38話「二回目の契約」
『毒森マップ』の前でケンカをする二人の間に、カケルが仲裁した。
「ケンカをするのはエンディングの後にしよう。今は、荒神業魔を倒すことに集中するんだ」
「切り替えがエグい、かも。で、でも…」
『荒神業魔を倒す』という台詞を聞いて、華白の顔に影が差す。
(あんな怪物。しゅ、主人公補正がカンストしてても、たおせない……かも)
一方の雷昂は、ぶっきらぼうな口調でカケルを問い詰めた。
「雑魚の分際で史上最強の管理者を倒す……か。フン、神がかった愚かさだな」
「否定しないよ。ボクの影響力なんか、蟻一匹と変わらないからね。でも、それでも……諦める理由にはならないのさ」
「口先だけは一人前だな。運命が、ご親切に『不可能だ』と啓示しているのに……抗うのか?」
「むしろ、運命の風が逆向きの方が、モチベーションが上がるよ」
「愚かさと勇敢さを、はき違えておるぞ。小僧……」
冷めきった雷昂の問答に、カケルは躊躇なく頷き返した。
「フンッ。『無謀なバカ』の未来を鑑賞するのも、また一興か。よかろう、その愚行を羽ばたかせるがよい」
「ありがとう、巫女さま」
「調子に乗るな。小僧」
カケルはツンとする雷昂に微笑み、これからの作戦について言及してゆく。
「それじゃ、これからの作戦を……」
「て、天地がひっくり返っても……無謀、かも」
だが、華白のネガティブ発言がカケルの言葉を遮った。
「……リン」
「翼さん達とも逸れちゃったし、大尉だって死んじゃった。もう、わたしィたち二人じゃ、どうにもならないかも」
確かに、今現在、ここにいる戦力は華白とカケルのみ……
「鉄砲の一つもない『二人だけの軍隊』じゃ、ウサギの一匹すらも倒せないかも」
「過小評価は良くないな。流石に、ウサギ相手なら何とかなると思うよ」
それに…
「素手でも丸腰でも、諦めるわけにはいかないんだ。あの日、妹に頼まれたんだよ…『青空を取りもどして』ってさ」
「妹さんとの約束だって大切、だけど! 気持ちだけじゃ、不可能の壁は壊せないかも」
「フン。馬の骨の分際で、微妙に現実主義なのだな」
「だとしても、ボクは諦めない。『欠陥した、この世界』を救ってみせる。どんなにカッコ悪くても0%に立ち向かってみせるよ」
彼の決然とした表情に圧され、華白の感情が沈んでゆく。
(ああ~やっぱり! 口先だけじゃ、カケルは動いてくれない?! )
説得に失敗し、ズーンと落胆する華白。
そんな彼女を安心させようと、カケルが優しく語りかける。
「心配しないで。これ以上、ボクのワガママに君を巻き込むつもりはないから。リンは、ここにいて……」
そう語る彼の表情が、華白の目には亡くなった父と重なってみえた。
十年前……「必ず帰って来るよ」と約束して戦場へ発ち、そのまま帰って来なかった父。カケルと父親の表情を重ねてから、華白は確信する。
(あの時みたいに……留守番ルートを選んだら! 絶対、彼は返ってこない)
「そんなの……イヤ、断固お断り…かも」
十年前の悲しみを追体験するのは御免だ。
ゆえに、ガタガタ震えながらカスみたいな決意を発してみせる。
「わたしもぉ、一緒にいく!」
「リン。困らせないでくれ」
「たしかに! このボロ神社にかくまって貰えば安全だと思う。でも、わたしは『アナタを守る為』にここまでストーカーしてきたの! 」
「気持ちは嬉しいよ。だけど……これ以上、君を危険に巻き込みたくないんだ」
カケルに拒まれても、華白は引き下がらない。
「怖くて、逃げたくて、足がガクガクだけどッ。わたしだって役に立つ!『木偶の棒』の底力! とくと味わわせて上げるんだからあ」
華白は何が何でも食らいつく。
「OKって観念するまで、駄々をこねてやるんだからッ」
カケルは華白の気合いにヤレヤレと呆れつつ、首を縦に振った。
「リン。キミはチキンレースの覇者だね。わかった……降参だ。貧弱なボクに力を貸してくれるかい?」
その問いかけに、華白は表情をパァと輝かせた。
「まかせて! 最高の肉壁になって、アナタを姫プしてあげるかも」
「ハハ。そこまで、しなくても……」
「笑えぬわ、阿呆共が。ここまで気色悪い取引は、はじめて見たぞ」




