最弱の王
「はぁっ、はぁっ……!マジ無理マジ無理……!」
草原を駆け抜けるマコの背後から、ゴブリンの追撃は容赦ない。
この異世界、《ルーミナス》のゴブリンはレベル1でも容赦なくプレイヤーを狩る。しかも今のマコは覚醒未達成状態の最弱。
ステータスウィンドウを開いてみれば、HP10、攻撃力1、防御力1、速度1。
全項目が最低値。
これが……覚醒王の初期値かよ……
「くそっ、俺、異世界転生ってもっとこう、勇者だとか最強スキルとか、美少女ハーレムとか、そういうの期待してたのに……!」
心の中で叫びながらも、とにかく足を動かす。
幸いだったのは、遠くに建物らしき影が見えたことだ。
「あれは……村だ!助けてくれーっ!!」
ボロボロになりながら村の門に辿り着いたマコ。
門の前には槍を持った衛兵が2人立っていた。若干頼りないが、今のマコからすれば神のような存在。
「ゴブリンだ!後ろ!俺、俺やられるー!」
衛兵たちは慌てて槍を構え、マコの背後から迫るゴブリンたちと対峙する。
「おい!そこの坊主!下がってろ!」
マコは転げるように門の内側へ逃げ込み、そのまま地面にへたり込んだ。
衛兵たちは手慣れた様子でゴブリンを退治し、ようやく静寂が戻る。
「まったく、どこから湧いてきやがるんだゴブリンめ……」
「おい、坊主、大丈夫か?」
「う、うん……た、助かった……」
その時だった。
《ゴブリン撃退報酬:神様ポイント+10》
ウィンドウが目の前に浮かぶ。
《神様ポイントが付与されました。ポイントショップを開きますか?》
「えっ、ポイントショップ?開く開く!」
すぐさま開くと、ラインナップには怪しい飲み物が並んでいた。
【エナジードリンク(10P)】
効果:一時的に覚醒条件を緩和し、覚醒発動しやすくなる
【コーヒー(15P)】
効果:覚醒条件達成+微量のHP回復
【緑茶(20P)】
効果:同上+少し落ち着く】
「いやもうコレ一択だろ!エナジードリンク購入!」
ポチっと選択すると、手の中に冷えた缶が現れる。
「これだ……これが俺の覚醒の鍵……!」
マコが缶を握りしめていると、村の中から一人の少女が駆け寄ってきた。
腰まで伸びた銀髪に、澄んだ青い瞳。
純白のローブをまとい、胸元には十字のペンダント。
「あなた、大丈夫!?」
「えっ……あ、うん。なんとか」
「よかった……私、楓。白魔導士見習いよ」
来た!これ絶対ヒロイン枠だろ!!
マコの心の中で警報が鳴る。異世界転生モノでこのビジュアル、このタイミング。もう確定だ。
「俺、マコって言います。助けてくれてありがとう……」
「あなた、まさか外で一人で……?危険すぎるわ!こんな草原の近く、ゴブリンだらけなのに!」
「いやー、まあちょっと訳ありで……」
楓はマコのボロボロの服と泥だらけの顔を見ると、ふっと微笑み、手を差し出した。
「まずは体を休めましょう。うちの教会に来て。怪我の手当てもできるわ」
いやマジでこれ完全にヒロインルート来た!!
ゴブリンに追われてボロボロのスタートだったが、運命は少しずつ動き始めていた。
そしてその裏で、神々は再び賭けを始める。
「さて、マコの運命、ここからどう転がるかな……」
「ふふっ、俺の賭けは続行だ。この少年、面白くなるぞ」
異世界転生リセマラの幕は、まだ開いたばかりだった。




