あたたかい
デトレフの両親が経営する小さなホテル「暁の家」小さいながら英雄たちが泊まった宿として、沢山の宿泊客が訪れた。 デトレフもその手伝いで連日、てんてこ舞い だったが・・客足も収まり始め やっと自分の時間が持てるようになった・・。 雨が降る静かな午後だった。いつも温暖な気候のヨルクガンドも、今日は少しだけ 寒く感じられた。・・ デトレフは自室で難しい顔をして、本を読んでいた。 「アルヒェミー」と言うタイトルの本で、難しく小さな文字が、びっしり並んでいる。・・ その隣で やはり、難しい顔をして本を読む ふりを している者がいた。 フブキである。 こっちは「侍の道の指南書」と言う、これまた小難しい本を読む、ふり を していた。 あくまで、読む ふり だ。 デトレフと一諸に いたかったから。 デトレフが自室で本を読んでいると聞き、強引にデトレフの部屋に押しかけた。 そして一諸に読書しようと誘った。 デトレフは ためらったが、しょうがなく思い部屋に招き入れた。・・ デトレフの部屋は男の部屋にしては、よく 片付いており・・この青年の几帳面さが うかがえた。 天体望遠鏡・・ラダ・ナークの地球儀・・沢山の本 何かの実験道具・・が、キレイに整頓されていた・・それらは、ホコリ一つない。 その部屋で雨の降る午後、 二人は静かに読書を楽しんでいた。・・ デトレフは横目で隣にいるフブキを見た ・・・フブキは相変わらず、難しい顔をして本を読むフリをしている。 デトレフはフブキに聞こえない様に、小さなため息を ついた。 デトレフには生まれてこの方20年間、彼女がいた事がない。 だから 女の子をどう扱えばいいのかわからないのだ。 デトレフは容姿は悪くないのだが、誤解されやすい性格・・その為少し変わり者に見られ、勉強・・研究・・実験の毎日・・そして宿の手伝いもしなくてはならない。・・女の子を自分から遠ざけていた。・・ しかし、ひょんな事から 自分に惚れてくれる子が現れた。・・ フブキである・・この変な言葉使いをする女の子は、自分を慕ってくれているようだ・・しかも・・こんな可愛い子に・・デトレフに とって女性に好かれるのは初めての事だった。・・だが素直になれない。・・・デトレフは早熟・・科学に関しては天才だったが、恋愛に関してはオクテだった。 そんな事を考えている内・・どこからか、寝息が聞こえる。 フブキだ。・・ どうやらフブキは眠ってしまったようだ。 やれやれ・・・デトレフが薄着のフブキに毛布を丁寧に・・かけてやる。 「そろそろ・・宿の手伝いをしなければ・・」デトレフは立ち上がり・・フブキを部屋に残して出ていった・・ しばらくして フブキが目を覚ました。・・ 「あれれ・・デトレフ殿は・・」もうデトレフは どこにも いない その代わり自分の体に毛布が かけられているのに気がついた・・。
「あったかいでござる・・デトレフ殿の匂いがするでござる・・」 フブキは毛布を抱きしめた・・。 いつの間にか雨は やみ・・青空になっていた・・。太陽が暖かい顔を出した・・。
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