75話「毒の沼地」
「あ、うぅ……」と、棒立ちする華白に、カケルが決死の覚悟で呼びかけてくる。
「リン! 」
カケルは華白の手をギュッと握りしめてから、足先を45度『左側』へ向け逃走を試みた。
「止まってるだけじゃ、格好の餌だ。とにかく走るんだ! 」
「う、うぅ……」
カケルに引きずられるように、華白もヨロヨロと森の中へ…
荒神業魔の殺気を感じつつ、暗い毒森をひたすら走る。惨めな逃走劇の中、華白は目頭を熱くさせながらカケルの背に謝罪した。
「ち、調子に乗ってごめん。や、やっぱ……わたしィ、なんかじゃ……」
「自分を責めないで。今は『逃げること』だけに集中するんだ!」
こうしている間にも、荒神業魔の足音が距離を詰めてきており、追いつかれるのは必然だった。すると雷昂(蛾)がカケルの肩にチョコンと乗って、彼の耳元で警告を発する。
「小僧! この逃走ルートは『不正解』だ。この先に待っている領域はッ……」
雷昂が言い終わるまえに……カケルと華白は森道から脱し、待ち構えていたエリアを前に急ブレーキを踏んでしまった。
「こ、ここはッ……沼! かッ?! 」
「嗚呼。そのまさか、だ。このマヌケ共ッ!」
「どッ! 毒の沼地! そんなあ~冗談キツイかも! 」
その通り、華白一行を待ち受けていたのは、雷昂が神社の作戦会議で警告していた『毒の沼地』そのものだったのである。




