53話「成功率0%の時間稼ぎ」
当然ながら、カケルは『真紅のコボルト』の接近に気づいていない。その為、華白の訴えが届かないのは仕方がなかった。
「数少ないボクの見せ場なんだ。責任に背を向けて、逃げるわけにはいかないよ」
「意志が固くても、やばい現実はかわらないかも」
「さっき言ったろ? ピッキング道具は、今つかってるので最後なんだ。つまり、この瞬間を逃したら『ケースを開けるチャンスを失う』んだよ」
「り、理屈はわかるけど……死んじゃったら、マヌケ以外の何者でもないよぅ」
このままでは、真紅のコボルトに見つかるのは時間の問題。
(あ、あの赤いヤツに見つかったら、わたしィ達……ストレス発散のサンドバックにされるかも)
「どどど、どうしよう…」
張り詰める空気の中、極限まで思考が追い詰められ……華白の脳裏に『狂ったアイデア』が閃いた。
「そうだ。どうせ、デットエンドが確定してるなら」
魂を鼓舞させるように吠えて、車内にある「アサルトライフル」を拾った。
「この鉄砲から力をかりて、アイツの気を……逸らせば…多分」
華白はアサルトライフルを抱きかかえ、接近してくる脅威に意識を集中させる。
「……リン。無茶は止めてくれ。一人で背負いこむ必要なんて無いんだ」
カケルは華白を止めようとするが、ピッキングの最中なので、アタッシュケースから離れることができない。
「わたしィが、アイツのヘイトを独占してくる。だから、ケースを開けて」
「囮になる……とでも言うのか? 冗談にしては過激だね」
「多分、本気かも。派手に即死しても、1~2秒は……時間、稼いでくるから」




