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羽田すぐる編

羽田すぐる編

 それは高校1年生の時の入学式の時だった。同じクラスの女の子に一目ぼれした。自己紹介でその子が

「藤本彩歌です。1年間よろしくお願いします」

と言った。

僕はその夜その言葉を何度も思い返していた。1年間同じクラスだったけど、一度おはようと言って分かった。彼女はすごく男子が苦手だった。僕はそんな彼女でも大好きだった。いろんなことを知ったりできたけど

2年は別のコースをわざと選んで同じクラスにはならなかった。話に行く事もできないし、学校で見かけることも少し減ってこのまま卒業するかなと思った。

藤本さんはこの年の学園祭で軽音部として出ていた。彼女の鳴らすキーボードの音やギターの音がボーカルの声よりも響いて忘れられなかった。軽音部の演奏を学校の図書室に行ってこっそり誰にもばれないように聞いたりした。かわいい藤本さんの奏でる音が頭の中から離れることはなかった。そして、僕と彼女の関係が変わったのは3年生になった時だった。

 始業式、僕はいつも通りに学校に行っていた。おはようと後ろから、友達の雄大が声をかけてきた。僕もおはようと言って、学校に入った。雄大は僕が藤本さんのことを好きだということを知っている唯一の友達で何でも話せる友達だ。

「お、すぐる今年も同じクラスだよ」

そう言われて僕はうれしかった。雄大とは高校に入ってから仲良くなったけど3年間同じクラスだ。

「おいすぐる、藤本さんも一緒だよ」

僕はうそだろと言ってみたけれど、藤本さんの名前があった。先生に聞いたところ、彼女のコースは人数が少なくて一緒になったらしい。僕は今年、ついているのかついていないのかよくわからなかった。最初のHRでまた彼女の自己紹介が聞けた。

「藤本彩歌です。よろしくお願いします」

2年前と同じ自己紹介だったけど、久しぶりに聞く彼女の声はすごくかわいいと思った。    

次の日から保健週間に入った。何でも藤本さんと一緒の行動ができるのはうれしい。友達と一緒に行動しているけど、それでも同じ空間にいれるのがうれしかった。僕の悩みは身長が165㎝しかないことだ。

「あーちゃん、身長伸びた?」

話しかけてるのは同じ軽音部のバンドメンバーで仲のいい鳴澤だ。

「うん、155㎝だったよ」

「あたしと一緒だ。あーちゃんまた身長伸びたね」

なるほど、鳴澤さんと藤本さんは同じ身長なのか。

低いと思えるぼくの身長も彼女より10㎝も高いならいいかと思えた。

僕は競技かるた部に所属していて毎年近江神宮で行われる全国大会に出ているが、去年の3回戦に行けたのが最高記録だから、今年は優勝したいと思っていた。

今年から軽音の練習している音楽室の隣で僕たち競技かるた部は練習している。軽音のとは雑音にしか聞こえないと思っていたが、練習してみると、彼女の音だけ聞こえてきてあとは集中すれば僕の耳には入ってこないと分かったので大丈夫だった。

彼女の音は僕にとっての応援歌だと思えた。部活が終わって、帰ろうとしたとき、藤本さんが音楽室から急いで帰っていった。どうしてだろうと思ったら遅れて出て来た一番仲のいい鳴澤さんが友達にこうつぶやいた。

「あーちゃん、本当に大変だよね。門限基本16時だもんね。部活がある時は終わったらすぐ帰りなさいだし」

「だよね、でも本当に音楽が好きなんだね」

そんな話を立ち止まりながら聞いていると、本当にお嬢様なのかなと思ってしまう。彼女のことは学校で見ている以外は何も知らない。もっと知れればいいのにと思った。

 遠足は今年、国立歴史博物館に行く事になった。学校に集合だったので、いつも通りに行くと藤本さんはまだ来ていなかった。

しばらくして、藤本さんが来た。白のブラウスに水色のトップス、花柄のスカートと本当にかわいい服装だった。いつもおしゃれな藤本さんが僕はすごく大好きだと思っていた。おはようと彼女に声をかけることはできないけれど、いつかは話せたらいいなと思っていた。

藤本さんは後から来た鳴澤さんと話し始めた。藤本さんは鳴澤さん以外だと森月さんと桜木さんぐらいとしか、話してるのを見たことがない。休み時間はよく、鳴澤さんと一緒にいる。

歴史博物館に着いても博物館の事より、藤本さんの事が気になって仕方なかった。その事をお弁当を食べながら雄大に相談すると

「すぐるは本当に藤本さんに恋してるんだね。じゃあ…付き合いたいんだ」

「でも…男子が苦手だし。分かるだろ男子に対してのあの話しかけないでオーラ全開で警戒してる感じ。付き合うなんて無理だよ」

「でも…頑張ってないじゃん。話しかけるのは無理でも、少しずつ距離縮めればいいんだよ」

そんな話の後まあ、無理だねそう言って僕たちは笑った。

藤本さんはお昼もカロリーを気にしているのかおにぎりを2個食べている。いつもはクリームパンだったり、たまにはお弁当だったり、料理ができるのかななんて思うと、本当に彼女は何でもそつなくこなすお嬢様なのかなと思ってしまう。

だって、クリームパンやほかのパンでも一口大にちぎって食べるのでかぶりついたりしないので本当にお上品だなと思った。

飲み物を飲むときでさえもお上品に飲むので本当にかわいいなと思っていた。

遠足が終わって、家に帰ってから彼女の笑顔を思い返していた。一つ一つの表情が頭から離れない。本当に藤本さんはかわいい。でも、僕は彼女と付き合うなんて無理だろと思った。

 中間テストが終わり、明日から修学旅行だ。藤本さんも行くみたいだし、本当に楽しみだなと思った。そう言えばこの間、映画観賞の時僕が真ん中の方に座っていたところ、藤本さんが森月さんと鳴澤さんと一緒に来て何を言うのかと思ったら、鳴澤さんが僕の方を見て

「羽田君だっけ」

「そうだけど…」

そう返すと、鳴澤さんは営業スマイルのような笑顔で

「席、変わってほしいんだけど、いいかな?」

僕は何も返せず、どうしようかと思ったら隣にいた雄大が

「いいよ。な、いいだろすぐる。3人だっけ。隣の人にも聞いてみるよ」

そう言って隣の人にも話をつけ僕は席を交換することになった。移動する時に藤本さんがボソッと

「譲ってくれてありがとう…」

そうつぶやいた。

僕は少しうなずいただけで、照れ臭くて、藤本さんの顔も見れず、移動した。

「雄大、ありがとう」

「よかったじゃん。藤本さんからありがとうもらえたし。きっと喜んでくれてるよ」

本当に雄大は優しくて気がきくし、僕はとっさの対応ができないけど、雄大はしっかりそういう事もできる。雄大も好きな人がいるのだろうか。

「雄大…好きな人いるの?」

そう聞くと、珍しく雄大は照れて

「いるに…決まってるだろ」

「誰?協力するよ。同じクラス?」

「いいよ…別にそういうのいらないし。告白するつもりもないから」

そうなのか。そう言われて僕は返す言葉も出なかった。

こっそり思ってることも幸せの一つ…という事なんだ。

映画観賞の後から今に至るまでその藤本さんの言った「ありがとう」の一言が忘れられなかった。明日は修学旅行…距離が少しは縮まればいいのにそう思ってしまった。

当日、学校で集合時間になるのを待っていると藤本さんが来た。

僕は彼女をちらっと見て思った。淡いブルーのカーディガンに白のブラウス、水玉のスカート本当にかわいい服装だなと思った。

飛行機の中では朝早かったからなのか藤本さんは寝ていた。

寝顔なんて初めて見たけど、小動物みたいですごくかわいかった。寝ても崩れない前髪を触りたいとさえ思ってしまった。

北海道に着き、少し観光してホテルに着いた。藤本さんは晩御飯の時もそんなに食べなくて

「楓、食べてほしいんだけど」

そう言うと、鳴澤さんがいいよと言って食べていた。

鳴澤さんは藤本さんが小食なのを分かっているらしく、たくさん食べていたけど、鳴澤さんは本当に誰よりもよく食べていた。

まあ普通の女子に比べてふっくらしているのはそういうことなのかと思った。

食堂でも結構食べてるし、女子っぽくない鳴澤と女子っぽい藤本さんのコンビってなんか面白いなと思った。

 翌朝、温泉に入ろうと思って廊下を歩いていると、こっちの方に藤本さんが歩いてきた。お風呂上りなのか髪は少し濡れていて、ピンクのルームウェアの服装は見慣れなくて僕はすごくドキドキした。

かわいくて…かわいくて仕方なかったけど、なんとか隠れようと思った。

でも…すぐに藤本さんは僕の眼の前に来てこっちを見て少し顔を赤くして

「おはよう…」

そう言って通り過ぎていった。

二度目に話しかけられたときちゃんと聞いて思った。彼女の高くてかわいい声やすべてがかわいすぎて僕は壁にもたれかかってなんだこのかわいい女の子はと思った。

お風呂で考えていると普段しない長風呂をしすぎて、のぼせてしまい、すぐに部屋に戻ってみんなが寝ている中で自分の布団に倒れこんだ。

今日は人生で一番ドキドキしていると思う。朝になって、バスの中で雄大にそのことを話すと

「よかったじゃん。案外すぐるの事気になってきてるんじゃない?」

そんな風には見えなかったけど、僕の事を認識してもらえていると思うとうれしかった。

修学旅行の間僕は何度も藤本さんの言葉を思い返していた。

藤本さんは友達と話している時に見せる笑顔はすごくかわいかった。

男子の隣には何があっても絶対座らないから席に座っている時は遠いけど、笑った顔はすごくかわいかった。

何度か話しかけられただけなのに僕はそれがすごくうれしかった。

けど…次はないんだろうな。

 修学旅行が終わって1か月がたったけど、本当に話をすることはなかった。と言うか、鳴澤さんと一緒にいるから、話声は聞こえてきたりするけど藤本さんはあまり話さない。でも笑った顔はすごくかわいい。

僕はもう2週間後ぐらいに近江神宮でかるた競技の大会がある。

今年は4回戦まで行けたらいいなと思っていた。期末テストが始まって、僕は頑張って勉強していた。藤本さんは勉強はそこそこできるぐらいなので、今回は僕も同じ点数をとれるくらいに頑張ろうと思っていた。

テストが始まってあっという間に最終日を迎えた。明日は球技大会だけど、藤本さんは来ないと聞いたので少し残念だった。テストは隣の教室での授業だから、行こうとすると不意に藤本さんが

「頑張って…」

と言った。僕は小さくうなずいた。外に出て雄大が

「話しかけられたじゃん。よかったな」

と言われて僕は

「藤本さんマジ天使」

というと雄大はまた笑ってよかったねと言って

「告白くらいはできるかもしれないね」

そう言われて僕は少し笑った。

今日のテストの結果はきっといい結果になるだろうなと思った。

球技大会の日、本当に藤本さんは来なかった。うちのクラスはやる気が全然なくて初戦で負けてしまった。

来週の終業式が終わったらすぐに、近江神宮に向けて出かけないといけない。藤本さん…終業式は来るかなそう思った。雄大にそのことを話すと、やさしく笑って

「来ると思うよ」

と言った。

雄大は僕が傷つかないようにしてくれている。放課後に部活で練習をしたけど、まったく札が取れなくて、先生に厳しく怒られてしまった。

全国に行くというのに僕は全然調子が良くない。

帰り道に少し考えて分かった。僕は藤本さんの存在が僕に力をくれていたんだ。隣の音楽室から漏れてくるキーボードの音や藤本さんの笑顔。それにいつも僕は力をもらっていたんだ。初めて藤本さんが学校にいなくてその存在に気づかされた。

僕は藤本さんという存在がないと何もできないんだ。そのことに気付いた今、僕はなおさら藤本さんに会いたいと思った。

 終業式の日、藤本さんは学校に来なかった。会いたい…会いたいと思っても会えなかった。明日の大会に向けて不安が募ってきた。

HR終了後担任の先生が僕の名前呼んだので僕が「何ですか」

と聞くと

「藤本の家に通知表とかを届けてほしいんだ。桜木も鳴澤も森月も今日休みみたいなんだ。頼むよ」

そう言われて僕は戸惑った。

好きな女の子の家に行く?

なんてハードルが高いことだと思って悩んでいたら

「やっぱり、無理か?」

先生がそう聞いてくるので僕は行きますと言った。

顧問の先生は夜まで待ってくれるらしく、僕は急いで地下鉄に乗り藤本さんの家に行く事にした。

地下鉄を降りてからしばらく道なりに歩いて、藤本と言う表札を見つけた。

ここが藤本さんの育った家なんだと思った。僕は少しためらったが家のチャイムを鳴らした。

はいと言って家から出てきたのはあの子に似た小柄な女性だった。

「何の御用ですか?」

僕を警戒しているらしく、少し訝しげに聞かれて僕は慌てて

「あの…藤本さん休んでたんで通知表とかを持って来たんです」

そう言うとその人は急に笑ってありがとうと言って

「聞いてますよ。遠いのにわざわざありがとうね。あの子なんか急に行きたくないって言い出しちゃって。お礼しなきゃ家に入って」

「いや…もう失礼させていただきます」

「何言ってるの。遠慮しないでいいのよ。彩歌も呼んでくるから」

僕は家に入ったら、絶対藤本さんを怖がらせてしまう。

これ以上彼女の警戒心を強めたくないと断ったが、半ば強引に家にいれられ、リビングのソファーに腰かけた。

しばらくして、藤本さんが入ってきて少し驚いた様子で

「どうしたの?」

と聞いた。

お母さんと同じ反応で訝しげそうに僕を見ていた。

あの時と同じピンクのルームウェアだったためすごくかわいと思った。

「先生に言われて、通知表とか持って来たんだ」

「楓とか悠里子とか朱音は?休みだったの?」

「そうみたいだね。ごめんね、家に入るつもりはなかったんだけど…」

「いいけど、何?」

「え…何って?」

「いや、何か聞きたそうだから…」

思った以上に普通に話す藤本さんを見ていると学校とは違う雰囲気に僕は少し驚いていた。

「いや、球技大会も来てなかったし…風邪?」

「違う…」

「じゃあ何?」

そう聞くと少し藤本さんはためらった。

そして大きくため息をついてこう言った。

「私、人生で初めて告白されたの」

「誰に?」

「生徒会長。なんとなくそんな気はしてたんだけど…」

「で…返事は?なんて返したの?」

「なんで…そんなこと聞くの?」

僕は少しためらってしまった。

今ここで藤本さんに僕も好きです何て言ったら振られてしまう。

生徒会長と同じことにはなりたくない。僕がしゃべらないでいると、藤本さんはまたため息をついてこう言った。

「断ったよ。だって私誰も好きになるなんてありえないから」

そっかとつぶやいて少しがっかりした。

男子が苦手なのはわかっていたけど、好きになるのがあり得ないという事は僕も可能性がないってことだ。

そんな中で、彼女は僕の方を見て

「それで、学校に行きたくないなって思ったんだ。けど…また、2学期から少し学校休むだろうけど、頑張って行くよ。ただ…断った後どうしたらいいのかわからなかっただけだから」

「2学期来てくれるの、待ってるから」

「…ありがとう」

映画観賞の時と同じありがとうが僕は少しうれしくて

「あの時と同じだ」

そうつぶやくと、藤本さんは不思議そうに

「あの時って?」

「いや…別にいよ。あ…もう帰らないといけないから」

「今日はごめんね。明日全国大会でしょ」

「知ってたんだ」

「毎年出てるから知ってるよ。頑張ってきてね」

「ありがとう。頑張ってくるよ」

僕は藤本さんの言う、頑張ってがすごくうれしかった。

彼女からさっき出てきたのがお母さんと聞いてびっくりしたがまだ30代らしい。

そのお母さんにも見送ってもらい、学校に戻っている途中で何度もそのことを思い返してしまった。 

明日はすごくがんばれそうな気がする。

 翌日、僕は滋賀県にいた。明日の個人戦に備えて、僕が出れない団体戦の方を見ていた。去年以上にレベルの高いと聞いていた通り、すごい人ばかりだった。

「あの人が明日の対戦相手だ」

そう言われて見た初戦の相手の人は、僕なんかよりレベルがかなり高かった。

将来はもっと上を目指しているらしく、僕とは意気込みも違う。

団体戦も優勝を決めて明日の二冠を決めるために僕と戦う。

僕は今年四段になったが彼は五段だ。完全なる優勝候補との対戦に僕はすごく緊張して夜眠れなかった。

翌朝、試合の時間となり、手札を並べたとき思った。記憶するのに十分な手札だった。

でも、現実はうまくいかず半分終わって僕の手札は5枚相手は3枚だった。

何とかしないといけないと思ったが相手が残り1枚になってしまった。

僕はあと4枚もある。何とかしなくては…

「住之江の…」

僕は読まれた瞬間に相手の陣地からとった。一瞬だったが僕の方が早く相手の陣地に僕は札を渡した。

「難波潟…」

そう読まれて僕は陣地にあった手札を簡単にとった。

これで…あと1枚で追いつけると思った。けど…相手を本気にさせたらしく

「人はいさ…」

ここで相手は今までにない速さで僕の陣地からとり勝利を決めてしまった。

いいところまでいったけど、結局負けてしまった。

僕は外に出て少し泣いてしまった。勝てなくて悔しかったうえに藤本さんに頑張ってと言われたのに何一つできない悔しさもあった。家に帰ってから夏休みの間は何も手がつかず、夏休みが過ぎていった。

高校生としてのかるた競技の大会は全部終わったけど、大学で続けようという気にはなれなかった。

そんな中で夏休みが終わり、始業式の日が来た。

 結局…始業式に藤本さんは来なくて、会いたいけれど、何もできない自分がいた。

2学期、藤本さんは学校をよく休んでいて、体育祭も休んでいた。

僕が学校に早く来て、あとから藤本さんが来て教室に二人きりという事もあったけど、話しかけないでという雰囲気が強くて、話をすることはなかった。

そんな中文化祭が近づいていて、藤本さんは文化祭準備の間1日も来なくて、前日に僕は雄大にこう相談した。

「明日、賭けに出ようと思うんだ」

「何を賭けるの?」

「藤本さんが来たら…」

「告白するんだ」

僕の言うことがまるで分っていたかのように雄大はそう言った。そして、少し笑って

「いいんじゃない?明日は軽音もあるしきっと来るよ」

「だと…いいんだけどね」

雄大は急に僕の背中をたたいてこういった。

「大丈夫だよ。頑張れすぐる」

「ありがとう。頑張ってくるよ」

そして翌日、食堂に行くと藤本さんがいた。最近よくマスクをしていたからか、久しぶりにマスクを外しているのを見るとすごくかわいかった。緊張してるのを見抜いたのか雄大は

「で…すぐる、いつ言うの?」

「軽音の演奏が終わったら、言いに行く」

「頑張りなよ」

そして、僕は緊張を我慢しながら文化祭が始まるのを待っていた。

軽音が始まり、藤本さんはキーボードをきれいに鳴らしていた。僕はまたこの音が忘れられなくなるんだろうなと思った。そして演奏が終わると僕は雄大に

「行ってくる」

「頑張れよ」

そう言われると、いけそうな気がする反面緊張感でいっぱいだった。

僕も藤本さんに避けられるかもしれない。それでも…それでもいいから藤本さんに伝えたいんだ。

僕はホールを出て藤本さんの名前を呼んだ。藤本さんは訝しげに僕を見て

「何?」

と言った。

「ちょっと来て」

そう言って、僕は藤本さんと一緒に誰もいない教室に行った。

今度はさらに訝しげに藤本さんは

「何?」

と言った。

時間はもう限られているから、早く言わなきゃ。

「藤本さんのことが高校1年生の時から好きだったんだ。避けられてしまうかもしれないっていうのは分かってる。けど…卒業も近くなってきたしちゃんと伝えたいんだ。僕は藤本さんのことが好きです。僕じゃ…ダメかな?」

藤本さんは少し驚いて少し考えてから、こう言った…

早坂 航編へ続く。


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