1話
『助けてくださーい、溶けてしまいます。助けてくださ・・・』
『お前に2度目があると思うのか』
『助けて下さい、御主人様。お願いです』
『石も無くし、それでも助けを乞うのか』
『お願いです、助けて下さい』
『そのみすぼらしい考えに免じ、命だけは助けてやる。人形としてな・・・』
そして、その身体は溶解することがなくなったのである。
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佐藤潤一は高校3年生になれた。
以前と異なり楽しい高校生活をしていた。友人も増え、親しいリョウも近くにいる。異世界への思いも薄れ、楽しい現世での毎日に埋もれていたジュンイチであった。
神田先生も持ち上がりで担任となった。
彼が何故この世界に来たか不明であったが、よくよく聞いてみればただ単に来たかっただけの様だ。最初はジュンイチ達への恩返し等と言っていたが、ガイアの世界もサマルカンドの世界も飽きたらしい。レーコにそそのかされて、興味本意でやって来たというのが本音らしい。
しかし、ジュンイチにとっては都合良かった。時たま寝過ごしたり、ちょっとさぼってもお咎めなしである。もちろん最近は楽しい毎日である。特にさぼろう等と考えた事はなかった。
そんなジュンイチに、レーコからの提案があった。
『ジュンイチー、いい話があるから、ファミレス集合ねー』
「だが断る」
『いや本当にいい話なんだってばー』
「いや断る」
『ちなみにリョウは人質でいるわよー』
「卑怯なり、レーコぉ!」
まあ、最初から断れるはずないとは思っていたが、リョウを人質に取るとは思っていなかったジュンイチであった。そのまま急いでファミレスへ向かうジュンイチであった。
「あっ、いらっしゃーい、ジュンイチー」
「ジュンイチ、久しぶり」
「ジュンイチ、先に食べてるわよ」
ファミレスに入るとリョウとケーゴもレーコの隣にいた。どうせ僕が支払いをするんだろうなぁと思いながら、パフェをぱくつくレーコの前でコーヒーを注文するジュンイチであった。
「それでいい話とは?」
「まあ、ゆっくり話しましょうよ。久しぶりなんだし。そっちの話を教えてよ。何か以前と変わった?」
「うううん、変わったことは無いよー。無事3年生にも成れたし、神田先生も優しいし、友達も良くしてくれるしねー」
「そうだね、レーコが聞きたいのは固有スキルが無くなったことだろ?僕なんかはこの世界で使ったことは、ペン回しの時位だったから、異世界に行かない限りは変わらないな」
「そう、ジュンイチはもう異世界に行かないの?」
「今は行く必要も、目的も無いからね」
「目的があったら?」
「実はそろそろ又行こうかなとは思っていたんだ。ただ、漫然と行ってもしょうがないんで、どうしようかなとは思ってたところだけどね」
「じゃあ、目的をあげるわ」
そう言ってレーコが取り出したのは、人体解剖学の本であった。
「何?これ?」
「見て分かんない?人体解剖学の本よ」
「いやだから何で解剖学なの?これで人体を解剖しろとでも?」
「ジュンイチは水魔法が使えるわよね?」
「ああ、そうだけど?」
「でも癒し系の魔法は使えないわよね?」
「そうだね」
「癒し系の魔法は風、光、水とあるけど、一番効率がいいのは水魔法なのよ、知ってた?」
「いいや?」
「癒しの水を使えるには、魔法使いに師事するのが一般的なんだけど、一番手っ取り早いやり方は、人体構造を知ることよ。それで勉強して、聖魔法使いになるのはどう?」
「・・・聖魔法使いになるのは、いい目標になるけど、この本読んで成れるの?」
「考え方次第よ。人間の身体は大部分が水分から出来ているのよ。ジュンイチは水を動かすことが出来るんでしょ?だったら人の身体を理解出来れば、聖魔法を使うなんて簡単にできる様になるわよ」
「ふーん、そういうものかな」
「まあ、騙されたと思って読んで見たら?聖魔法を使えなくても、医者位には成れるわよ?」
いや、それはさすがに違うだろうと思ったが、ここしばらく目標もなかったので、やってみようかなと思うジュンイチであった。
「じゃあその本一冊10万円でいいわよ?」
「あー、じゃあ僕は帰るよ。帰るよリョウ?」
「うそうそ、ここの食事代だけでいいわ。だけど、これで聖魔法を使えるようになったら、きちんとお返ししなさいよ?」
「ああ、分かった」
こうしてジュンイチは、また新しい目的のために、異世界へ行くことになったのであった。
「ところでレーコ達は何しているの?」
「私達も魔法しか使えなくなったんで、実は今、爺様の魔法学校に行っているのよ」
「えー、何でー?」
「私たちはそれぞれ一種類ずつしか魔法を使えないでしょう?だから、それぞれの魔法を極めるしかなくなったのよね。私もケーゴも、自分の魔法を発展させようとしてるのよ」
「・・・今まではステータスのお陰で無理やり高ランクの魔法を使っていたんだが、もう少し理屈に沿った魔法を覚えようとしている訳さ」
「そうすることで、少しの魔力で大きな魔法を使える様になれるのよ。もうじじいと呼んだらいけないわよ?」
彼らは異世界で学生をやっている様だ。
頑張っているんだなと思うジュンイチであった・・・
「パフェおかわり!」
ファミレスでレーコの声が響き渡るのであった・・・