少女と白い廃墟
再び、ヒースランドの街ヨルクガンド・・死霊の棲家と言われる墓場。・・街の人々が、ぜったいに近寄らない様にしている場所の横に、白い廃墟・・やはりここも誰も近づこうとしない。白い朽ち果てた屋敷があった。
白い屋敷は、ボロボロで余りにも悲惨な有様だった。窓が沢山ある。しかし、どれも無残に割られていた。所々落書きの様な意味不明な言葉が、壁に書かれている。床は、ほこりだらけで、粉々の花瓶や本や絵画が所々散らばる。
普通の神経なら、こんな不気味な場所に、一秒たりとも居たくないはずだ。普通の神経なら。
だが、なんと・・この不気味な屋敷に住人が居るのだ。
この屋敷に似つかわしくな い少女が、壁側に座っている。強い癖のついた赤茶色の髪。背中の方まで垂らしている。そして真紅の瞳。幼い顔立ちに似合わない、胸が開いたヒースランドの民族衣装をきていた。
少女の名はチユキと言い、ヒースランドでは珍しい東方的な名前だった。
少女は普通の肉体ではなく、普通の食事では、生命の維持はできない。・・そこで・・ドクターデッ
ドリーフの処方した薬を飲まなくてはならなかった。・・
非常に味気のない食事が終わると・・チユキはべッドに横たわった。そしてため息をつく。
チユキは何者かの視線に気づいた。灰色の痩せこけた猫がこちらを見つめている。
大きな瞳を見開き・・こちらを監視しているみたいだ。
「ナーチャ・・そんな目で見ないでよ。」
チユキにナーチャと呼ばれた猫は、頷くように首をかしげた。・・・
ナーチャは墓場を彷徨いていた野良猫で、チユキに拾われたのだ。
「私もあんたも一人だから・・ねえ」
チユキの瞳が少しうるんだように感じて・・猫が寂しそうに鳴いた。
割れたガラス窓から青空が見えた。チユキは太陽の恩恵も青空の美しさも、自分には 関係がない事に気づいていた。
紅い瞳の・・チユキとは対極のブルーは・・どこか悲しげで、切なく感じていた。
少し前・・いや・遠い昔見た・・ような・・コバルトブルーの瞳を思い出していた。
それはチユキには、誰の瞳かわからず・・頭が少しクラクラしていた。
読んでいただきありがとうございます。・・