覚醒への一歩
楓に案内され、マコは村の中心にある小さな教会へと向かった。
木造りの質素な建物だが、中は暖かな灯りに包まれ、穏やかな空気が流れていた。
「ここが私の働いてる教会。怪我、見せて」
マコはボロボロの服を脱ぎ、膝や腕の擦り傷を見せる。楓はその手をそっと添え、目を閉じると小さな光が彼の体を包んだ。
「【ヒールライト】」
傷が瞬く間に塞がっていく。
「うわ、すげえ……」
「ふふ、これくらい朝飯前よ。じゃあ、少し休んでて」
楓は微笑み、奥の部屋へと下がっていった。
マコはベッドに倒れ込むと、ポケットからさっきのエナジードリンクを取り出す。
「これが……俺の覚醒の鍵……。飲むべきか、飲まざるべきか」
と、そこへ再びウィンドウが現れる。
《緊急クエスト発生!》
《ボスモンスター【ゴブリン・ブッチャー】が村の近くに出現》
《討伐報酬:神様ポイント+300》
「うおおお!? 300!? さっき10Pだったのに!?」
驚愕するマコ。しかし、その報告とほぼ同時に、教会の外から悲鳴と怒号が響く。
「ゴ、ゴブリンだー!で、でかいのが来たー!」
「うわっ、マジかよ!」
マコは慌てて飛び起き、エナジードリンクのプルタブを引いた。
「もういい、飲むしかねえ!」
ごくごくと流し込むと、途端に体の内側が熱くなる。視界の端に再びウィンドウが表示される。
《カフェイン摂取確認》
《覚醒条件緩和中》
《極限状態で覚醒可能》
「よし……来いよクソゴブリン!!」
教会を飛び出すと、村の中央広場に異様に大きなゴブリンが現れていた。
その体は普通のゴブリンの倍以上、手には巨大な棍棒。周囲には村人たちが怯え、衛兵も既に数人倒れている。
「あれが……ゴブリン・ブッチャー……」
マコの心臓はバクバクと跳ね上がる。だが、不思議と恐怖よりも熱くたぎる感覚の方が強かった。
「マコ!危ない!逃げて!」
楓が駆け寄ってきた。
「大丈夫。俺、やるしかねえんだ」
マコは自分の中に湧き上がる衝動に身を任せ、再びウィンドウを開く。
《覚醒可能状態》
《覚醒発動しますか?》
「当たり前だ!‥発動ッ!!」
叫んだ瞬間、体から金色の光が迸る。
視界が鮮やかに輝き、ウィンドウに表示されていたステータスも一変した。
【覚醒状態】
HP:10 → 250
攻撃力:1 → 180
防御力:1 → 150
速度:1 → 130
「な、なんだこの力は……!」
マコの体が軽い。握り拳に宿る力が、今にも爆発しそうだ。
「うおおおおおおっ!!!」
ゴブリン・ブッチャーが咆哮し、棍棒を振り上げる。
だが、覚醒したマコの目には、その動きがまるでスローモーションのように映った。
「遅えよ、クソ野郎!」
マコは跳び上がり、ゴブリンの顎に渾身のアッパーを叩き込む。
ゴゴッ!!
信じられないほどの衝撃音と共に、ゴブリン・ブッチャーの体が宙を舞い、そのまま数メートル吹き飛んで地面に叩きつけられる。
「や、やった……のか?」
ドサッ
ゴブリン・ブッチャーは微動だにせず、その体は徐々に黒い煙となって消えていった。
《ゴブリン・ブッチャー討伐完了!》
《神様ポイント+300獲得》
《覚醒状態解除まで残り30秒》
「っしゃあああああ!!」
マコは拳を突き上げ、初の大勝利に歓喜した。
広場に静寂が戻り、怯えていた村人たちが徐々に集まってくる。
「あ、あの少年が……」
「でかいゴブリンを……一撃で……」
マコはすっかり英雄扱い。
楓も駆け寄り、満面の笑みで彼の手を取る。
「すごい!マコ、あなた本当に……!」
「まあな。俺、覚醒王だから」
ニヤリと笑うマコ。
だがその瞬間、再びウィンドウが現れた。
《覚醒状態解除》
《ステータス初期値に戻ります》
「え?」
突然の虚脱感。再び体が重くなり、ステータスは再びゴミ値に。
HP:10、攻撃力:1、防御力:1、速度:1
「マジか……」
楓の目が点になる。
「えっ……さっきのすごかったのに、どうしたの?」
「……いや、今ちょっとクールタイム入っただけ」
マコは内心青ざめながらも、何とか誤魔化す。
そしてまた、神々の賭けは続いていくのだった。




