宴と神
ゴブリン・ブッチャー討伐から数時間後。
村の広場では、ささやかな祝宴が開かれていた。
焚き火の周りに村人たちが集まり、酒やパン、簡単な煮込み料理が振る舞われる。
「マコくん、すごかったな!」
「いやぁ、あのデカブツをぶっ飛ばすなんて見たことねぇよ!」
村の人々は皆、マコに声をかけ、次々と料理や酒を持ってくる。
「マコくん、これ食べて!」「ほら、これも!」
完全にVIP扱いだ。
「はは、ありがと……うっぷ、もう食えねぇ」
マコは自分でも驚くほどチヤホヤされていた。
今までゲームの中でしか味わったことのなかった“英雄”の気分。まさかこんな現実が来るとは。
と、そこへ楓が座ってきた。
手には湯気の立つスープ。
「はい、これ。冷えたでしょ?」
「あ、ありがとう……」
楓の優しい笑顔と、ふわりと香る甘い匂いに、マコは思わず顔を赤らめた。
「今日は本当にすごかったわね。マコが来てくれて、この村、助かったのよ」
「いや、あんなの、たまたま覚醒したからで……普段はただのヘタレだよ」
「そんなことない。私、あの瞬間、ちゃんと見てたもの。マコの目、すごく強くて、格好良かった」
ドキン。
心臓が跳ねる音が、焚き火の音にすら勝る気がした。
「か、楓……」
「……」
互いに視線を合わせたそのとき。
不意にまたウィンドウが開いた。
《好感度上昇!》
楓 →【友好】
おおおおお!?来たコレ!!
マコの内心のテンションは最高潮だった。
次なる試練が舞い降りる
祝宴が盛り上がる中、マコはふと遠くの空を見上げた。
空には、どこか不自然に輝く星が一つ。
「……なんだあれ」
その瞬間、耳元に神様の声が響く。
『よぉ、覚醒王。楽しくやってんじゃねぇか』
「うわっ、誰!?」
村人たちは誰も気付かない。神様の声は、マコにしか聞こえないらしい。
『オレの名はヴァルグ。賭け神って呼ばれててな。オマエの活躍、さっきまで神界で大盛り上がりだったぜ』
「は……?」
『いいぜいいぜ、覚醒王。オレはお前に賭けることにした。次の試練、期待してるからよ』
「試練?」
その瞬間、再びウィンドウが現れる。
《緊急クエスト発生!》
【迷いの森の呪骸獣討伐】
制限時間:24時間
推奨ランク:★3以上
「は、はぁ!?★3!? 俺、今★1なんですけど!?」
『知らねぇよ。オマエの覚醒力ならイケんだろ?じゃ、頼んだぜ覚醒王。もし死んだらオレの賭け負けちまうからな』
「いや、ちょ、待……!」
ウィンドウは消え、神の声も途切れる。
マコは焚き火の前で頭を抱えた。
「……これ絶対死ぬパターンじゃねぇか」
楓が不思議そうにマコを見る。
「どうしたの?」
「いや、ちょっと……次のクエスト来ちゃった」
「ええっ!? 今は休んだ方が……」
マコは苦笑しながら、手元のポイントウィンドウを開いた。
討伐報酬300Pが入っており、さらにエナジードリンクやコーヒーも買える状態。
(よし……今度は緑茶も買っておこう。カフェインは大事だ)
そして彼の目は、次なる試練の先――迷いの森へと向けられる。




