3話「ショタ系幼馴染との契約?」
そして、もう一度華白の顔面がぶん殴られる……その瞬間……
「そこまでだ……」
倉庫部屋の扉がゆっくりと開かれ、一人の男が割り込んでくる。
「玄関先で、レディーの鼻を折るのは関心しないね」
突然、男の声が割り込んで来て、リーダー女の拳がピタっと止まる。リーダー女は華白の襟首を離して、声がした方を睨みつけた。
「チッ! 愛野お! 」
リーダー女が睨んだ先には、身長150cm程度のチビ男が堂々と立っていた。男の体格は痩せ型でも筋肉質でもない、程よく理想的な体質をしている。彼の外見は、男にも女にも見えてしまえるほど可愛く。コレが、俗にいう『男の娘』というヤツかもしれない。
装備も一般兵士用の迷彩服で、コレもノーマルな耐毒軍服。そして、華白と同様にマーク3ガスマスクを片手に抱えていた。
「カ、カケルぅ~~」
華白は、リーダー女の気が逸れているうちにコソコソとショタ男の後ろへ避難する。
……そう…彼の名は『愛野カケル(あいの・かける)』。華白と十年以上の付き合いがある、ショタ系幼馴染だ。
150㎝のカケルの背中に隠れる、171㎝の華白。
そんな二人を睨み、三人組リーダーが罵詈雑言を叩きつけてくる。
「王子様は、遅れてやって来るってヤツか?! 付き合い切れないわね! 」
「奇遇だね。ボクも、君たちと遊んでるヒマはないんだ。これからアンダーベースに行って『毒森攻略作戦』に備えなくちゃならないからね」
「せいぜい、ヒーローごっこに励みなさいよ。どうせ、今回の作戦も10年前と同じように、みんな全滅してハッピーエンドさ」
「君の言う通り。10年前……一回目の毒森攻略戦は失敗した。それに、毒森の魔力だって人の手にあまるモノじゃない」
毒森は、地面も草木も空だって『ぜんぶ毒』。そんな所でピクニックだって? 頭の細胞がバグってるんじゃないの?」
「狂った人間に、この世界は救えないよ。皆、糸一本の正気にしがみついて、戦ってるのさ」
ゆえに…
「人類は『荒神業魔を倒して』、伊吹町の青空と太陽を取りもどす。ボクは一人の凡人として、その栄光に貢献するよ」
彼カケルの力強い宣告に、華白の胸がほんの少しだけ踊った。
「……カケル」
(十年前からちっとも変わらない。やっぱり、カケルは『わたしだけのヒーロー』かも)
一方、リーダーはカケルの態度にイライラしながら…
「説得力皆無なのよ。馬鹿! もういい……時間の無駄だ。お前ら、いくぞ」
二人の舎弟を引き連れて、倉庫小屋から立ち去ってゆく。舎弟たちも、カケルに対し捨て台詞を吐いてから、リーダーの後に続いた。
「ショタ男! オマエなんかが、荒神業魔を倒せるもんか! 」
「コボルトの玩具にされるのがオチさ!」
虐めっ子たちは、カケル1人に暴言をぶつけてから立ち去ってゆく。
華白はチビ男カケルの背中越しに、虐めっ子3人衆が立ち去ったのを確認し、ホっと胸を撫でおろした。虐めっ子たちのせいで、華白の足はガクガク。脅威は去ったものの、未だに体は震えている。
「こ、怖かったあぁ~~。死神から、ボディーブローくらった感じ、かも」
「プロレスラーの死神なんて、いるワケないだろ」
華白のコメントに呆れながら、愛野カケルは彼女へ優しく微笑みかけた。
「……やあ、リン。じゃれ合う友達は、選んだほうが良いかもね」
「友達なんかいらないもん。この17年間、ず~とソロだったしィ! ぼっち歴の年季が違うかも」
「自慢げに自虐されても、反応に困るよ」
『友達不要論』を語りながら、150cmの幼馴染を見下ろし、迎えに来た『動機』をオドオドしながら口にする。
「今日が、作戦当日だから……カケルを迎えにきた。幼馴染として……」
「送迎してくれるのかい? 気が利くね。でも、引っ掛かるな……送り迎えするだけなのに、どうして君が軍服を着ているのさ? 」
その口振りからして、華白が毒森攻略作戦に参加する事を、カケルは知らないみたいだ。
「みッ! 3日前。私も兵士登録して、カケルと同じ『雑用兵』になったの」
「君も、入隊したのかい? 質の悪い冗談だ……幼馴染を戦場に巻き込んでしまうなんて」
……華白も軍人になった。カケルは、その事実を耳にして表情を曇らせた。
「ダメだ。女の子が毒森で戦うなんて、無謀の極みじゃないか。リン、君はこの地下都市に残るべきだ」
「嫌だ。地獄の底まで、カケルをストーキングするって誓ったもん」
「意味不明な誓いを立てないでくれ。そもそも、君は銃の扱いすら教わってないだろ」
「て、鉄砲が撃てなくても関係ないもん。気持ちは誰にも負けてないもん 」
「小学生か……君は……」
子供のように我儘を連ねる170㎝の女。そんな彼女を前に、カケルはお手上げの様子だった。
「……困ったな。君は、嫌々モードに入ると頑固だから」
(よおし! このまま推せる、かも……)
正直、戦いになど行きたくないし、今すぐ周り右してダンボールの我が家に帰りたい。しかし、ここで逃げてしまったら、カケルを守る人間が一人も居なくなる。
(だから、強引に説得して、わたしが彼を守らなきゃ!)
華白の意識は作戦終了まで、カケルを守り切る事だけに集中していた。
(もう、大切な人を失うのはイヤだ。どれだけ卑劣な手を使ってでも、カケルだけは死なせない。肉壁になってでも! 守ってやるんだから)
「わたしの同行に頷いてくれないなら、アナタと契約。いや、約束してあげるかも! 」
「約束だって? 嫌な予感しかしないけど……何だい? ソレは……」
「わ、わたしは……泣かない!!! 」
華白は青い瞳をブルブル震わせながら、何てことない『縛り(約束)』を高々と宣言してみせた。
その突拍子もない約束に、カケルは目を点にさせてしまう、が…華白の臆病かつ真剣な表情を見て「プッ」と吹きだした。
「なんとも、君らしいヘンテコな足枷だね」
「もう! こっちは真剣かも! 」
「はは、ごめんごめん。約束はともかく、君の熱意は伝わったよ。わかった……ボクの負けだ」
「わ、わたしも毒森に行っていい……やっぱダメ~とか、意地悪しない? 」
「だから、小学生じゃないって、言ってるだろ? よろしく頼むよ、リン」
「よ、よかったぁ~」
(これでカケルと一緒に毒森へ行ける!第一関門突破かなぁ、多分)
「…これから、戦場に行くのに随分嬉しそうだね。まあ、いいや……それじゃあ、リン……アンダーベースへ送ってくれるかな?」
貴重な時間を割いて、読んでいただきありがとうございました!
気に入ってくださったのであれば、是非とも「評価とブクマ」をしてもらえると嬉しいです。
お手数ですが、時間がある時にお願いいたします。