76話「狂気の生存ルート」
毒泥の表面は翡翠色の光彩に包まれ、華麗で艶やか。
おそろしい毒の泥からは、ダイヤモンドの原石みたいな輝きが発せられている。沼地全体からは、フワフワとした蒸気が立ち込め、その上を光蟲が飛び回っていた。
この昆虫は『毒ホタル』と呼ばれており、美しい虹色の羽が独特な存在感をしている。
現在、華白たちが立っているのは沼地の岸辺。
ここから一歩でも踏み出したら、たちまち毒の沼地に飲み込まれてしまう。
「く! ここから先には…進めない。他に、退路は残されていないのか?! 」
カケルはガスマスクの中で呼吸を荒げ、辺りを懸命に見渡す。勿論、都合のいい逃げ道など何処にも存在しない。
「小僧! 逃走劇に幕をおろす刻だ。腹をくくれ! 」
雷昂(蛾)が慌ただしく飛び回り、カケルのフォローへ向おうとする、が……
ーーードンドンドン! ーーー
荒神業魔の足音が、こちらに向かって容赦なく押し迫ってくる。
(どどど、どうしよう! あと、数秒でアイツが荒らしに来ちゃうよ)
「なにかッ、何か……希望が、退路が、隠されているはずだ」
カケルは毒の沼地と華白を交互に見て、思考を張り巡らせる。
彼が求めるようなヒントはどこにもなく、只々…毒の沼が無情に広がっているのみ。
カケルはガスマスクの奥で眉間を寄せ、横で棒立ちしている華白の両肩をギュッと掴み上げた。
彼の危機とした表情を眼前にして、華白の口から弱々しい声が漏れる。
「い、痛い、かも……か、カケル、どうしたの? 」
「いいかい、リン。落ちついて、よく聞いてくれ」
カケルが、まるで子供をあやすように華白へ囁きかける。
「キミ一人で『毒の沼地を渡って』逃げるんだ」
ーーー華白一人で毒の沼地を歩き、逃げのびるーーー
ありえない指示に、華白の頭が真っ白になってしまう。
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