クソマズ粉末はサステナブル
本作品は、中年のおっさんの個人的なAIへの興味から派生し始めたものにつき、
作者が好き放題書き散らかしています。
ですので、皆さんが普通は書かないような事にこだわったりしてしまっています。
生理描写や衛生描写等が重く書いてる本人もスカッと全くしておりません。
お気に召さねばそっと閉じていただけると登場人物たちも喜ぶと思います。
それでも、お付き合いしていただける方はどうぞよろしくお願いいたします。
ルナはクレープを頬張りながら、一瞬だけ少年の方へ首を巡らせたが、すぐに興味を失ったように歩みを再開した。
「ほら、さっさと食べる! 宿に戻ったら新処方の『毒味』が待ってるんだからね。」
ルナは他人事のように言う。
「....鬼....悪魔....神官。」
文句を言いつつも、リュンヌは素朴な生地の甘さに頬を緩ませ、忍び寄る影に気づかぬまま宿への道を急いだ。
二人が入る宿を確認すると、市場から付いてきた男は踵を返し去って行った。
その頃二人は自炊を始めていた。リュンヌが漁師のお兄さんから貰った川魚に塩を振って焼く。
「....お塩....魚に....好き。」
リュンヌは香ばしい匂いに鼻を可愛らしくひくつかせる。
「ったくこないだまで、味付けなしの丸焼きしか食べてない。ってどんな生活よ。」
とルナは呆れつつ毒づく。
「....生きる....大事....だったから」
リュンヌは塩の結晶が爆ぜる音を愛おしそうに聞き、パチパチと瞬きをした。
ルナは「QOLの欠片もないわね」と毒づきながら、市場で仕入れたはったい粉を、件の激マズ粉末に調合し始める。
鍋ではミントを丁寧に乾煎りし、水分を飛ばして即席の乾燥ハーブへと変えていく。
清涼感ある香りが共同の炊事場に流れる。
「いい? 料理は化学であり、コスト管理の集大成よ。無駄な苦痛は労働効率を下げる最大の悪因なんだから。」
機能性と味の両立――ルナが掲げる新機軸の「QOL向上」に、リュンヌの鼻が期待でピクリと動く。
先日までの「激マズ粉末」の悪夢を払拭するようなまともな準備風景に、リュンヌは焼けていく魚を眺めながら、小さく安堵の息をつく。
「ほら、リュンヌ。スープにこれ入れて。」
ルナが青菜を渡す。
「....いつも....これ....嫌い。」
「なに言ってんの!食物繊維や栄養素的に必要なの。」
また意味不明な演説が始まりそうだ。
「....ごめん。」
被せ気味の謝罪に、ルナは「えっ、あ、そう?」と拍子抜けした顔で口を閉じた。
滔々と垂れるはずだったQOL向上論を強制終了させられ、守銭奴神官が珍しく絶句している。
リュンヌは内心で小さくガッツポーズを作り、渡された青菜をスープに沈めた。
「....学習、した。言い返す....無駄。」
「....なんか今の、すっごく癪に触るんだけど!」
煮えるスープの湯気の中、悔しげに頬を膨らませるルナを横目に、リュンヌは器用に川魚をひっくり返した。
ルナの「正論攻め」を躱す術を覚え、二人の力関係に微かな変化が芽生え始めているようだ。
二人は部屋に出来上がった料理を運び、食事を終えた。
ルナは例のクソマズ粉末にはったい粉を混ぜた物をリュンヌに差し出してきた。
「....いきなり....少し見た目....マシ。」
リュンヌは精一杯の感想を述べる。
「見た目はね。でも本質は中身よ。」
ルナは不敵に笑い、はったい粉の香ばしさが漂う「改良版」をスプーンに乗せた。
リュンヌはおずおずとスプーンを口に運ぶ。….土のような苦みは、炒った粉の風味で幾分かコーティングされている。
「....粉みたい。....砂じゃない。」
「でしょ? 継続コストを下げるためのフレーバー戦略よ。さあ、一気に飲み干して基礎数値を底上げなさい!」
偉そうなルナの能書きを聞き流しながら、リュンヌは「砂じゃない」という低すぎる基準で、クソマズ粉末(改良版1号)を胃に流し込んだ。
はじめこそ、マシだったがいつもの味がリュンヌを襲ってきた。
「....苦っ....ううっ....若い娘....無理。」
顔をしかめるリュンヌに、ルナは「何言ってんの、私らも現役バリバリの美少女でしょ!」と大笑いした。
だが、すぐに商売人の顔に戻り、真剣な眼差しで問いかける。
「ねえ、ターゲットを大人に絞るなら、この苦味は『効き目』の演出になるかしら?」
リュンヌはしばし余韻を反芻し、「....多分、我慢出来る....いい薬、....。苦いってルナ....言ってた。」とボソボソ返した。
その言葉にルナの瞳が怪しく光る。
「決まりね。子供には甘みを、大人にはこの『信頼の苦味』を。」
ルナは、リュンヌの感想の否定部分などかすりもしていないようだ。
「....ふふ、市場の金が動く音が聞こえるわ。」
悪魔的な笑みを浮かべる守銭奴を横目に、リュンヌは胃の腑に残る苦い温かさに、少しだけ溜息をつく。
「ただ、....爆発的ヒットにはパンチが足りないわね....。」
ルナは算盤を弾くような手つきで、空のコップを見つめて唸る。原価を抑えて利益を最大化する――その執念が、彼女をまだ満足させていない。
「....これ、....甘い」
リュンヌは慣れた手つきでリンゴを剥き、一切れ口に運ぶ。
かつては空腹を満たすためだけの食事だったが、今は違う。果物の瑞々しい甘さが、ルナに叩き込まれた「QOL」の象徴のように感じられた。
「あ、ちょっと! 自分だけ食べてずるいわよ。ほら、私の分は?」
「....はい。....皮、....むいた。」
差し出されたリンゴに、ルナは文句を言いながらも食いつく。
市場での男の視線や新薬の課題、そんな喧騒を一時忘れ、二人の間には甘い果汁の香りが穏やかに流れた。
そんな年相応の顔を見せるルナに、リュンヌはホッと一息つく。
でないと、こんな守銭奴詐欺師もどきと一緒にいるなんて神経が絶対に持たない。
ふとみるとルナがリュンヌが放ったリンゴの皮を窓辺に干し出した。奇天烈行動がまた始まっている。
「....何....ゴミ、....干す?」
リュンヌの呆れた視線の先で、ルナは鼻歌交じりにリンゴの皮を窓辺に並べていく。
「ゴミじゃないわよ、立派な『未利用資源』よ。これを乾燥させて混ぜれば、例の粉の苦味を緩和する天然フレーバーになるわ。」
ルナは目を輝かせて成功を確信しているようだ。
「原価タダで付加価値アップ、これぞ完全循環型経営(SDGs)ね!」
ルナの奇天烈な改良案に毒気を抜かれたリュンヌは、目の前の守銭奴神官の底知れぬ強欲さに、ただただ深い溜息を吐いた。
なんだかんだ言いつつ、リュンヌはルナに懐いてしまっています。ちょっと作者としては予定外ですがまあいいやと思っています。
考えてみれば塩だって貴重品ですね。やはり感覚でこういうところを見逃してしまいますが、そこはファンタジーとしてお見逃しください。
さて、少年の目的はどっち?リュンヌとルナ。




