2話
「変わったことは無かったですか?」
「はい、カムリ殿」
「では、今度は私が見張りを引き継ぎます」
「まだ私、バンダルが受け持ってもよろしいかと」
「いやいや、以前取り決めをした様に廻しましょう」
ここは魔王城、サマルカンドの城である。レーコ達が封印し、ケーゴが建てた魔族の土地にある、立派な建物である。今では四人の部族の英雄とバンダル、そして、ステファン王子以外にも多くの召し使いが在住している。
食料は爺様が作った魔方陣を通し、様々な食材を取り寄せている。お金は各部族長が出している。それは税金の形こそ取っているが、実質はリオンの封印をサマルカンドの世界全員が負担すると言う、善意から成り立っているものであった。
今日もかなり早い時間からゴブリン族の英雄カムリがやってきて、見張りの交替を迫っているのであった。バンダルは畏れ多くという感じで、交替をお願いしたのであった。
「時にサマルカンド様はお元気でしょうか?」
「はい、ジュンイチ殿の世界で楽しくされている様です。今度の日曜日には帰ってこられると仰られておりました」
「はー、それはそれは、良いことですなぁ」
ジュンイチの世界で暮らすサマルカンドの姿を想像し、優しい気持ちになるカムリ達であった。
最初はサマルカンド一人でこの封印場所を見守るつもりであった。しかし、バンダルを始め各部族の英雄が自分もすると強硬な姿勢を示し、やむを得ず7日で回す事になったのである。サマルカンドは、日本の日曜日が受け持ちの日になるのであった。
「その他の方々はいかがですかな?」
「皆さん頑張って居られますね。特にステファン王子が根を詰めて居られる様です」
「あまり始めから頑張りすぎるのも考えものですな。特に彼は幼いですし」
「そうですね、今度お会いしたらそれとなく休むようお伝えしましょう」
バンダルはそう言って、城の自分の部屋へと帰るのであった。
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ジュンイチは早速家で人体解剖学の本を開いて見た。最初に描いてある骨格の図を見て、スケルトンみたいだななんて思っていた。人には約200個の骨がある。最初は骨の名前を覚えようとしたが、直ぐ無意味な事に気付いた。名称より形や繋がりが必要であるはずだ。
ひとつひとつの骨と繋がりをある程度覚えたところで、ふと、
「覚えてから実践するなんて、僕らしくないよなー」
と呟くジュンイチであった。
飽きたと言う事である。
取り敢えず、聖魔法とはどんな物か、教えて貰うこととした。
「傷口に手を当てて、魔力を流し込むのです。私は光魔力を流し込んでいます。そして、傷が閉じる様祈っています。そうすることで、傷が閉じて行くのです」
ユーマとくつろいでいたソフィアの元に行き、2人の邪魔をしながら、ソフィアに聖魔法の事を尋ねてみたジュンイチであった。
「光魔法を直接当てているの?」
「実際出ているのは光魔法ではないと思います。傷に向かい念じることで、聖魔法に変化しているようです」
「聖魔法を出すこつは、他に何かない?」
「・・はぁ、私にはこれ以上は分かりません。ガイアではポーションが優れているので、余り実践機会もないですし。ジー・サマーに聞いたらもう少し分かるかも知れません」
礼を言って、今度は爺様の元に向かった。王国と帝国は今魔方陣で繋がっているので、直ぐ辿り着くことが出来た。
「ほっほっほっほ、わしには聖魔法の事は分からん。レーコに聞いて見るがよい」
「爺様風魔法が使えるじゃないか」
「癒しの風を使えるが、余り得意じゃないのじゃ」
「レーコも僕には教えにくいって言っていたんだ」
「ふむふむ、じゃとすると、自治領に行った方がいいかも知れん。ここら辺はポーション作成が盛んなので、聖魔法は余り発展しておらんのじゃ。自治領の中でも聖魔法に力を注いでおる国があったはずじゃ。そこなら教えてもらえよう」
「どの位かかるの?」
「馬車で、ここから2週間と言ったところじゃな」
飛べないジュンイチはただのジュンイチである。移動方法とその為の時間をどう作ろうか、悩むジュンイチであった。
「取り敢えず、勉強しながら実践してみたら?」
結局レーコに相談してみた。レーコいわく、ギルドで実践させて貰えばいいんじゃないかと言うことであった。そして、まとまった休みが取れてから、聖魔法を習いに行けば良いと言った。
「私も人の身体構造を理解しているから、なんとなく聖魔法が使える様になったんだし、今更ジュンイチに教えることも難しいのよ」
やはり、レーコでも聖魔法を教えるのは難しいらしい。ジュンイチは言われるように、ギルドで実地訓練をさせてもらいながら、自己流で聖魔法を取得することとした。
場所は王都のギルドでさせて貰えることになった。ソフィアが口利きをしてくれたそうだ。今王都では、近くにダンジョンが出来たため、時折ギルドに負傷者がやってくるらしい。見習いとして、軽傷の者の傷を見させて貰う事になった。
「キズヨー、ナオレー」
次の日から、早速頑張るジュンイチであった・・・