5話「七神ルルナ」
およそ20年前……深夜0時に何の前触れもなく、異界の領域・毒牙神域が出現。
通称『毒森』と呼ばれる地獄が、青空と太陽の街『伊吹町』を侵食&汚染し、地上を死の領域へ変貌させてしまった。
無力な人々は、毒森から発生する天然の毒ガス(毒霧)から逃れるべく、地下鉄へ避難。
地下鉄を巨大なバリケードで封鎖し、限られた資材でトンネル道を改装した後、地下都市を作りあげる、が…餓えと渇きに耐える日々、毒森に対する恐怖。度重なる不安要素が人々のメンタルを蝕んでいった。
そんなとき、闇に覆われた地下都市に一筋の光りがさす。ソレこそが、現在……カケルと華白のまえにいる美少女だ。
2017年年7月20日。七神ルルナは腐敗した地下都市へ降り立ち、絶望の中だからこそ協力し合うべきだ!と民衆を勇気づけた。
彼女のカリスマ性は底知れず、もはや聖人という言葉では語り切れない。
性格、外見、知性、才能。すべてがオールパーフェクトな主人公の中の主人公。ルルナの力があったからこそ、人々は絶望の地下生活に希望を見出せたのである。
さらに、情報弱者の者共に毒森やクリーチャーの生態系をやさしく丁寧に伝授。極めつけは、彼女自身が「毒森攻略作戦を立案」し、人類快進撃のチャンスを与えてくれた。
華白は徹夜で暗記してきたルルナの偉業を頭の中で再生しながら、真の英雄が目の前にいることにウットリしてしまう。
(ルルナさまのお陰で、今こうして生きていられるんだもん。凄すぎて言葉が出てこないかも)
1ファン(華白)の熱烈な視線をスルーして、ルルナは『法術核』の解説を続ける。
「法術核は荒神業魔の心臓(弱点)であると同時に、毒森のエネルギー源でもありますわ」
(な、なるほど~。多分、法術核は荒神業魔と毒森の『主電源』なんだ)
「毒森は法術核を柱にしています。ゆえに、コレが破壊されたら、森全体が積み木のように崩れ落ち…」
…そして…
「地上から毒森が消え去り、世界は青空と太陽を取り戻すでしょう」
ルルナは正義と希望のシナリオを綴り、横にいるイケメン男に視線を流す。
「しかし、荒神業魔という名の魔王を討つのなら『勇者の剣』が必須。ゆえに、翼さん……貴方に神具を授けますわ」
「承知しました。必ずや期待に応えてみせます。このケースに眠る神具を使いこなし、荒神業魔に裁きを下してやりますよ」
一方、華白は蚊帳の外から、上位層のコミュニケーションに釘付けになっていた。
(…ま、眩しい。漫画に出て来るヒロインと主人公みたいだあ~……って!感傷に浸ってる場合じゃない。挨拶するの、遅れちゃった~)
遅れたタイミングで、華白は偉大な救世主に焦りながら敬礼する。
「はッ!華白一等兵です! がんばります!多分……」
骨の髄まで緊張し最低なアピールをする。案の定、ルルナは「……」とノーリアクション。
(き、きまずい……多分、失礼しちゃったかなあ。ああ!こんな事なら、ダンボールの壁にむかって自己紹介の練習しとけばよかったあああ! )
すると、井竜翼が脳内反省会をする華白に敬礼を返してくれた。
「肩の力を抜けよ。本物の神さまと対面してんだ。緊張すんのは罪じゃねえさ」
翼のイケメンなフォローに共感し、ルルナが小さく頷く。
「かしこまる必要はありませんのよ。わたくし達は友であり家族なのですから♪」
「あ、ありがたいお言葉かも~」
二人の慈悲深さに救われたが、華白は緊張のあまり失神してしまいそうだった。
ところが、カケルは華白の横で堂々と立ったまま、女神の面構えを注視していた。
彼の堂々とした態度が気に入ったのか?
ルルナは「ほう♪」と心地よく呟き、優雅な足取りで彼の元へ近寄ってから、自ら名乗り出た。
「わたくしは七神ルルナ。ご覧のとおり、全宇宙の正義を司る、希望の女神ですわ。貴方は? 」
「愛野カケルです。どこにでもいる普通の男です」
「凡人と自負する割には、可愛らしいお姿をしていらっしゃいますわね。フフ♪ 愉快なお方……」
ルルナはカケルのストレートな眼差しを見つめ、頬をわずかに紅潮させてから、さらなる質問を伺った。
「自称・一般人さん♪ 貴方に、特別な能力はございますか? 」
「生憎、スーパーパワーなんてモノとは、無縁の人生を送ってきました。ただ……」
カケルは無能力であることを堂々と宣言し、ポッケの中から『針金』を抜きだした。
「『ピッキング』だったら、けっこう自信があります」
「鍵を開錠する能力ですか……素敵なご趣味をお持ちですのね」
「光栄です。七神さまも、盗みたいモノがあるのなら、ボクを頼ってください」
「可愛らしい怪盗さんですこと。フフ♪ 愛野カケルさん……どうやら、わたくしは貴方さまに惚れてしまったみたいですわ」
大胆に告白?してから、ルルナは着重ねていた「虹色の羽織」をカケルに差しだした。
「どうぞ。わたくしの気持ちを受け取ってください。能力も、才覚も、素質もない……貴方様へお供えしますわ」
そんな女神の行為に、翼は「?!」と息を飲み込んだ。
「七神さま、一体なにを?!」
ルルナは翼の真っ当な疑問を受け流し、ゆったりとした視線でカケルを眺入る。
「神々は、コレを「銀幕羽織」と呼んでおります。毒は勿論、ありとあらゆる脅威から哀れな装着者を守ってくれる。絶対無敵の神具ですわ」
「チートアイテムかも。ぬ、布切れ一枚で『無敵になれる』なんて」
「フフ♪ コレ一つで、カケルさん……貴方の生還率は0%から100%に昇格しますわ」
「お、おぉ~。カケルの生存ルート確定かも」
一方、翼は眉間を寄せながら、カケルの横顔を睨みつけた。
「一般人が、1万年のルーツを持つ神具を授かるだと?! こんなイレギュラーが許されるのかッ……」
「さあ♪ カケルさん! 受け取ってください。わたくしの希望を♪ 」




