37話「君が何者であろうとも」
カケルの下らない冗談が、華白の気持ちを少しだけ明るくさせる。
「ところで、君は……大丈夫なのかい? 」
「わ、わたしの……わたしィ、は……」
(勿論、最低かも。 問答無用に『人間を辞めさせられた』から…… )
『自分の体』を意識した途端、得体の知れない恐怖と不安が降りかかってくる。
「わッ……わたし、わたし。体が…ど、どく…」
(『毒バフ人間』になった……って白状したら、カケルに嫌われるかも)
それ故、溢れ出しそうな涙を堪えつつ、ズタボロの感情を引きずりながら、小さく頷いてみせた。
「だだだだ! 大丈夫ッ! わ、わたしィなら、平常運転かも」
(ダメ! 『泣かない』って約束したから、こんなことで約束を破っちゃ…)
自らを律し、猿芝居でこの場を乗り切ろうとする。すると、懐かしい『温かみ』が弱々しく震える華白の頭を包みこんだ。
「え? 」
華白の唇から間抜けな声が零れる。
そこには、華白の頭をギュッと抱きしめるカケルの姿があった。
「……がんばったね。リン」
カケルは華白の耳元でそっと囁き、父親のように彼女の髪をやさしく撫でる。華白は、彼の温かさにすがるかの如く、150センチのショタ男の腰にしがみついた。
「わたしィ、毒バフ人間に、ジョブチェンジ……した、かも」
体を震わせ、声を震わせ、自身を否定するように真実を白状する。
「……そっかあ」
一方、カケルは一語も発する事もなく、華白の想いをのどやかに受け入れる。
「何でもドロドロに溶かしちゃう、緑色の血が出てきて! 毒霧を吸っちゃってもピンピンしちゃってて!」
「……君が何者であろうとも、ボクはリンの味方だから」
華白隣が毒人間になったとしても、愛野カケルは否定せず受け入れてくれる。
(ああ、多分……この人の為になら、死ねる、かも)
華白は、子供のように彼の胸にすがりつきながら、命をかける動機を再認識した。
すると……
「フンッ」
聞き覚えのある「ぶっきらぼうな萌え声」が、二人の間を割り込んでくる。
「あひィ! 」と、慌てふためく華白。
ゴキブル並みのスピードでカケルから離れ、萌え声の方へ恐る恐る視線を流す。
そこには、殺気立った雷昂が仁王立ちしていた。
「神社でイチャつくな。阿呆が」
「の、覗き見は趣味わるい、かも」
それから、しばらくして…
雷昂に「ついてこい」と命令されて、華白とカケルは『神社の祭壇』へ移動した。
神秘的な祭壇が部屋の奥に佇み。木彫りの神像が、祭壇の上で威厳を漂わせている。また、円卓の机が祭壇の前に設置されており、カケルと華白はそのテーブルを囲みながら雷昂の言葉を待っていた。
「……コヤツを、その節穴の目に叩きこむがいい」
雷昂は、年季が入った巻物を卓上に広げて、偉そうに説明を連ねる。
「見た目はゴミだが、毒森のあらゆる情報が詰められておる」
ソレは1枚の古紙で紙面に『毒森の全体図』が詳細に記録されていた。
「古本屋の在庫みたいな紙質をしているけど……もしかして、コレは『毒森のマップ』なのかい?」
「悪くない考察だな、小僧。皮だけの馬の骨とは出来が違うらしい」
「う、あぅ……)




