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2話「華白隣」


 ダンボールハウスを出発してから、少女は一人「貧民区」を歩く。貧民区全体が陰険なムードに包まれ、行き場を失ったホームレスたちが屯っている。


少女はホームレス集落へ踏み入ると、泥とカビに覆われた壁の前で一旦停止。その壁には『とある英雄のポスター』が無数に張り並べており、ポスターの表紙に一人の少女の姿が堂々と記載されていた。


「あッ、この……ポスターでキメ顔をかましてるヒトって……」


キラキラと煌めく金髪ロング。闇夜を照らすゴールドの瞳。

宣伝ポスターの中にいる少女の存在感は凡人と一線を画していた。


「し、七神ルルナ……さん」

(わたしィの記憶が正しければ…この人?って『希望の女神』なんだよね。たしか、20年前……地下都市に颯爽と参上して、多くの人を救ったとか)


「まるで、映画に出てくるヒーローかも。わたしィとは……住んでいる次元がちがうな~」


格上の存在と自分を比較して、ガックシと肩を落とす少女。


「ルルナ様になりたいな~~そしたら、ウジ虫ライフから一発逆転できるのに」


無意味な幻想(理想)を零しながら、少女は路上でたむろするホームレスの横を通り過ぎてゆく。

すると、聞きたくもないが……ホームレスたちの愚痴が聞こえてくる。愚痴を交わしているのは若者と老人のホームレスコンビだった。


「爺さん。何度も言わせないでくれよ。オレが、こんな目にあってるのは、20年前に『毒森どくもり』が街を荒らしたせいだ」

「若造よ。自分だけが、不幸でも思っているのかえ? 伊吹町いぶきちょうが毒森に破壊されて、家族や仕事を失ったのは……お前だけじゃないわい」

「オレは農家だったんだぞ。毒雲どくぐもの影響をモロにくらって、これまでの財産がパァになったんだ」

「仕方なかろうて。毒雲(どくぐも毒霧どくきりは、地上の環境を殺し尽くした。皆がお前のようにベソかきながら、このウジ虫巣窟(地下都市)でゴミを漁っておるのじゃ」


「……やるせないな。毒森が現れるまで、高級車で交通違反しまくって、女を抱きまくって……充実した青春の連続だったのに……今は、石鹸みてえなクッキーで餓えを誤魔化してる」

「安心せえ。この地獄もそう長くはもたん。ワシの予想だと、そうさな……あと2~3年で食料が底を尽きる。つまり、終焉は鼻の先というワケじゃ」

「タイムリミットはあと数年、か。フ、人っていうヤツは……簡単に滅ぶんだな」

 

 ホームレスコンビの人類終末のシナリオを憂鬱な気持ちで聞き流しながら、少女はホームレスの集落を離れ目的地に到達する。そこは人気のない場所に佇む倉庫だった。


 少女は周りを挙動不審に見渡し、倉庫のドアをノックしようとする。


「迎えにきたよ~~。カケルぅ~~。やさしい幼馴染が起こしにきたよ~~」


コバエのような声で呟き、部屋の中にいる者へ声をかける、が…


 「華白! 華白隣!!! 」


どこからともなく『華白隣はなしろ・りん』』と、女の声が少女の名を怒鳴り上げてくる。乱暴に名前を呼ばれ、少女…いや『華白隣はなしろ・りん』はビクッと肩を震わせてしまう。


「ひ、ひぃっ」

(あぁ、見つかっちゃったァ~。スタート地点から、奈落の底かも! )


案の定、虐めっ子三人組が物影から現れ、華白一人を包囲。虐めグループのリーダー女は、華白の軍服姿を見て、こめかみをピクピク強張らせた。


「へえ~アンタ、毒森に行くんだ? 」

「はぃ~~たぶん……」

「ハッ!涙が出るほど勇敢ね! ストーカー女があ!」

 

 ……ドゴォ!

三人組のリーダーがオオカミのように吠えながら、華白の顔面にストレートパンチを食らわせる。


「あうッ」


 赤い鼻血を流しながら、尻餅をついてしまう華白。


「いィッ、ヒィ! 」

(こわい。足が……震えて、逃げられない……かも)


尻餅をついたまま、ガタガタ震える華白。その滑稽な姿を見下し、三人組がケラケラ嘲笑う。


「絶景ね。ストーカー女には、お似合いのザマだ! どうぜ……『チビ男』が毒森に行くから、私もついていくもん~って流れだろ! 」

「わたしィは、カケルの幼なじみポジション……10年やってるし」

「自慢にならないよ、ソレ!……大体、あんなチビ! コボルトに食われてデットエンドさ」

「カケルは死なない、かも。多分、わたしィが守るから」

「頼りがい0ね! 臆病者の肉壁じゃ、ミジンコすら守れないっての! 」


リーダーは華白の襟首を掴み上げ、怒鳴り散らしながら拳を握りしめた。


「ホントくだらない! だったら、二人仲良く『毒森の餌食』になりやがれ! 」



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