コイン一握り分のプライド。
ジャスティン.ランベルト。あたしの剣の師匠。強くて、正義感がある優しい男。あたしは、剣の他にも、生き方や信念も、学んだ。
「フィオナ。どんな、強い相手でも、ひるむな。戦え。そして、弱い相手には、剣を向けるな、守れ。」
「この世に生きる価値がない奴は、いない。どんな奴にも、この世に生まれて来た、宿命が、役割がある。今を精一杯生きるんだ。」
剣の修業は、厳しかった。だが、あたしは、初めて、自分を人間として扱ってくれる人に出会えた。人生の師でもある、ジャスティン。あたしのプライドは、いつも、コイン一握りで、踏みにじられてきた。祖母に一握りのコインで、売春宿に売られて、コイン一握りで、男たちに買われた。それは、どんなに屈辱的な事だろう。人間として、尊厳を焼き捨てられ嘲られ。あたしには、もう何にも、価値が無いと、散々思わされた。しかし、ジャスティンは、あたしに、「強さ」と言う価値を与えてくれたのだ。
あたしは、ナタリアを捨ててしまった事を、悔いた。あたしは、大人になり、あの教会に行くと、ナタリアは、もう、この世にいなかった。あの時、運よく、教会の、シスターに拾われたものの、その後、はやり病で数年で、亡くなったらしい。あたしは、懺悔した。そう、あたしは、ナタリアの面影を、背中に引きずって生きていこうと。
そして、今、。… あたしは、ここにいる。
「フィオナ、どうしたんだ。君の事を、皆が心配している。」
リカードだ。あたしに話しかけてきた。
「何でもない。気分が悪くなっただけだ。アイツ⦅エステバン⦆が生意気だったから、懲らしめたんだ。」
「フィオナ、しかし。尋常じゃなかった。君は。」
「ふん。リカード。お前みたいに生まれながらにしてエリートは、あたしの気持ちなんて分からないさ。」
リカードが当惑したように、紫色の混ざる、ブルーの瞳を大きく開けた。その色は、どんなに、手を伸ばしても、掴むことのできない、青空のようだ。
そして、リカードの波打つウエーブのブロンドは、真新しい金貨のように、照り返す、太陽の光に、ただ、ただ輝く。
それが、宿命のように。
フィオナがどこか、悲しく言った。
もう、行こう、と。
…こんな状態で、まだ、見ぬ敵と戦えるのだろうか。
よく晴れた青空。ナタリアの瞳の色にも似ている。
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