92話「覚醒」
「〇△〇! 」
対峙する荒神業魔は重々しく呻きながら、全身からメキメキと骨音を鳴らした。
その音に続いて、さらなる触手が姿を現す。
「○○ッ! ○○○○○〇! 」
連鎖して荒神業魔の人型頭部が『ドラゴンのような風貌』へ変形。
新たなフォートレス甲殻が生成され、山のような体格が一回り巨大化する。
「嗚呼! コヤツ、まさかッ?! 猛毒に侵食されながら『第二形態』へ進化するのか?! 」
雷昂(蛾)は予期せぬ展開に動揺しながら、華白の肩上で解説を続ける。
「ヤツは進化するたびに、戦闘力を10倍増幅させる。故に、今の荒神業魔は地球上で最も最強。真っ向から、ヤツと拳を交えるなど! 自殺行為に等しい! 」
……第二形態の荒神業魔に敵う者は、この世界に存在しない……
その事実を聞いても尚、華白は微動だにせず立ち尽くしていた。
「………」
「馬の骨! 聞いているのか?! 」
「……謹崎さん。少し……離れてて、巻き込みたくないかも」
反対に、華白は青い瞳を『エメラルドグリーン』へ変色させ、氷のように冷たい表情で無敵の巨人を見つめた。雷昂(蛾)は別人みたいな彼女の雰囲気に圧され、華白の肩から慎重に離れる。
「じゅ、10秒。制限時間は十秒だ。良いな? 」
雷昂(蛾)は『カケルのタイムリミット』を宣告して、沼の岸辺へ戻ってゆく。
華白と荒神業魔は毒の沼地に取り残され、毒の沼に浸かりながら一対一で対峙した。
華白はエメラルドグリーンの瞳をそっと細め、毒の沼地の『すべて』を感じた。
彼女の体にある『毒人の細胞』が、毒の沼地とシンクロしてゆく。
(猛毒の泥が、家族みたいに思えちゃう。変かも)
ド、ドドドド……と心地よく鼓動する心臓。
地獄の魔王のようなオーラが華白の体を包み込む。
「力が、無限に……溢れ出してくる。足だって震えてない、かも」
淡々とした口調のとおり、華白の足は微塵も震えていなかった。
怒り、憎しみ、憤怒。華白は17年間生きて来て、初めて抱いた激情をすんなりを受け入れた。
「ちょっとだけ、怒ったかも」




