5話
「ステファン王太子、もう少し政務をこなしてもらわなければ困ります」
「分かっている!」
「国王が床に臥せって居られる現在、ブラウニー王国を導いて行くことができるのは貴方様以外には居られませんから」
「だから分かったと言っている!」
「・・それでは執務室でお待ちしております」
ブラウニー城へ戻ったステファンに、直ぐ現宰相が面会を申し出た。現在の宰相はもちろん交代しており、新しい者がなっていた。以前国王の執事であった男であった。名前をセバスという。
リオンの悪行が公となった後、国王は精神が壊されており、急きょステファンが国王の業務を代行することになった。第1の業務は人事であった。ステファンは、直ぐにリオンの息が掛かっていないセバスを呼び寄せた。彼は父が国王になった際、城を追い出され、その後は誰にも仕えることなく隠遁生活をしていたのだ。
「・・・早まったかな、はあ」
セバスは非常に良くやってくれた。業務としては表向ききちんとこなしていた様に見えていたが、裏では汚職を重ねていた大臣を罷免して、新しい大臣を就任させた。今までのヒューマン族至上主義を塗り替え、多種族共同の事業を発展させた。
それぞれ素晴らしい業績を積み重ねているのだが、全てをステファンの承認の元にさせようとしていたのだ。その為、全ての案件がステファンの元にやってくる。ステファンには魔王城に行くときしか、安らぐ時間が無かったのだ。
ため息をつきながら、執務室へと向かうステファンであった。
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「キズヨー、ナオレー」
今日もジュンイチはギルドへ来ていた。相変わらず傷の洗浄を行うジュンイチであった。
しかし、今日は少し目的があった。今朝勉強した方法を試してみようと思っているのだ。
人の血液の中にはかさぶたにする成分が入っている。フィブリンという物だ。それが周囲の物、赤血球や血管などを巻き込み、止血されているのだ。今回は止血を主にしてみようと考えているジュンイチであった。
「キズヨー、ナオレー」
まず、傷を洗浄する。少量の水を手と傷口の間に生み出し、傷周囲と創内にある汚物を除去する。その時、汚染されたかさぶたが取れ、少量の出血が起こる。血液中の成分を感じるようにジュンイチは集中した。自分の作成した水と患者の血液が混じり合った時、何かこんにゃくの様な感触が感じられた。それを出血している部位に集めてみた。
「キズヨー、ナオレー」
なんということでしょう!うっすらとした膜が出血部位に張り巡らされ、かさぶたの様に血液を止めることができた。
「ふう、結構しんどいな」
細かい作業となる。ジュンイチは1回の作業で疲れ切ってしまった。
「ジュンイチ君、疲れたかい?今日は休んでもいいよ?」
「いえ、もう少し続けます」
本当はもう少し止血術を試してみたかったが、今日は後は洗浄だけに留めることとしたジュンイチであった。
翌日からも再度止血術を試してみることとした。
「キズヨー、ナオレー」
棒読みの呪文と共に、傷をまず洗浄する。軽度の出血を認め、その中のこんにゃく様物質を感知する。その途端、急に疲労感が増した。負けじとこんにゃく物質を出血部位に集める。出血は止まり、綺麗な傷となった。
「どうも、フィブリンを感知する時に力が使われているみたいだな?」
今日も止血術は一人だけにして、後は洗浄だけ行った。帰宅し、晩御飯を食べ終えると、少し実験をしてみた。水に細かく刻んだこんにゃくを入れ、それを感知するのだ。洗面器に水とスライサーで細かくしたこんにゃくを入れた。右手を水に浸し、こんにゃくを感知してみる。浸しただけでは感知しなかったが、少し水を出してみると、こんにゃくのありかが分かった。そして、疲労感が体を襲った。
「おっと、この世界での魔法は禁止だっけ?続きは異世界でしよう」
そのままベッドに倒れこむジュンイチであった。朝、片付けてない洗面器を母親に見られ、怒られたジュンイチであった。
その次の日からは、ギルドに休みをもらい、王城で実験をすることにした。水に入れるものは別にこんにゃくじゃなくてもいいと思い、手近なところで綿をもらい、小さく刻んで水に漬けた。右手を桶に入れ、少し水を作る。そして目を閉じ、綿のありかを探る。自分の内部から神経が水の中に張り巡らされる様に、綿の位置が分かって来る。同時に疲労感が体を襲う。
カウンターを確認してみると、結構な量のMPが消費されている様だ。少しMPポーションを飲んで回復させ、再び同様の実験を行った。何回か行っていくと、徐々に慣れてきたのか疲労感とMP消費量が少なくなってきた。スキルアップしているんだろうなぁと思いながら、練習を続けるジュンイチであった。
「それって、水検知と言う魔法じゃないかしら?」
後にレーコに確認してみると、そういう魔法があるらしい。
「練習して行けば、自分の周りにあるものが目をつぶっても分かるようになるらしいわよ?」
「へーほーふーん」
聖魔法に近づいたと思っていたジュンイチは、多少がっかりするのであった・・・