マルチタスクと脳筋
本作品は、中年のおっさんの個人的なAIへの興味から派生し始めたものにつき、
作者が好き放題書き散らかしています。
ですので、皆さんが普通は書かないような事にこだわったりしてしまっています。
生理描写や衛生描写等が重く書いてる本人もスカッと全くしておりません。
お気に召さねばそっと閉じていただけると登場人物たちも喜ぶと思います。
それでも、お付き合いしていただける方はどうぞよろしくお願いいたします。
「....ありがとう。....ルナに、....人参料理、....作る。....夜に。」
リュンヌは大切な頂き物を抱え、おっちゃんたちに小さく会釈をして農場を後にした。夕暮れの街を歩きながら、彼女はふと思う。
自分はいつか「売れる」ことも「やめる」こともなく、ルナの隣でずっとナギナタを振るい、こう地味な依頼を受けて笑っていられるだろうか。
リュンヌは、宿に戻ると共同の炊事場で貰ったリンゴを剝き部屋に持っていく。
ルナが「おかえり、リュンヌ」と少し元気な声で迎える。
少し猫背だが何か書き物をしていたようだ。
「....これ、....りんご....。」
リュンヌは剝いたリンゴを差し出す。
「あら、気が利くじゃない。....そうね、不完全な状態で無理に稼働しても、ミスによる損失や判断ミスという名のデバフを招くだけ。」
ルナは心なしか嬉しそうにリンゴを眺める。
「今の私には、このリンゴという名の『即効性エネルギー投資』が必要だわ。」
ルナはそう言って、リュンヌが差し出したリンゴの一片を口に運んだ。シャクッ、と小気味よい音が部屋に響く。
「....明日まで、....ルナ、....休み....した。....窓口、....閉めた。」
「明日まで? 随分と思い切った『損切り』をしたわね、リュンヌ。」
ルナは目を丸くした。
「でも、あなたが教会の連中に私の『休暇』を定着させてくれたのは、長期的には私にとって大きな利益よ。」
リュンヌはルナに「....神官さま....頼まれた....おなか痛い日....休む....ルナ....助けて。」
女性神官の悲痛な願いを伝える。
「そうか、あたしは無理矢理にでも『休む』という既成事実を作れる。」
ルナは自分の性格や立場を思い返しているようだ。
「組織(教会)の末端にいる彼女たちは、上の顔色を伺って『サンクコスト(犠牲)』を払い続けているってわけね。」
ルナの中で受理、不受理のフィルタリングが終わったようだ。
「....いいわ、その案件、銭導士として正式に受注するわ。」
ルナは、つまんだリンゴを揺らしながら、鋭い瞳で闇を見つめた。
「いい? リュンヌ。女性神官のほうがタスクを並列(複線)で処理できる。」
「....つまり『マルチタスク能力』という名の高いスペックを持っているの。右手でお布施を受け取り左手でもお布施を受け取る。」
「....ルナ....それ....両手....使ってるだけ....。」
リュンヌは、言いつつ今日のルナは切れ味が悪いと評価する。
「くっ、殺せ。と、とにかく、体調不良を隠して無理に稼働させるのは、組織全体にとって致命的な『リソースの無駄遣い』なのよ。」
ルナはリュンヌにボケていることをツッコまれて屈辱のようだ。失点を取り返すべく話をつなぐ。
「壊れてから買い替える(新人を育てる)より、定期的なメンテナンス(休暇)を入れるほうが、長期的な収益率は圧倒的に高いんだから。」
「....ルナ、....また....難しい。....でも、....神官さま....助けて....くれる?」
「当然よ。まずは、私が今回取った『二日間の休業』をモデルルームとして、教会に『生理休暇導入による業務効率改善計画』を叩きつけるわ。」
言葉とは正反対に、お腹を少し押さえつつ宣言するルナの姿は却って痛々しい。
「騎士様も今回の件で『聖女の休息の重要性』について洗脳....いえ、深く理解していたみたいし、彼は無料の広告枠みたいなものね。」
ルナはだらけて足をぶらんぶらんさせる。
「....騎士様、....ただ、....騒ぐだけ。....でも、....声、....大きいから....響く。」
「その通り! 声の大きいバカ....失礼、脳筋、
違う、熱心な信者を味方につけるのは基本よ。」
どう言い直しても今、バカにしたとリュンヌは分析する。
「女性神官たちが胸を張って『今日はデフレ期(お休み)です!』って言えるような、新しい就業規則という名の教典を書き換えてあげるわ。」
志をここまでの言動で全てぶっ潰しているのは、
ルナ自身だ。月一の呪い恐るべしである。
「....明日も、....おっちゃんたちの....ところ、....行くかも。....柵、....まだ....途中....かもしれないし。」
リュンヌは暗に明日も単独行動するとほのめかす。
「いいわよ。現場を大切にするのはいい投資だわ。....でも、あんたも無理はしちゃダメよ。」
ルナは管理職の様な口ぶりで言う。
自分の『体調』っていう一番の資本を削ってまで働くのは、銭導士の護衛失格なんだから。」
ルナは毛布に顔を半分埋めながら、微睡みの中から忠告してきた。
「....わかってる。....無理、....嫌い。....お肉、....好き。」
どこかズレた受け答えをしつつ、リュンヌはルナを更に気遣う。
「....ん。....ルナ、....一人で、....のんびり....して。」
リュンヌはそう言って、ルナの枕元に新鮮な水と、残りのリンゴをすぐ手が届く位置に置いた。
リュンヌがルナにツッコめるぐらい成長しました。
素晴らしいことです。
そして聖騎士。酷いことに言葉こそ違いますが、リュンヌもルナも認識が一緒。
不憫なキャラを作ってしまいました。
まあ、お約束キャラも必要ですから彼も許してくれるでしょう。
そして又もリュンヌ、一人での依頼です。大丈夫なの?




