渡したくない・・
「本当にそれでいいのだな、アステル殿」
「うん、それでいいわよね・・リカードさん・・ロッテちゃん」 アステルが有無を言わさぬ口調で言った。
「うむ、アステルが言うのならば、仕方がない・・出よう」
「アステル様がそう言うなら、ワタクシも出ますわ」
二人は同意した。でも・・いいのかアステルゥ-・・フウマが優勝したら・・したらフウマとアステルは結婚することになる。そんなあああのイヤダアアア
僕はいっきに食欲がなくなり、せっかくの料理を残してしまった。 他の皆は料理をキレイさっぱり食べ、フウマが皆の食事代を払い お食事処鋭利庵を出た。
「剣術大会まで、5日あるでござる それまで拙者の屋敷に泊まればいいでござる なーに遠慮しなくていいでござるよ そんなに広くはないでござるがな・・ガハハハハ」
本当いたれりつくせりだ。 気前良く食事をおごってくれたし・・家に泊めてくれると言う。しかし・・なんというか、強引な奴。人は悪くないのだろうが。
僕達は、いったんフウマやツキハと別れ街をぶらつく事にした。
「いいのか兄者、本当にあの娘を嫁にもらうつもりか?」 ツキハが桜の木にもたれながら言った。
「おう、そのつもりでござる あんな美しいオナゴ・・そういないでござるよ」
「規律に厳しい兄者が・・どこの馬の骨とも知れぬ娘を・・しかも かなりの 跳ねっかえりだ」
「そこがいいでござる・・拙者・・身分の違いや、生まれも育ちも関係ないでござるよ・・好きならばそれでいいでござる」
「・・俺は清楚で大人しい女がいい」 フワッと桜が風に散った。・・
噂の本人・・アステルが、皆に少し離れてズンズン歩いている。
何か声をかけづらい雰囲気だったが、僕は勇気を出して話しかけることにした。
「あの・・アステル・・」 「何よ」
「本当に・・その・・リカードさんとロッテが負けたなら、あいつのお嫁に?」
「リカードさんとロッテちゃんが、負けるわけないでしょ」 アステルが僕に微笑んだ・・それはそれはどこか儚げで、春の日だまりみたいに優しく綺麗な笑顔だった。
僕はこんな時、どんな言葉をかければいいのだろう。
あんな奴にあんな奴に、この笑顔を渡したくない。 あの時交じ合わせたキス・・を僕は思い出していた。
情けない話だが、僕は剣術なんかできない。リカードやランスロッテに頼るしかないのだ・・。
僕が凄腕の剣の達人だったならば、どんなに・・でも・・それはしょうがない事だった。
誰にも誰にも・・アステルを渡さないのに。
読んでいただきありがとうございます。




