4話「主人公とヒロインの乱入」
…それから二人(カケルと華白)は地下基地・アンダーベースへ到着した。
無数の軍用テントが肩を並べ、教官の怒鳴り声が地下鉄の天井に反響。
さらに、迷彩柄の耐毒軍服を着た兵士たちが行き交い、出発前の雑談が聞こえてきた。
「先輩……毒森の怪人。たしかコボルトでしたっけ? 不味そうな名前っすね」
「どれだけ腹減ってんだ、マヌケ。まあ一応、正解だな……音速で走り、30tのパンチで戦車も粉砕する『人型・甲殻怪人』それがコボルトだ」
「滅茶苦茶っすね。無敵じゃないっすか。もう、どうにでもなれ!って思うっす」
「やけっぱちになるのは早いぜ。諜報員のネタ(情報)によると、奴ら(コボルト)は100匹以上いるらしいぜ」
「気が遠くなる話っすね。一匹殺すのも無理ゲーなのに……」
「これは現実だ。ゲームショップで投げ売りされてるクソゲーじゃねえよ」
陰鬱な話題が交わる空間を、カケルは堂々と歩み進めてゆく。
華白は、たくましい彼の背中に湧き上がってくる不安をぶつけた。
「出撃前から、お通夜ムードかも」
「リン。あんまり思いつめちゃダメだよ。みんな、ブラックジョークを交えて情報交換してるだけさ」
「クスリとも笑えないけど、話の内容はわかるかも。昨日、徹夜で予習してきた、から」
「陰で努力して来たのかい。君が……24時間、ダンボールハウスに引きこもっている、君が……」
「ニート扱いしないでほしいかも。わたしィだって、目標さえあればワンチャン狙えるんだから」
華白はカケルの驚いた様子に優越感を感じつつ、予習してきた作戦内容をオドオドと説明する。
「多分、作戦のゴールは『荒神業魔』をやっつける事かも」
「大雑把に言ったら、そうだね。細かく言うなら、荒神業魔の『法術核』の破壊が最終目標なのさ」
荒神業魔の法術核。その聞き慣れないワードに、華白は思わず首をかしげた。
「ほ、ほうじゅつ……かくぅ? 」
「……そのリアクションから察するに、作戦攻略書を流し読みしてたね? 」
「あぅ、ごめんなさいィ。セーブ地点から、やり直すかも」
「ゲームじゃないんだから、べつにいいよ。じゃあ、法術核について適当に教えてあげるよ」
カケルはその場で立ち止まり、ワンツーマンで法術核の説明をはじめた。
「法術核は、荒神業魔の心臓なのさ。それで、ここからが重要なんだけど……この法術核には、心臓以外の役割があるのさ。それが……」
そんな、カケルの講座に割りこむように……
「ソレは『毒森の基盤を支える役割』ですわ♪ 」
佳麗なお嬢様口調が、カケルの説明をガヤから捕捉してきた。
「ごきげんよう。殿方の見せ場に水を差してしまい、申し訳ございません」
軽やかな足音と共に、神々しい美少女が二人の前に現れる。
身長は160cm前後、絶妙にバランスのとれたスタイルが目を引き、非の打ちどころがない。
おそらく100人にアンケートをとったら、皆が彼女を「完全無敵の美少女さま!」と唸るだろう。
美少女の髪はロングヘアーで、毛先の一本一本が金色の光沢を放ち、幻想的な雰囲気を演出している。
服装は白+黄のカラーリング彩色をした着物。布素材も超高級ゆえ、凡人には袖を通す機会すら与えられないだろう。
さらに、着物のうえに『虹色の羽織』を重ね着ており、黄金の髪と虹色の羽織が絶妙にマッチしていた。
そんな正統派ヒロインの傍らには、漫画でハーレムを築いてそうな主人公ヅラの男が並び立っていた。主人公男は「……」と口を閉ざしたまま、片手でアタッシュケースを持っている様子。
アタッシュケースの表面は怪しい呪文でビッシリと埋め尽くされており、頑丈な錠前によって硬く閉じられている。貴重なモノが入っている!と素人目でもわかる位、存在感のあるアタッシュケースだ。
着物姿の正統派ヒロイン&アタッシュケースを持つ主人公。
この二人の名を、地下都市の中で知らない者はいない。華白は引き立て役のごとく、二人の名を口にした。
「…選ばれし者の『井竜翼さん』…希望の女神の『七神ルルナさま』…かかか、感激かも。こんな所で有名人に会えるなんて! サイン貰えるんじゃ~」
「リン。ここは軍事基地。アイドルの握手会場じゃないよ」
井竜翼は、希望の女神・ルルナの加護に守られし「選ばれし者」。
七神ルルナは、毒森に故郷(伊吹町)を奪われた人々を救済した女神だ。




