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神様が性格チンピラで正直つらい

作者: にしすけ

この小説を読もうと思われた方、本当にありがとうございます。私がドンキーコングならば胸がつぶれるほどドラミングをしてその喜び興奮を表現したことでしょう。

このように時々こいつ何言ってるんだと思われる箇所があるかも知れません。その際は適当に斜め読みしてもらえれば幸いです。

「神様!聞いてください!」

「人間めが私の種族を絶滅に追いやったのです!」

「俺達の種族だって住む場所が年々なくなっているんだ!」

「人間の横暴を許すな!」


「外が騒々しいな。一体何事だ?」


外を覗いてみると大広場はたくさんの生き物でごった返していた。

それは人間ではない。獣のような輩から魚やら虫やら、果てには花や草木に至るまで意志を持つかのようにそこに集まりひしめき合っている。


ここは生物が普段暮らしている地表ではない。ここは地球の中心、コアである。私はそのさらに中心、コアの一番真ん中に聳え立つ巨大な神殿にいる。何千年も生きた大木のような巨大な石柱によって支えられた神殿。それは見るものを圧倒させた。


神殿前の広大な広場には大量の群集が集まっているようだ。あちこちでプラカードを掲げている連中もいた。

どれも人間に対するものらしい。『私達の清潔な住処を返せ』『奴らにNOを』『これ以上の侵略を許すな』

なかなか過激な文言がプラカードに踊っている。


『見るもおぞましい"奴ら"に天罰を』『一匹見れば奴らは十匹いると思え』

相当恨みは深いようだ。


『せめて飛ぶのはやめろ』『動きが早すぎる』

これは?


『黒光りが気持ち悪い』『奴らにホウ酸団子を』

……


『諸君、もういい加減ゴキブリは絶滅してもいいのではないか』

変な輩がどさくさに紛れて混じっているらしい。人間だ。つまみ出せ。


シュプレヒコールがあちらこちらで巻き起こっている。しかしてんでばらばらなのでお互いの声を邪魔しあい何を言っているのかはわからない。


そのとき三つの影が私の前を横切ろうとした。見覚えがある。

「おい!」

「あっ!っす。太郎さん。お疲れ様っす」


ちょうど行き過ぎるところであった。白のローブを着た若い男が振り返り、大きな翼を畳んで私の目の前に降り立った。

「やはりプロメテウスだったか。広場の群集について詳しいことはわかるか?」

「わかんないっす」

「そうか」

いつものことではあるが、その適当な言葉使いに顔をしかめざるを得ない。


「まあいい。とにかく神殿には一歩たりとも入れるな」

「わかってますって。おうお前ら行くぞ!」


神殿の奥にはこの星の主、神がいる。

そして私達はその神の使いであり、指示に従って動く。そう易々と通すわけには行かない。


「神様を出せ!」

「お前じゃ話にならん!」


怒号と共に五月雨のような投石が見えた。悲鳴が聞こえ、しばらくするといくつかの影がこちらに飛んできた。


「無理っす!あれは無理っす!勘弁してくださいよ太郎さん!」

「プロメテウス!三十秒も経っていないぞ」

「いや俺達もがんばったんすよ?でもあれは半端ないですから!」


「どうします太郎さん?あいつら人間界で言うタチの悪いクレーマーみたいになってますよ。神様ー!神様を呼んでください!」

彫刻のように彫りが深い顔をしたこれまた若者が真剣そのものの顔をして言う。

「エゼキエルよ、暢気なことを言っている場合ではないのだ。あと我らが神をコンビニの店長か何かと勘違いするな」

「ここは太郎さんが出ないと示しがつきませんよ」

「お前らは神の使いにも関わらず重さが足りないからそんなに舐められるのだ」

「重み重みってなんすか。冗談はその太った体だけにしといてくださいよ」

「これも貫禄をつけるためだ。断じて自分に甘いとかそんなのではない」


「第一、やつらは何なんだ?何かわかったか?見に行ったんだろう」

「ええ、それなんですが」

「エレミヤか。教えてくれ」

聞くものの気持ちをやわらげる高い声、さらさらとした長いブロンドの髪、パッチリとした双眸とその上に雪のようにふんわりと乗っかっている眉。使いの中でもその美貌は有名だ。

「外にいる群集はどうも人間に対する恨みが爆発したためやってきたもののようです。生き物達が地表で起きた問題の解決を求めてここに持ち込むことはよくありますが、今回はその数も願いの強さも桁違いです。ここは使いの中でも最高位である太郎殿が呼びかけてみてもらえませんか」

「よくわかったエレミヤ。お前だけだなまともな神の使いは」

「けっ、なんだよ。太郎さん。こいついい子ちゃんぶってるだけなんすから。だまされたらダメっすよ」


神殿から外をうかがってみる。

あちらこちらで喧嘩も起きているようだ。大分殺気立っている。これは確かに私が出ないと収まらないだろう。

柱の影から躍り出る。地平線のかなたまで広場埋め尽くす生き物を眼下にして目を閉じた。皆の脳中にテレパシー術で直接語りかける。


『生きとし生けるもの共よ、聞け!争いをやめて耳を貸すがよい!』


群集は急に静まり返った。突然頭の中に誰かの声がしたのだから驚いたに違いない。後ろとなりの声ではないと知ったとき、あたりをきょろきょろし始める。そしていつの間にか神殿の中央で仁王立ちしている巨漢が目に止まるのだ。


皆の視線が一身に集まっているのを感じる。しかしすぐに話し始めはしない。ゆっくりと十分に間を取る。誰もが次の私の言葉を固唾を呑んで見守る。聴衆をコントロールするのだ。


『そう、なぜなら……』


もうひと呼吸入れる。神の御前であるぞ、そう言い掛けたそのときだった。



『……今日の昼食は最高級甲虫入りリゾットでなくてはならないのよ!』

「む?」


自分じゃない。何だこれは?群集にどよめきが起きる。


「何だこれは?」

「ふざけるな!」

「勿体付けやがったと思ったらなんだ!お前の昼飯なんか知るか!」

「こっちは生きるか死ぬかの瀬戸際だ!泥水でも啜ってろ!」


よくわからないが最悪の言葉がもっともインパクトをつけて皆に届けられてしまった。群衆の苛立ちも一瞬でマックスに達してしまった。


『違う!これは違う!』


必死に皆の脳内にテレパシーを送り込む。


『違わなくない!私は今猛烈に甲虫が食べたいの!しかもとびきりの最高級品を!』


「だっ誰だ!こんな馬鹿げたことを抜かす輩は!」


思わず口で叫んだ。

小学生以下の応酬が始まった。


『貴様何者だ!場をわきまえろ!馬鹿げたことをするのはやめろ!』

『貴様こそ何者よ!私に刃向かうとはいい度胸ね!』

『名乗れ名を』

『貴様が先に名乗れ!』


群集は自分の頭の中で謎の喧嘩が始まったことに呆然としている。


周りを振り返る。誰だ。誰だこんなことをしているのは!しかし身元はすぐに割れた。


『エレミヤ様。甲虫の件確かにかしこまりました。早速地表に浮上し取って参ります!』


「あいつめ……まじめな振りして一番性質が悪いとは。それと、お前も誰だ!もう一人訳のわからん奴が入ってくるとは……」

『いいか、北米プレートのやつを取って来るんだ。また太平洋プレートの奴を取ってきたら……次は殺す。あと、くれぐれも皆に内密にな』


あの野郎……いや野郎ではないが。とにかくただでは済まさん。奴の姿を探したが見つからない。


「おーいエレミヤー。ばれてるばれてる」

「おいプロメテウス」

こいつはなぜこの場面でこんなに暢気なのか。


「何すか?」

「奴の脳みそに内密の意味を焼きゴテで焼き付けてやれ。その後亜空間に永久追放しろ」

「うっす。でも太郎さん、広場の奴らなんかめっちゃ怒ってますよ。本格的にヤバイんじゃないっすか」


「ふざけるな!俺達を愚弄しているのか!」

「もう我慢ならん!」

「突入しろ!」


今度エレミヤを奴の料理人もろとも神への生贄に捧げても問題ないのではなかろうか?

しかし今そんなどころではない。早くなんとかしなくては。


「神様に俺達の訴えは確かに届いているのか!」

「人間に正義の鉄槌を!」

「神様を出せ!」

「進め!」

「門を壊せ!」


神様を出せコールはやがて異様などよめきとなり、地響きが神殿を襲った。

「太郎さん!これはもう俺らの手には負えないっすよ。どうします!」


プロメテウスを軽く無視したが、言っていることは正しい。

仕方がない。しかし神に外界の者達の願いを取り次ぐなんて何億年ぶりだろうか。あれは地球が丸々凍ってしまったとき以来の気がする。


「神にお伝えしてくる!群集には待つように伝えるだけ伝えよ」


そういい残し私は神様の居室へ急いだ。プロメテウスもなぜか付いてきた。

この神殿の最深部、並の生命体なら姿を保てない凄まじい高温と高圧の空間にこの星を一身に背負う神がおわすのだ。

「やばいっすね。どうされるんです太郎さん?」

「……」


しかしとは言えさすがの神も普段は居室におわす。

ドアを開ける。執務机、いない。安楽いす、いない。

神はいない。

「いないみたいっすね」

「お散歩か?」

「いや、待ってください!神様オキニのランニングシューズがここに置きっぱすね。しかしこんな翼なんて付けちゃって走りにくくないんですかね?」

「馬鹿者それはランニングシューズではない!天空の靴だ!」

「なんか泥ついてますね。雑巾でぬぐってと」

「それは神の羽衣だ!お前それはわざとだろ?なに黙ってるんだそうだと言ってくれよ!」



「うるせえええ!」


どこからともなく声がしたかと思うとその瞬間私の体が意思に反してふんわりと浮き上がった。


「ふげっ!」


そのまま壁にビタンと押し付けられる。めりめりと体が食い込んでいく。胸が締め付けられる。息ができない。


「お前さあ、わかんねえのか?時間見ろ、時間!」

「はっ。申し訳ありません……」


肺に残った最後の空気を絞り出しなんとか言葉を発したところようやく開放され下に落ちた。

目の前に煙がもわりとしたかと思うと人型の物体が浮き上がった。ゆったりとした白いローブを身に纏った中年が現れた。目が大きくぎょろぎょろと辺りを見ている。


「神よ!騒々しくて申し訳ありません。しかし生き物達が広場に……」


「そうじゃねえんだよ!」


再び私の体は壁に打ち付けられた。


「昼寝の時間だろうが?!俺の昼寝だよ!」


「本当に申し訳ありません……」


昼寝を邪魔された八つ当たりが私に向かっている。急に頭に思い浮かんだ言葉はそれだった。

そんなわけがない。なんと言う不敬。全てを凌駕した神の気持ちを私ごときが推し量れるわけがない。

このようなことを思っている私は罰が当って当然だ。


「もういい。で何だ?」


「外をご覧ください。群衆が人間の横暴さについて訴えを起こしております」

「ん?」

「なんでも、人間に住まいを追われ、種族を滅ぼされたというものが多く集まっておりま……」

「あーいいよ。いい、いい」

「は」

「いや、いいって。帰ってもらえ」

「どういうことですか?」


「昼寝邪魔されたしな。気分が悪い。それに滅びるのは自分が弱いから悪いんだろうが。負けたくせにピーピー騒いでんじゃねえぞ。飲み水に毒ばら撒くとかしろ」

慈悲の心を母親の胎内に置いてきた様な言葉がたやすく出てくる。

継ぐ言葉を捜そうとするが何も出てこない。


「寝るわ」

と神は一眠りしたいような様子。食い下がるしかない。

「しかし、あの者たちは神を待っております。せめても神がご尊顔のひとつでも見せて下さればそれで納得するかと思いますが」


「何、一瞬でいいの?本当にいいの?」

「はぁ……」


その瞬間突風が辺りを通り過ぎた。私が瞬きをした瞬間、神の姿が点滅したように見えた。

「これでいいのか?」

「……?」


何が起きたのか私には理解できなかった。


「一瞬でいいんだろ?一瞬顔見せてやったぜ。外で揃いも揃って馬鹿面を並べてる奴らにな」


神はまるで幼稚園児のようなことを言う。いや、違う。私がこう思うのは神の偉大さに気付かないからだ。修行が足りない。

「神様もガキじゃねえんだからなあ」

プロメテウスのつぶやきが聞こえる。やはり奴にはすべてを超越する神のことがわかっていないのだ。無理もない。奴も所詮まだ仕えてから数万年しか経っていない。五百万年も共にした俺にもほとんどわからないのだから当然の話だろう。


「あ、いえ。ご尊顔もそうですが、せめて彼らに一言をいただけませんでしょうか」

「んだよ。面倒だな。ケルベロスを放って駆逐しろ」

「それは……」


「もういいだろ。さあ帰った帰った。俺は忙しい。わかるな?俺は忙しい」





「……はっ?!ここは?」

気付くと私達は神の居室の前に立っていた。いつのまにかワープさせられていたようだ。


「ケルベロスって地獄の番犬っすよね?神様もえげつないなあ」とプロメテウスがぼそりとつぶやく。


やはりプロメテウスは素人だ。神がそんなものを飼っているはずがない。ケルベロスとはあくまで何かのたとえなのだ。ケルベロスを放って駆逐しろ、つまりそれはおそらく群集のうちにある甘えの心、神に頼めば解決するという人任せの心を追い払えということなのだ。


「まったく、俺が五十匹も育てたのってこんなことに使われるためだったんすかねえ?」

「……」

「いやあでもよくよく考えれば簡単っすよね。さすが神様。確かに放てば一瞬で解決するよ広場のあいつら冥界行きですもんね」

「……」


「どうします太郎さん。ケルベロス放ちますか」

「そんなわけないだろう。どうするもこうするもない。なんとかなだめるしかないのだ」

「いやなんとかと言っても太郎さんも見ましたよね?あの殺気を。やっぱりケルベロスがいるんじゃないっすか?」

「いやいや。それはまずいと言ってるだろう」

「群集に殺されますよ。それならいっそやはりケルベロスを放ったほうが」

「何だお前。お前がケルベロス放ちたいだけだろうが。地獄に落とされても知らんぞ」


「太郎さん!何か音しません?」

「ああ」


さっきからドンドンと連続した音が聞こえていたが、耳鳴りかと思っていた。しかしその音は大きくなっていく。遠くからだ。


「なんだ?地殻変動か?」


耳を澄ます。聞き覚えのない音だ。コアの中からではない。


「あっ。太郎さんどこ行くんすか!待ってくださいよ!」


空が振動していた。波打っている。そのうねりはどんどん大きくなり、同時に頭が割れるような不快なかなきり音が耳を襲った。

「これは一体?!」



「またやつらだ!」

「人間の実験に違いない!」


あちこちで声が上がる。地下核実験だというものもいれば、地質調査のために破壊的な音波を地中に流しているというものもいる。


「何なんすか一体?!」

「人間の仕業らしいが」


そのときである。神殿の奥深くから爆発音が聞こえた。


「今度は中から?うわっ!」

衝撃波が容赦なく襲い掛かってくる。瓦礫の破片が身を切っていく。


サルのように高く、身の毛がよだつような叫び声が続いて聞こえた。

不意に風が私のそばを通り過ぎる。そしてしばらくして遅れて付いてきたかのように再び衝撃が身を切り裂いた。


「誰だ。俺の昼寝を邪魔したのは!誰だ!俺の昼寝を邪魔したのは!!」


「神様だ!神様だ!」


神殿の外で大きな歓声が巻き起こった。


「ああ!貴様ら下等生物に用はねえんだよ!気安く口利いてんじゃねえ!俺は今気分が悪い。失せろ」

急いで外に出るとそこには青筋を立てた神の姿が。

「神よ!さすがに言いすぎです!」

「太郎!それより今のは何だ!」

「皆によると人間の仕業とか」

「小惑星を落とせ」

「は」


「原始時代に戻してやろうではないか」


それを聞いて群集が沸き立つ。

「おい、聞いたか今の」

「前は恐竜が調子に乗ったとき隕石を落とされてたよな」

「六千六百万年ぶりか」

「待てよ、じゃあ俺達もどうなるかわかったもんじゃねえぞ!」

「しょうがない!人間の鼻をへし折るにはこれぐらいしないといけないのだ」


「さあ、帰ろう」

「小惑星が落ちても滅びないように準備をしないとな」


「おお。見てくださいよ太郎さん。帰るみたいっすよ」

「やれやれ。どうなるものか」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

しかしその後数年が経ったが何も起きなかった。忙しい日々に紛れて皆そのことをすっかり忘れてしまった。何より肝心の神が忘れてしまっているのだから仕方がない。とは言え好き好んで地球に小惑星をぶっつけたい輩がいるはずもない。私も忘れたならそれでよいと再び蒸し返すことはしなかった。


しかし抗議をした生き物達にとって人間の問題は喫緊のものである。あの日から五年が経過した今日、とうとうしびれを切らしコアの神殿前の広場、通称”神の広場”へと再び集結した。


「神様!どうなっているんですか!」

「私の住処がなくなってしまいました!」

「絶滅したやつもいるんです!」

「人間を懲らしめてもらえるんじゃなかったんですか!」

「神様!神様!」


柱の影から外をうかがう。

「太郎さんどうします。やつらまた来ましたよ」

「やれやれ。神はすっかり忘れてるだろうな。言うだけ言ってみるか。お前、いってこい」

「ええ、私ですか!」

「ああ。任せたぞ」


プロメテウスが神の居室に入っていく。


「うーわー!」

何かが壁に打ち付けられる音がする。やはり昼寝だったか。しかしこの数千年神が昼寝以外しているのを見たことがない。


「何だ太郎!自分で言いに来い!」


「神よ。五年前に小惑星を地表に落とそうとお考えになったのは覚えておられますか」

「なんだそれは」

「じゃあ結構です」

きびすを返し部屋を出ようとする。

「待て待て。そんな言い方されたら気になるだろ」

「覚えておられないならそれでよろしいと私は思います」


「いや、待て待て。思い出してみよう。三秒待ってくれ。よし思い出した」


神の力は絶対だ。起こったことすべては記憶され、その脳の膨大な数のファイルに収められている。それにアクセスしさえすればよいのだ。


「ん?そうだった。わしは宇宙をさ迷う小惑星を呼び寄せたはずだが。遅い。何をしておる」


「どうされますか」


「よかろう。わしがじきじきに向かうとしよう。人類に絶望を味合わせてやるとするか」

「これどこの魔王のセリフですかね」

不敬なプロメテウスには永遠の眠りの魔法がかけられた。


「お待ちください!わざわざそんなことをしなくても」

「プロメテウスにか」

「いえ、人間にです」


「いや、止めるわけにはいかん。昼寝を邪魔された怒りが今ふつふつと蘇ってきた。世界中の火山を噴火させてやろう」


私には不安しかなかった。もし放っておけば神は地表だけでなく地球自体に支障を来たすほどのことを仕出かすかも知れない。いや、する。

「それではこの太郎がお供しないわけにはいきますまい」


「では私も」

耳に心地よいソプラノの声。誰かと振り向く。

プロメテウスの代わりにしゃしゃり出てきたのはこの前群集の前でやらかしたエレミヤであった。

あの後何食わぬ顔で神殿内を歩いているのを発見したときは亜空間へ永久追放してやりたくなったが、奴を罰するとなると話の流れ的に小惑星を落とす件も蒸し返さなくてはならなかった。結局不問という形でここまで来ていたのだ。幸運な奴め。


ーーーーーーーーーーーーーー


「神様がいると一瞬で地表にいけていいですねえ。普段なら地殻を何千キロも地道に掘り進んでいかないといけないところでした」


そのまま成層圏まで浮上する。神は一番の高みから下界を見下ろしている。

「やれやれ。これが人間の支配する地表か。所詮は労働の上に成り立った窮屈な社会よ」

「神様のように四六時中寝て暮らす生活ができないのは哀れでございますねえ」

「お前今なんつった?」


エレミヤは悪気なくとんでもないことを言う。ある意味プロメテウスより性質が悪い。

「こっこれは人間界の悪き風に吹かれたせいでございます」

「そうか、それはますます滅ぼさねばならんな」


「神よ。どうされるおつもりですか。どこへ向かわれますか」

「うむ。とりあえず日本へ向かうか」

「はっ」


「どれ。まずは富士山とやらを噴火させてやるか。東京へ」


東京の上空高くに飛び上がった神は人々の脳中に直接語りかけた。


『人間よ。おぬしらは余りに己の欲望に忠実すぎた。よって天罰を下す。まもなく大地が大きく震え、溶岩が地を溶かすであろう』


「何だあれは?!」

「助けて!」

「どうすればいいんだ!」


人々は逃げ惑っている。街中はひどく混乱しているようだ。

「はっは!我が存在に怯えておるのだろう。ひれ伏せ!」

神の顔はもう見てられないぐらい悪役顔だった。しかし神は全能。魔王というものすら内包するのである。私はそう理解した。


「いや、神様。それはとんだ勘違いですよお」

「何?!」


エレミヤよさらば。今度こそ亜空間に追放されることであろう。もう見ることもあるまい。


「わわわ待ってください!待ってください。そういう意味ではありません!後ろをごらんになってください!」

「これは?!」


空を覆うばかりの小惑星が地球に迫っている。今にも手が届きそうなぐらい近い。


「おい!どうなっているんだ!聞いてないぞ!」

「いや、あれ多分神様が呼んだ奴ですよね。今その度忘れは止めてください!」

エレミヤが耳をふさいで叫ぶ。

「俺が地表の下等生物の前に姿を現してやっているのになんだこれは!普通神の姿を見ればこっちに注目するだろうが」


「あ、神様こんちはー」

「なんだお前この間呼んだ小惑星か!そんなことより何俺より目立ってるんだよ!」

「へ?でも俺神様に呼ばれてここまで……」

「うるさい!いいから帰れ!」

「ひどいなあ……五年もかかったのに」

軽い流れだがひとまず地球の、そして人類の危機は回避したようだ。


「いや、小惑星さんすいません。うちの神様こんななんで」

「五年も音信不通だったからおかしいなとは思ってたけど……ん?あれ?おかしいな?」

「どうした?」


「うーん!うーん!はー、やっぱりだめだ。すみません。もう抜け出せないみたいです」

「狭いとこで身動きできないデブみたいなこと言いますね。小惑星さんは」

「地球の引力が強くて。近すぎるようです」

「あの野郎!どんどん目立つつもりだな!」


なるほど。

神は怒る理由まで常人とはかけ離れている。私には理解できないがそれでこそ神なのだろう。

そんな私の思いを知ることもなく神はその手にパワーを集中させ始めた。


「そうはさせん!」

「神よ。どうなさるおつもりですか」

「決まってるだろ。あいつを叩き返すんだよ!」


神様が両手を広げるや否や集まった力がその手で一点となった。強大な一筋の波動が放たれる。


「これは!」

小惑星に真っ向から命中。その速度は目に見えて遅くなった。

「何するんですか!地球にぶつかってくれって言ったのは神様ですよ!」

「お前が帰らないというなら仕方がない。力ずくで帰ってもらう!」

「ひどい!」


「まだまだ!行くぞ!」

神がさらに力を入れる。

「うわっ!」

その瞬間光が世界に満ちた。大爆発が起きる。さえぎるものが何もない大気圏は熱風と衝撃波に晒された。


「くっ!」

どれだけの時間が過ぎただろうか。私の体はまだ存在している。

目を開ける。青い海、緑の大地が視界に飛び込んでくる。地球は無事だ。何も起きていない。


「これは?!小惑星が?!」


さっきまであれだけ近くにあった小惑星はそこにはもういない。はるかかなたにわずかに見える程度だ。そしてそれはさらにどんどん小さくなっていく。遠ざかっているのだ。


「神よ!やりましたな!」

「まだだ」

「え?!」


神が不適な笑みを浮かべたその瞬間、豆粒にまで小さくなっていた星はきらめいたかと思うと小さく空の中で爆発した。少し大きなもやが天体にかかり、それが収まったときにはそこには跡形もなかった。


「ひどい話ですねえ。地球に呼ばれていざ来たらこの扱いなんですから」

「エレミヤよ。お前もまだまだ神には及ばぬようだな」

「へ?じゃあ太郎さんはこれを倫理的に正しく説明できるんですか?」

「いや。できない。神だもの」


「なんだあのジジイは?!」

地上から人間の声が聞こえてきた。まずい。これが神の耳に入ったらそれだけで人類が滅ぼされかねない。


『神様!それ神様だから!』

全人類へのテレパシーを急いで飛ばす。


「え?!神様?」


「神様バンザーイ!」

あちこちで巻き起こる神様旋風。たちまちにして世界中の人間社会の話題を独占した。

神様は本当にいたのだ。各地で神様を祭るものが続出した。


「うむ。やはり神様はこうでないとな」


神は満足して人間に天罰を下すことなどすっかり忘れてしまっていた。

「太郎さん!神様は何のために地表に来たんですっけ?」

「さあね。神だもの」


ーーーーーーーーーーーーーーーー

プロメテウスは神殿の雑用係が足りないとかで永遠の眠りから叩き起こされることになった。


「うーん、ほんの少し前の記憶がないっすねえ。あれ?神様?どうしたんすか!確か私の最後の記憶では人間に天罰を下すって!」

「うるせええ!俺の昼寝を邪魔するな!行け!地獄の番犬!」


「ぎえええ!」

プロメテウスと目が合う。


「太郎さん!今日は血の何曜日っすかこれは!」

「今日は日曜日だ。俺はお休み。知らん」


つかつかと歩き始める。そうだ私は忙しいんだった。昼寝しなくては。

「え、太郎さん!何かキャラ変わっ、ぎゃああっ!」

「すまんな。忙しいんだ」


その後プロメテウスがどうなったのか私は知らない。この前台所でうつろな目をした使いを見かけたような気がしたが知り合いではなかった、ことにした。

それとエレミヤはいつの間にか亜空間に追放されていた。たまに帰りたいという手紙をよこすがそれも見なかったことにしている。

これから地球がどうなるのか不安で仕方ないときもあった。しかし今やこう言える。全ては神の御心次第なのだと。

この小説をここまで読んで頂きありがとうございました。

小説を書くのは苦しくも楽しいものです。と、短編一本程度でわかったつもりになるのが私の悪いところだと猛省しきりな今日この頃です。

なんとも遅筆で飽き性な私ですが今回は完成させることができました。その分自分も楽しんで書けたような気がします。

この調子で当面は短編に取り組んで行く予定(あくまで予定)ですので気が向いたらまたよろしくお願いします。

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