47話「おいしい毒ガス」
1%でも敵と遭遇するリスクがあるのなら、潔く撤退したほうが賢明かもしれない、が……カケルは危険を承知のうえで力強く頷いた。
「心配なんて、取り越し苦労だよ。どんなアクシデントが相手でも乗りこなしてみせるさ。それに、リン……キミに危険を背負わせたりしないよ」
カケルは雷昂の『蛾(使い魔)』を右肩に乗せ、ガスマスクのレンズをキラリと光らせる。
「ボクが神具を盗んでくるから、君はここで朗報を待っててくれ」
カケルは茂みから出てゆき、毒森北側の地を堂々と歩んでゆく。
華白は、その指示に従わず…彼に続いて茂みから離れた。
「『はい、そうですか♪』って留守番できるワケないかも。もう! どう転んでも、知らないから」
……一歩、二歩、三歩……
緊張した足どりでカケルの背中に追従し、毒霧に覆われたフィールドを進んでゆく。
(大地も空気だって、ぜんぶ毒…)
「それなのに、わたしィ…ガスマスク無しでも、平気だし……へ、ヘンなの」
華白は素顔を毒霧に晒したまま、挙動不審に歩き続ける。この時点で既に、華白は『致死量の毒霧』を吸い込んでいた、が。命に別状もなく、それどころか逆に…
「ど、毒霧を吸って、安心してる自分が…いる、かも」
「あれえ~わたしィって、コボルトの100倍バケモノしてるんじゃ~」
確かに、コボルトは脅威だが、今の華白にとっては『毒人という存在に変異した自分自身』が一番怖ろしかった。




