜で最終日に行う事として、ジュンイチは朝から異世界に行く準備をしていた。今日から自治領に行くのだ。今年の連休は3日間、移動を含めるとあまり時間がない。聖魔法の触りだけでも学ぶか、もしくは聖魔法を知っている人への面通しだけでも出来れば、また夏休みにでも師事しに行くことができる。その為、早朝から準備を開始したジュンイチであった。
「じゃあ、お母さん、行って来ます」
「気を付けるんだよ。空を飛び過ぎてぶつかるんじゃないよ」
「いや、今は飛べないから大丈夫。じゃあ」
母への挨拶もそこそこにリョウの家へ行く。リョウの母に挨拶をしてガイアの城へ転移する。王女にも挨拶をして服を着替え、また転移して帝都の城へと移動する。まだそこそこ早い時間であるが、久しぶりに帝王に挨拶をしに行った。帝王は未だ忙しい身であり、こんな早朝にも関わらず、執務室で業務を行っている様であった。
「失礼します、ジュンイチです」
「おお、ジュンイチ殿、久しぶりだな。まあ掛けなさい」
「済みません、今回はご無理を言いまして」
「いや、ジュンイチ殿であれば何でもしよう。今までこちらの仕事にかまけて、ろくに礼もしていなかった故、こちらこそ非礼を詫びなければなるまい」
アルフレッドはそういうと頭を下げた。
「いえいえ、頭を上げてください。そもそも僕はあまり何もしていませんし、礼を言われることはありません。今回は自分の私用を頼んでいるのですから、こちらが頭を下げないといけません」
これが大人の会話なのであろうか、互いに頭を下げ合う2人であった。今回ジュンイチは帝都から自治領までの移動道具および、自治領への連絡を頼んだのである。移動道具はスターがテイムしたワイバーンを借りる予定であり、行く自治領は、聖魔法が盛んな北部の町、聖ホーエンハイム自治都市である。
一通りの挨拶を済ませた後、借りるワイバーンの厩舎に行き、そこの管理兵に寸借の申し入れを行った。機嫌よく受け答えをした兵士は、ワイバーンの元へと連れて行ってくれた。
「しっかり飛んでくれよ?」
ジュンイチはワイバーンの中でもおとなしそうな個体を選び、頭をなでながら話しかけた。管理兵に礼を言い、ワイバーンの背に乗って大空を舞った。久しぶりの空中飛行である。寒さは相変わらず感じない。自治都市までおおよそ10時間位かかるだろうとのことであった。途中で1泊野営でもしなければならないだろう。しかしジュンイチは、久しぶりの飛行旅行に胸を躍らせるばかりであった・・・