えこひいき
リュンヌがルナとあって1月半が経った。
ルナはリュンヌに冒険者ギルドに連れていけと言う。
「....ルナ....依頼....受ける....。」リュンヌは聞く。
「依頼を受ける? 正気? あんな低効率な肉体労働、私の辞書にはないわ。」
ルナは気怠げに指を振り、自身の銀髪を弄ぶ。
「いい、リュンヌ。私が欲しいのは目先の報酬じゃなくて、ギルドという組織の『運用ルール』よ。」
ルナはちょっと得意げに続ける。
「規約の行間にこそ、独占禁止法ギリギリの利権が眠っているはずだわ。」
リュンヌは「....ルナ....ギルド....男の冒険者....寄ってくる....危ない。」と心配する。
「受付嬢はギルドの『顔』であり『資産』よ。手を出せば即座に営業妨害でブラックリスト入り。
私達も教会の『顔』としてギルドに行くのよ。」
リュンヌに真面目な顔で言い聞かせる。
「そんな「顔」に手を出すような高リスクな真似、まともな個体ならしないわ。」
ルナは呆れたように肩をすくめ、リュンヌの杞憂をデータ不足と切り捨てた。
「ケダモノかどうかは重要じゃない。法と罰則が機能しているか、そこが損得勘定の分かれ目なの。」
「それに私はルス教の神官よ。手を出せば神罰(法的な賠償請求)が下ると、本能で理解させるわ。」
不敵に微笑むルナに、リュンヌは「….ルス神様、….利用....されてる。」と諦めつつも、その絶対的な自信に毒され、小さく頷いた。
「よし、合意形成完了ね。さあ、未知の市場へ乗り込むわよ!」
二人はいそいそと用意をして冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドの前自体はただの通りなので、周りが酒場が多い以外は、特に変わり映えしない風景だ。
周囲に漂う安酒と揚げ物の匂い。昼間から出来上がった荒くれ者たちの怒号が、BGMのように通りに響いている。
「....ここ、....柄が、....ルナと....来たら....最低。」
リュンヌはナギナタの柄を握り直し、警戒心を露わにする。
対照的にルナは、鼻をつまみながらも鋭い視線で建物の構造を値踏みしていた。
「外装の補修費をケチってるわね。典型的な独占企業の慢心だわ。」
扉が開いた瞬間、場違いな銀髪の聖潔に、ギルド内の喧騒がぴたりと止む。
「ル、ルナ様!? 本職の神官様がなぜこのような掃き溜めに....!」
顔をこわばらせる受付嬢を、ルナは事務的な一瞥であしらった。
「挨拶はいいわ。それより、この組織のコンプライアンスの根幹——冒険者規約の原本を出して。今すぐ、最速でよ。」
リュンヌは思わずナギナタの柄を持つ手に力を込める。
しかし、国教の神官と言う肩書とルナの「聖女」の様な見た目は、盛り場の馬鹿なゴロツキ相手とは違い冒険者達には通用した。
「....ルナ、...威圧感、....すごい。」
リュンヌが呆気に取られるほど、周囲の冒険者たちはその「高貴な正論」に気圧されている。
血生臭い依頼書も並ぶ掲示板の前で、ルナの銀髪はあまりに場違いで、それゆえに不可侵のオーラを放つ。
「部屋を借りたいのだけれど。」とルナは言う。
ギルドの受付嬢が慌てたようにギルドマスターを呼びに行く。
リュンヌはギルドマスターの顔すら知らないのに、ルナに対しては受付嬢も凄い反応だ。
「....差が、....ひどい。」
リュンヌが呟く間もなく、奥から現れたギルドマスターが揉み手でルナに歩み寄った。
一般の冒険者なら数時間は待たされる相手の即レス対応だ。
「これはルス教の『期待の新星』、ルナ様! お越しいただけるとは光栄な。我がギルド自慢の応戦を...。」
「余計なオプションは不要よ。私が求めているのは、セキュリティが堅牢で、かつギルドの内部情報....。」
思わず本音がダダ漏れしそうなのをルナは抑える。
「失礼、物流の動線が最短距離で把握できる『戦略的拠点』としての個室よ。」
ルナは甘い営業トークを秒で遮り、冷徹なコスト管理者の目でマスターを見据える。
「丁度いいわ。質問があるの。ギルドマスター。」
ルナは小首をわざとらしく傾げた。
「仮にここに依頼を出さず、薬草採取の護衛、牧場の見回り、隣町への届け物つまりは雑用を請け負う人が現れたら罰せられるの?」
「それは....規約上、止めることを強制はできませんが、ギルドの『顔』を潰すことになりますな。」
マスターが冷や汗を拭う横で、ルナは「想定内ね」と不敵に口角を上げた。
「つまり、ギルドを通さない直取引は『マナー違反』であっても『法違反』ではない。なら話は早いわ。」
ルナはリュンヌを従え、独占市場に風穴を開ける宣言をする。
「ここに、ギルドの仲介手数料を丸ごとカットした、高QOL・低コストな『生活支援特化型ガード』を派遣するわ。」
又も厨二病発病である。
「これぞ冒険者業界の規制緩和よ!」




