思い出
ここはヨルクガンドの自警団の総本部にある牢屋。 あの男が捕らえられている。男の名はリカード・クレッチマン・・ 朝方の公園でアステル達を襲撃した男だ。 その後自警団・・街の青年団のグループに捕まり牢屋に入れられた。 白薔薇の騎士団の副団長であり、聖騎士である自分が何とも情けない。 リカードは うなだれていた。・・暗闇の中何もする事がないので・・ポケットから一枚の写真を取り出した。・・
女性は にこやかに微笑んでいる・・・蜂蜜色のブロンド・・空色の青い大きな瞳・・ ブロンドの髪を三つ編みにしている清楚で年若い・・美しい女性だった。 抱いている赤ん坊は丸々としていて よく眠っているように見えた。 マグダレーナ・・リカードは自分の過去を思い出している・・。 貧しいが幸せだった・・白い家・・小さな家だが清潔で いい匂いがする・・ リカードはその時24歳の若者だった。 女の子を出産したばかりの妻・・マグダレーナを気遣い・・リカードが台所に立ち料理をしている。・・マグダレーナは生まれたばかりの娘を抱き、子守唄を歌う・・泣いていた娘は コンコンと眠りに落ちた・・ そんな二人の様子を見つめリカードが微笑んだ。 今の苦渋に満ちた表情のリカードとは違う、優しい顔をした・・まだ少年のように あどけないリカード・・子ネコが寝ている赤ん坊の顔を優しく舐める。 「まあ、ダメよ・・リリー・・この子が起きてしまうわ・・」 マグダレーナは くすくす笑い・・リリーと言う子猫を優しく撫でた。・・・ 温かで穏やかな家庭を築き、幸せだった日々・・・ 「おい!飯だぞ」野太い男の声が牢屋に響いた。・・いきなり・・過去から現実に戻された。・・冷めたスープとカスカスのパン 看守が夕食を持って来た。 差し出されたスープに、リカードはパンを浸した。・・それと同時に・・ポタンとスープに涙が落ちた。・・リカードの涙だった。・・ あの幸せに満ちた日々に帰りたい・・時が戻せるのなら・・・。 しかし・・もう あの頃には戻れない・・帰れない。・・ リカードは、公園で会った少女を思い出していた・・セシリー・・ あの子は・・ 私の・・・ もう一度あの子に合いたい。 今どこにいるのだろうか・・ こんな所に捕らわれている場合ではない。・・ セシリーを取り戻さなければ。・・探さねば・・ リカードは瞬間移動の魔法を使った。 突然人が消えてしまった牢屋、無限の闇が広がり光りはなかった。
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