二人の男の黒い情念
僕達はミロク(アステルの変身した姿)に乗り、ヒンディールの南を目指した。皆、防寒着を着込み空飛ぶ獣ミロクにしがみつく。
ミロクは猛スピードで飛ぶので顔に吹雪が、あたり痛い。でも早く時の神殿へ急がねば・・。
すると、氷で出来た不思議な遺跡のような物が見えた。ここが、時の神殿か?。
「ここよん。ここがん、時んのん神殿よん。アステルンちゃん。」
セシエルがミロクにしがみつきながら叫ぶ。
やっとヒンディールの南にある時の神殿に、たどり着いた。
皆が投げ出されるように、ミロクから降ろされ、ミロクはアステルに戻った。
そこは・・時の神殿は・・全て氷で出来ていた。冷ややかな空気が辺りを包む。誰が造ったのだろうか、2体の巨大な氷で、できた天使の様な彫刻。翼の様な物が背中に付いている。顔のような部分は、のっペラボウで、どこか不気味な感じがした。その先には、やはり氷・・の美しい階段があり、そこから遠くを見上げると、氷の柱のような物が、そびえ立っている。
神殿は白い雪に、埋もれていた。寒々しい三日月がそれを見下ろす。
僕は寒くて凍えそうだ。心も。何故僕はここにいるのだろう。・・暖かい部屋が恋しかった。・・
詩音と居たあの部屋に。巻き戻せるのなら、あの日に帰りたい。もう、うんざりだ。危険な事に巻き込まれるのは。・・フブキやランスロッテの事も・・ラダナークの危機も、本当は僕には関係ないんじゃないか。・・逃げ出したい。アステルの事も信じられなくなっていた。ネガティブな何かが、僕の心に入り込んでくるようだ。詩音の柔らかく暖かい胸に顔を埋めたい。詩音・・詩音・・・
声なき僕の心の叫び。・・
もう一人・・苦悩する男がいた。デトレフだ。
やはり僕は禁句を犯したのだろうか。二人を生き返させたのは、間違い?・・。
あの日に時間を巻き戻したい。ランスロッテもフブキも本当に生きていた頃に。・・
特にフブキは、表情、心、言葉を失った。今思えば、リカードの作戦ミスのせいだ。アイツ畜生・・やはり・・お前のせいだ。
やるせない思いが、デトレフの心を覆う。そして蝕んだ。
リカードの娘・・セシリーの残酷で愛らしく、憎たらしい・・笑い声がデトレフの心の中で響く。
リカード・・死ねばいいのに。・・僕は、あの父娘に復讐したい。本当は。・・
どす黒い感情が、昴とデトレフの心に芽生え始めていた。
その時だ。二体の天使の彫刻が静かに動き出そうとしていたのは。
読んでくださり、ありがとうございます。