51話「華白に『だけ』聞こえる声」
繊細かつ慎重に動く針金。カチャカチャという音がテンポを刻んでゆく。
「泥棒中(ピッキング中)は一歩も動けない。だから、君のストーキングでボクの背中を護衛してくれると助かるよ」
「……了解かも。ケースを開けるまで、カケルにはハエの一匹も寄らせないから」
「ちょっと怖いけど、介護をよろしく。リン」
……カチャカチャ、カチャ。ピッキング音が連鎖してゆくものの……
(う~ん。開く感じ0かも。やっぱり、ミミズみたいな針金で神様の錠前を開錠する!……なんて、夢物語の絵空事だったんじゃ……)
カケルのピッキングが失敗する…と、不安を抱く華白。
そんな居心地の悪い空間にて…雷昂の『使い魔(蛾)』が踊るように飛び回り、華白の左肩へチョコンと着地した。
「謹崎さんの……使い魔ちゃん。励ましてくれる感じ? 不細工なナリしてるくせに、優しいかも」
肩にとまった蛾を横目で見つめ、少しだけ冷静さを取りもどす。
「一人で、絶望してても…答えはない、かも」
(いけない。ネガティブのブラックホールに、首まで埋まってた。気持ちをリセットして、カケルの頼りない背中を信じなくちゃ! )
カケルの後ろで、深呼吸してから肩の力を緩める、が……その瞬刻……
「グッ、ガァア……ァ」
華白の耳に、聞き覚えのある「獣の唸り声」が流れ込んできた。その声を認識した途端、華白の心拍数が急激に上昇してゆく。
「ねえ、カケル。さ、殺気立った声が、聞こえたんだけ……ど」
華白は縮み上がりながら、カケルの横顔を覗いてみた。
「なんだって? そんな音。ボクには…聞こえないな」




