↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハナと◯◯な道具たち  作者: 猫田33
ハナと危険な道具たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/7

1.お腹減ったけど美青年を拾った

 引っ越してから半年やっと慣れてきた夜道だというのに不安で胸が潰れそうだった。走っているからくるしいだけでないのは混乱した頭でもわかっていた。少しでも早く自宅にたどり着きたくて足が痛くなっても走らなければならない。近所迷惑とわかっていても金属製の外階段を全力でのぼり鍵をさした。


「早く、早く」


 まだ冬が本格的ではなく手がかじかむことがないのに震えて開けることがままならない。安さに惹かれてオートロックにしなかったことを今とても後悔している。だがやっと鍵が開き安堵した。

 しかしカツンカンッと足と何か金属が階段から当たる音がした。きっとあいつだと背筋が凍る思いで扉を開けたが残忍な笑みを浮かべた男が腕を振り上げているのに悲鳴をあげられなかった。





 桜が咲くころに入学して葉が赤く染まりだした。山茶花の故郷から近くて遠いこの場所でも紅葉はするらしい。楽し気におしゃべりをする人たちを横目にバイト先へ行くために地下鉄へ向かっていると噂話が聞こえる。この都市に住む一人暮らしの女性を狙った変質者が現れている。大学でも注意喚起されているが夕方から夜の間にバイトをしないと生活が出来なくなる。


「なべちゃん、ご飯の準備してるって今朝言っていたじゃん」

「心配だから準備してきちゃった。一緒に帰ろう」


 なべと呼ばれた人物の瞳が一瞬光って見えて人間でないことがわかる。道具たちは、神の力や感情など様々な影響をうけて自我と人の姿を得る。自我をもった道具たちは、玉器となり人と寄り添ったり己の技能を使い働いたり様々だった。


『臨時ニュースです。政府公認機関 奇跡保護局より連続女性殺人犯が九十九による犯行の線があると発表されました。特殊犯罪となりましたのでより一層警戒するように発表されました』

「特殊犯罪……」


 田舎にいたときは、遠い世界の話しだったが人とモノが多い都市に住めば他人事でないことぐらい山茶花にもわかっていた。自我を持った道具が人を傷つけることもある。そういう害意がある道具は九十九神と呼ばれる。昔から知っている道具を思い出せばいまだに違和感しかない。



 バイトを終わらせれば、もう暗く街灯が道を明るく照らしている。それでも全てを照らすものではないため、暗がりに何が潜むかわからない。


「お腹減ったー」


 安くなったちょっと高いお弁当が買えてラッキーだ。自炊もするのだが揚げ物は、自分で作るより買った方が手間が少なく美味しい。


「タレがたっぷり油淋鶏ー」


 道の反対から人が歩いてくるのを見えて浮かれた調子なのを見られたかと焦る。しかしそれ以上に振り上げられたナイフに動揺した。手に持った弁当を投げつけて全力でにげる。

 今日という日が走馬灯のように駆け抜けた。死がまじかに迫っても会いたくなるような人物がいないのに思わず苦笑する。私という人間は、どこまでも自分が可愛く、他人を愛せないらしい。


「何笑っていやがる」


 山茶花の命を奪うはずの男は、アパートのライトに困惑した顔が照らし出されていた。望まないはずの死の間際に笑う女などいないだろう。でも私が好きな漫画の主人公たちは、ピンチの時こそ前を向いて笑うのだ。


「なんて顔で笑うんだよ」


 ナイフをもった男が何者かに殴られ吹き飛んだ。吹き飛ばした人物は、ナイフの男から山茶花を背にかばった。顔が見えないが、赤い髪に背が高い青年に見覚えがない。


「誰」

「君を守りに来たヒーローかな。危ないから下がって」

「はい」


 なかなかの勢いで吹き飛んだ男が起きるとは思えなかった。しかし男から靄が立ち上がると人型をとりその手にナイフを持っていた。男と契約していたナイフが尚も山茶花を狙うのか刃を向けてくる。


「奇跡保護管理局 特殊任務課 イチ。第三規定により道具破棄を執行する」


 イチと名乗った男は、手に刀をもち構えナイフの男に振り降ろした。ナイフと刀がぶつかり火花が散る。そして二人ともアパートの一階へ飛び出していった。暗いのと早いので追いきれない。そもそも部屋に逃げ込めばよいのではと扉を開けた。


「   !」


 扉にナイフが突き刺さり目の前にナイフの男が現れた。どういう理屈だと理解する前に呼吸が止まる。部屋の方が安全でも下手に動かない方がよかったと後悔した。


「背中を見せたな?」



 イチは、仮にも二階だというのに軽々とジャンプしてナイフの男に言い放つ。そしてナイフの男が振り返る隙も与えず胴体を一閃した。その一閃は、アパートの蛍光灯で刃が輝き、山茶花の目の奥に白い軌跡を残した。

 ナイフの男は、恐ろしい雄叫びをするとナイフだけ残し消える。流血沙汰にならなかったのはよいが、鋭すぎる一閃が山茶花の目に焼きついた。

 そして自分は助かったのだと安堵して部屋を見れば先ほどの一閃で扉が真っ二つとなり玄関も一部破損している。あまりの被害にいくら必要なのかと頭を抱えた。


「大丈夫か!? どこか怪我したのか」

「うわわっ」


 イチは、山茶花をお姫様抱っこにした。そんなこと幼いとき以来なので悲鳴をあげるしかない。 


「そうなのか。いや無事ならいいなんだ」

「降ろしてくれないですか」

「お安い御用だよ」


 下ろしてもらって一安心だがイチは、山茶花の前から立ち去ろうとしない。他に用があるとすれば何かあるのだろうか。壊れてしまったものに対する弁償があるけれど今すぐのことか。


「俺、君が気に入ったから契約したいんだ。ねっ、契約してよ」

「は?」


 イチは、頬を染めて期待するような眼差しを向けてくるが本当に突然何を言い出すんだろうか。


「俺と契約すると俺の主としてバイト代と住宅手当がでるよ。それに俺は強いから防犯はバッチリ」

「強いのは見ててわかるけど」


 田舎で神様のような扱いを受けている玉器曰く、玉器にとって契約は結婚並みの重さがあるが九十九神は悪事に使う場合もあるという。先ほどのナイフも倒れている男性と契約していたのだろうが操られていたのかもしれない。


「一目ぼれなんだ、君以外考えられない」


 手を握られ山茶花がいいという美青年を前にしてぐらつかないわけがなかった。それに契約は、破棄出来るしお互い話し合えばわかるはずだ。


「わかりました。でも契約したことないんだけれども」

「俺が契約の言葉を言うから、君は許すって言ってくれればいい」


 山茶花が頷くとイチは、深呼吸をして言い始めた。


「俺は、君の手となり、君の進む道を阻むものを薙ぎ払うことを誓う」

「許します」


 たった一言なのに自分ではないものと繋がった間隔がする。これが契約の結果なのだろうか。か細いのにそこにあるのがわかるそんなものだ。


「嬉しい。これからよろしく主」

「主って違和感あるから山茶花…ハナでいいよ」

「これからよろしくハナ! 俺はイチだよ」


 パトカーのサイレンの音が聞こえてくる。誰かが通報したのだろうか。倒れている男性は、警察に任せられるだろう。

 月がだいぶ高くにあって夜が更けたのがわかるのだが寝る時間が確保出来るだろうか。朝イチにある講義で寝ないように気をつけねばと現実逃避を始めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。