3話
「おう、ジュンイチ、ちょっと顔貸せや」
放課後となり、さっさとギルドへ行こうと思っていたジュンイチは、久しぶりにDQN応援団に絡まれた。
「おう、ワタル君がそう言うんじゃけーさっさと来いや」
「そうじゃそうじゃ」
「えー、どうしたの?」
「うむ、ジュンイチの応援団必須ノートにも書いてなかったんだが、綾波様の心を揺さぶる応援をだな、したくなってな?」
「うんうん、それで?」
「いや、どうしたもんかと思って話しかけたんだ」
えっ、内容が伝わって来ないんだけど等と心の中で思いながら、
「あー、ワタル君はどうしたいの?」
「いや、こう、ぐわっとした感じで、それでいて心を揺さぶる応援をしたいなと思ってるんだが」
ぐわっとした感じってどんな感じ?と思いながら、
「あー、取り敢えず3人の人数ではぐわっとした感じは出しにくいんじゃない?まずは応援団の人数を増やして見たら?」
「それじゃあ綾波グループが増えるじゃんか」
「そうじゃそうじゃ」
「おー、そうだな。ジュンイチの言うとおり増やせばぐわっとした感じが出せそうだ」
「えっ、増やすの?ワタル君?」
「そうした方がいいだろう?」
「そ、そうだね、ワタル君」
「そ、そうだそうだ」
適当に出した案を真剣に話し合う3人を放置して、すすすと消えるジュンイチであった・・・
*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*
「最近ステファン王子が見張りをした次の日の結界が、少しおかしいようですが」
報告がバンダルに上がって来た。
「おかしいとはどんな風にですか?」
「どうも封印の門の鍵が外れかかっていたり、結界の石に小さな傷が着いていたりするそうです」
「・・・報告者は誰ですか」
「ステファン王子の次の日を担当するエルフです」
「まずはその方のお話を聞いて見ましょうか?」
そう言うとバンダルは、魔王城の執事にエルフの勇者を呼んで貰う事にしたのであった。
*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*
「キズヨー、ナオレー」
ぷっしゃー
「おお、ジュンイチ君、ありがとう」
ここは王都のギルドである。今は夕方。ジュンイチはDQN応援団を振り切って、ガイア王都のギルド内、救護室へやって来て、怪我人の治療をしているところである。
まず比較的浅い怪我、ダンジョンの入り口で滑ったという擦過傷の患者を紹介された。今彼の膝の傷に手を当て、水魔法を使ったところである。
「それではこちらに来て」
ギルドの救護員は、ジュンイチが水魔法を施行した負傷者を呼ぶと、傷口にポーションを振りかけた。
「ジュンイチ君のお陰で傷口が綺麗になるので、ポーションが少なくて済むよ」
そう、ジュンイチは傷口の洗浄をしているのであった。決して聖魔法を使えている訳ではない。最初の患者の時は加減を間違えて、辺りを水浸しにしてしまった。今は適量の水分を産み出し、傷周囲の泥などを除去している。
傷の洗浄は重要である。最近は現世の医学でも消毒よりは洗浄が重要と言われている。ジュンイチが行っている傷洗浄は間違った行為ではない。のであるが、
「うーん、さっぱり分からない」
水魔法を聖魔法に変換する術が、全くつかめないジュンイチであった。
「ご苦労さん、ジュンイチ君。今日はもう患者はいない様だ。帰ってもいいよ」
「お疲れ様でした。明日もいいですか?」
「もちろん、お願いするよ。こんなに傷を綺麗にしてくれるとポーションの使用する量が少なくてすむんだ。浮いたポーション代はジュンイチの給料にしてあげるね?」
「いやいや、それは・・・」
「貰ってもらわないと、僕がソフィア様に怒られてしまうよ」
「いやいや」
「いやいや」
2度3度のやり取りをした後、結局半額を受け取ることにしたジュンイチであった。
そして、次の日からも、
「キズヨー、ナオレー」
傷洗浄を行うジュンイチであった。
毎日2・3人の創傷患者を見させて貰うジュンイチであった。
色々な工夫を凝らしてみた。傷の治癒に心を集中させてみたり、詠唱のイントネーションを変えてみたり、魔法を出す自分の姿勢を変えてみたりしたが、全く無意味であった。
「キズヨー、ナオレー」
今度は、傷の泥に注目してみた。少し開き直り、どうせ洗浄するならばもっと綺麗にしてやろうと思ったのだ。傷口に入り込んでいる泥はなかなか取れない。強めの水魔法では痛みも増すし、傷を深くしてしまうこともある。正常の組織と汚染物質を分離させるのだ。
これが思った以上に難しい。小さな砂等は簡単に除去出来るのだが、潜り込んだ泥は組織に沈着してしまい、簡単には落ちないのだ。しかし聖魔法を使うよりも、ジュンイチには落とせる自信があった。下水道やトイレ掃除で培った職人根性の様なものである。
「キズヨー、ナオレー」
もはや詠唱は口癖のような物であった。今ジュンイチの頭には泥を分離することしかなかった。
「キズヨー、ナオレー」
そして、徐々に徐々に、ジュンイチが洗浄した傷は、汚染が少なくなるのであった・・・