90話「詰み」
雷昂(蛾)が一歩遅れたタイミングで、華白を怒鳴りつける。
「この沼地に飲まれたら一巻の終わりだ! どんな手を使ってでも、小僧を救出しなければッ! 」
ここでようやく、華白の脳が状況を理解した。
(か、カケルが荒神業魔にぶっ飛ばされて…毒の沼に池ポチャして……)
「わああああああ! 」
華白は絶望的な現状を察し9割方パニックに陥りながら、荒神業魔に目もくれずカケルを救出するべく毒の沼へ全力疾走。
「はやく! はやく! 」
(毒沼から、カケルを助けなくちゃあああ)
カケルを失ってしまう……
その絶望が脳内のアドレナリンを暴走させ、華白の理性的ブレーキを容易く破壊する。
ーードボン!ーー
華白は、微塵の躊躇もなく、欠片の恐怖もなく、毒の沼へ飛び込んでみせた。
そんな彼女の迷いのない凶行に、雷昂(蛾)は戸惑いを隠せずにいた。
「毒の沼に、躊躇なく踏み入るとは……なんという執念だ」
沼の深さは50~60㎝程度。
華白の背丈は170cmなので、足が多少浸かる程度で済んだ。
「カケルう! カケルうう! カケルううう! 」
絶叫しながら毒の沼を歩く華白。しかしながら、カケルとの距離は遠く……
「クソッタレ。小僧まで遠すぎる! ここから、100mは離れているぞ! 」
要するに、彼が溺れている所は『毒の沼の最果て』一番奥の地点。
その上、畳みかけるかのように……
荒神業魔が大ジャンプで宙を駆け、華白に続いて毒の沼地へダイビング。
華白の正面に大きな影(荒神業魔)が着地。毒泥が「バシャーン!」と四方八方に散らばった。そして、荒神業魔が山のような巨体を駆使し、華白の進行ルートを遮断する。




