10話
「レーコ、誰もいないところを指さして、どうしたんだ?」
「んー、一度言って見たかったのよねー」
「TPOを考えろよ」
レーコが指さしたのは天井であった。あっけにとられた面々に、にっこり笑いながら「冗談よ、冗談」などという、レーコであった。
「ごほん、レーコ様、お疲れ様です。だいたい揃われた様ですので、会議を始めたいと思います」
バンダルが議長を務める様である。
「まずは状況整理から始めたいと思います。昨日の当番であるサマルカンド様からお話をお願いします」
「・・・うむ、昨日の封印の状態はいつもと変わりなかった。扉はきちんと閉まっていた。中の封印の状況の確認を午前中の内に行ったが、先週報告があった様に小さな傷が確認されただけで、特に問題はなかった。きちんと鍵を閉めて、次のオリンと共に鍵が閉まっていることを確認し合ってから俺は帰った」
「次は私の報告を致します。サマルカンド様と鍵が閉まっていることを確認して、いつもの様にサマルカンド様を見送りに行きました。サマルカンド様は直ぐお帰りになられましたので、封印の間を空けていたのは短時間になります。帰ってみると、封印の間の鍵が開いておりました。そして中を確認すると、ステファン王子が壊れた封印の前におられたのです。その後バンダル様を呼びました」
「私は連絡を受けてから、直ぐ封印の間に行きました。封印の間の扉は開かれ、中にオリンさんとステファン王子がいらっしゃいました。封印は壊され、リオンと赤い石両方とも無くなっていることを確認致しました。その後召使を使い、この城の検索を現在進行中で行っております。また封印の間も検索いたしましたが、隠された形跡などはありません」
バンダルの説明が終わると、周囲の視線は次にステファンへ移った。ステファン王子は先程と同じように両手を握りしめ、机を睨みつけながらひっくひっくと泣いていた。その隣の席に、遅れて今到着したユーマが座り、背中をなでるのであった。
「さて、じゃあ、今後の事を考えないといけないわね。封印が解かれてしまったから、またリオンと赤い石を探すことから始めましょう。それから、私たちが預けた英雄の楔と固有武器は、こうなったら又返してもらうわね」
レーコが言い出すと、オリンが待ったをかけた。
「待ってください、レーコ様。まずはどうやって封印を解いたのか、解いたのは誰なのかを見つけなければいけません」
「ん?言ったはずよ、犯人は分かっているわ」
「誰なのですか?」
「まずは封印の説明をするわね。この封印は私と異世界のジー・サマーという魔法使いが共同で作り上げたもので、素材もケーゴが錬金した強固なものよ。これを解除できる者は制作現場を見ている者か、よっぽどの力を持っている者のどちらかしかいないの。制作現場は私を含めて3人しかいないので除外されるし、封印解除が可能な者はほぼ皆無なはずなのよ。サマルカンドでさえ、現在の力量では封印解除はできないはず。となれば、サマルカンド、ステファンには解除できないことになるのよ」
「・・・」
「ところで、この間エルフの里に行ったんだけど、英雄の楔と武器はエルフの族長が預かっているみたいなんだけど、なぜあなたが持っていないの?オリンさん」
「・・・」
「恐らくは一度英雄の楔を使用したはずね?でも使えなかったから族長に渡した、ということね。使えないということは、あなたはエルフの英雄ではないということになるわ。また固有武器でさえ使用できないのであれば、エルフでもないわね。あなたは一体誰?」
「ふふふ、何者かということも知っているのだろう?」
オリンは醜く笑った。
「全てを知っているわけではないわ。英雄の楔が教えてくれたことから、推測しただけよ。ただ、確認したかっただけなの。それに名前も知らないから、そろそろ名乗ったら?」
「くっくっく、この身体はオリンの物で間違いはない。だから私はオリンなのだが、操っている本体の名前を名乗っておこうかな?また会った時に分かる様に。名はベルゼと言う、見知っておいてもらおうか。しかしもう少しステファンを弄って楽しもうと思っていたが、こう簡単に暴かれるとつまらないものだな。この身体は最早用はないが、分体を捕らわれる訳にはいかないので、この辺で失礼するよ」
そういうと、オリンは白目を剥いた。そしてそのまま崩れ落ちるのであった。
「そこよ!逃がしちゃだめよ!」
レーコが叫び、皆がレーコの指先を見た。そこにはオリンの身体から飛んで来た、1匹の虫がいた。
「ウィンドショット!」
レーコがかまいたちを数個作り出し、虫に向かって投げつける。しかし小さな虫は命中することもなく、そのまま部屋の換気口を通って出て行った。
「しまった、逃げられた」
「あーあ、まあしょうがないわねー。分体があんな虫だったなんて思わなかったから、準備もできてなかったし」
「レーコはあれが何か知っているのか?」
「英雄の楔が教えてくれたわ。異世界の生命体よ」
ふと見ると、オリンであった身体は少しずつ崩れ去り、骨となって、そうしてその骨も砂へと変わって行ったのであった・・・