7.理由が欲しかった
『俗説といえど、仇なすと噂されたからには封じてしまえっ』
天下人とされ奥にいる存在だというのに誰が害するというのだろうかと一胴七度は、冷めた目で男を見ていた。一胴七度は、玉器となり自我を獲たが人を害そうと思ったことがない。
いつだって一胴七度が人を切る時は、人が一胴七度を振るってきた。人から恨まれるようなことをしなければよいのだ。
人という生き物は、馬鹿で愚かだと諦め一胴七度は、封印された。
それから月日が経ち金屋子神の命で封印が解かれた。
「ずいぶん諦めた目をしているな。お前は、よく切れるように願われた。使命を果たして幸せにおなり」
金屋子神は、刀剣にとって母のようなものだろう。それに覚えのある気配でもしかしたら一胴七度が玉器となった時にいたのかもしれない。
幸せになれと言われても何が自分自身の幸せかわからなかった。
月日がさらに流れ、金屋子神に巻き込まれる形で奇跡保護管理局に身を置くこととなった。刀剣が活躍した時代が過ぎ、物が溢れる世界になったのを感じていた。そして変わった世界で消えていく同胞も見てきた。
「俺は、なぜここにいるのだろう」
自我を持たなければ思わなかったであろう疑問を抱え続けた。
「あなたが大事にしたい相手が見つかれば良いのにね」
そう言った人間は、契約している玉器に微笑みかけていた。大事にしたい相手がいれば自分もあんな風に笑えるのだろうか。
そこから関わりが増えて愛称としてイチと呼ばれることになった。
「落としましたよっ」
彼女と初めて会ったのは、地下鉄の改札を抜けてすぐだった。彼女の手には、定期券を入れていたケースが握られていた。
「違いましたか」
顔色が一瞬で曇り、イチはそうだと言って受け取った。彼女は、つめていた息を吐き緊張していたのかほっとした表情をしている。
「よかった。別人に話しかけたかと思いました」
「わかっていて話しかけたんじゃないのか」
「見間違いかもしれないですし。でも後悔したくないから声をかけてよかったです」
善意に善意を返されることがないかもしれないと認めつつも、善行をしようとするのは明らかにお人好しだ。そう思いながら礼を言って別れたのが初めての出会いだった。
また会うことなどないだろうと思ったのだが時々見かけるようになる。落とし物を拾って渡しに行ったり、交番に届けているようだ。それと誰かが落としたゴミも拾って捨てている。
それも全て後悔しないためだというのだろうか。
「そもそもなんでそんなに見てるんだ。お前だって暇じゃあないだろう」
「なぜか見かけるだけだ」
「お前さんよぉ、見かけるっていうのも縁だぞ。それか契約者か恋か」
金剛が茶化すような声音でいうが全然面白くない。
「金剛ふざけるなよ」
「玉器なんて呼ばれちゃいるが俺たちは道具よ。道具と人をつなぐのは、縁さ。縁がなきゃあ出会えない」
金剛の話にも一理ある。それでも納得いかないのは何故なのか。
「お前さんの方が長生きしている分捻くれてんのかね。捻くれるのも必要なのかもしれねぇが縁ってのは簡単に途切れる。忘れんなよ」
「そんなんじゃない」
でもやはり彼女を見つけることが多かった。見つけるたびに彼女を知っていく。名前が山茶花ということ、大学生であること、夕方から夜にバイトしていること。
ある日、イチは喫茶店で本を読んでいる山茶花を見かけた。珍しい光景ではないが、ふと滲むような笑みを見て好きだと思う。
隣りにいって何を読んでいるのかと聞いたらお人好しの山茶花は、どんなによいものか教えてくれるだろう。誰かが好きに理由はないと言ったが自分は、彼女の雰囲気と距離感が好きだ。
「馬鹿みたい…な。いや馬鹿か」
金剛の言う通り山茶花の何かに恋したのだろう。テレビや話で聞く恋は、もっと熱烈でどうしようもなくて愚かだというからわからなかった。
ただし恋したとわかっても話しかけたり、会いに行くという間柄ではない。邪険にしないと思うが逃げ腰になりそうだ。
服屋の店員に声をかけられて断りながら逃げていた。一回落とし物を拾ってもらっただけだから服屋の店員と同じようなものだろう。
「そうだ弘樹に聞こう」
同じ人間で歳も近そうだから悪くない気がする。
「それで俺に聞きに来たのか。で、仲良くなりたいのがこの子? 素朴そうな子だな。それにアングル的に盗撮してないよな」
端末にいれていた写真を見せたが、弘樹に妙な心配をされてしまう。
「写真あった方が相談しやすいと思った」
「間違っても盗撮してるのバレたら確実に嫌われるからな。でも話を聞いてると大学とバイトと家を往復してるだけっぽいな。何かきっかけないと無理そうだな」
弘樹は、頭を抱えてしまった。
その後、いつ声をかけるか迷っていたら山茶花が事件に巻き込まれてどさくさで契約した。契約もまた縁ではあるので隣りにいていい理由が出来たのでこれから頑張ろうと思う。




