愛の時代
セレーネとチユキはお互い見つめ合った。二人の存在はとても似ている。どちらも不幸な死に方をした、丘江詩音とフブキ・サクラに生き写しな事。そして、まだ、その死を受け入れられずにいる、彼女達を守る事が出来なかった事を、血の涙を流したい程後悔し、心の重大な傷となっている彼女らのボーイフレンド。 昴とデトレフ。 セレーネとチユキは抱き合う。白い肌とピンク色の肌が触れ合う。白い髪と赤茶色の髪が絡み合い混じり合う。・・・・・・・・ 二人は唇と唇を合わせた。とても心地良い。 いつの間にかチユキの、デッド・リーフに受けた鞭打ちの拷問の傷が無くなっていた。不思議な感覚だった。まるでセレーネに抱きしめられていると、菩薩・・・。そう菩薩だ。西方の聖母マリアにも似た存在、東方の観音菩薩に優しく抱かれている感じがした。チユキは以前、本で読んだ事があった。 遠い遠い東の国 には、観音菩薩と言う、存在がいて人々の心の支えになっている。慈悲の心、救いの道、と言う言葉が何故だか チユキの脳裏に浮かんだ。 チユキには、父親も母親もいない。この世に生まれた時から一人だ。無論、抱きしめられた記憶はなく、育ての親のデッド・リーフ。極めて残忍で狡猾な男・…が抱きしめてくれるはずも、優しい言葉をかけてくれるはずもない。愛されると言う事を知らない。それは哀しく余りにも不幸な事。かもしれないが、 同時に愛して裏切られる事もなかった。 白き自由の翼の為に、育て親のデッドリーフの為に、自分を慕う信者の為に。チユキは生きてきた。自分と言う存在を考えた事は一度もない。それでいいと思った。そのままで良いと。 しかし、激しい愛の感情が、チユキを包んだ。愛が欲しくなった。チユキは、セレーネの胸元にかすかに触れた。その時、セレーネは、チユキの頬を軽く叩いた。そして、軽く突き飛ばしてしまう。セレーネの謎の行動。チユキはキョトンとしてセレーネを見つめた。 そんな、チユキの視線を無視し、いたずらっぽく微笑みながら言った。 「ツキハ、あんたも来ない?。歓迎するわよ」
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