33話「毒人」
「フン。荒治療だが、首の皮一枚つながったな」
雷昂がカケルの治療を完了させ、散らばった医療具を片付けはじめる。
「わたしィの力じゃ、どうにもならなかった……かも。ありがとう、謹崎さん」
「気安く『さん』付けするな。馬の骨め」
雷昂はぶっきらぼうに言い返し、寝息を立てているカケルに優しく毛布をかけた。
「コヤツは100回死んでいても、なんらおかしくない傷を負っていた。しかし、今こうして息をしておるとは……まったく、呆れた小僧だ」
雷昂の解説をBGMにしながら、華白はヒッソリと唇を噛みしめた。
(わたしィ、最初から最後まで……カケルの足、引っ張てた……)
幼馴染を守る!と、意気込んで毒森までストーキングしてきたのに、いつものようにガタガタ震えることしか出来なかった。華白は一人、思いつめるように青い瞳を沈ませる。雷昂は、そんな臆病者の横顔を睨み、踏み込んだ質問をした。
「貴様ら、軍隊の狙いは『荒神業魔の打倒』であろう?」
「え、ど、どうしてソレを……」
「侮るな。凡人の願望など、目を瞑ってでもわかる」
雷昂は自信たっぷりに吐き捨てて、軍の計画を淡々と並べてゆく。
「貴様らの街は毒森のせいで崩壊した。毒森を浄化させ、故郷(街)を取り戻すには…荒神業魔の『法術核』を破壊することが必須……」
……だが、しかし……
「そのザマだと『サイコロの目に見捨てられた』みたいだな。フン、雑魚がいくら群れたとしても、管理者である奴に敵うはずもない。『当然の結果』というヤツだろうよ」
「ギャンブル感覚で戦場にいく人なんか、いないかも」
「何故、憤怒せぬ? 現在進行形で侮辱されているのだぞ? 」
「………あぅ」
(ムカつきが完凸してるけど! ぜんぶ事実だから、言い返せないかも)
「フン。どうやら今回の『毒人』は、口喧嘩も貧弱みたいだな」
―毒人―
そのワードを耳にした途端、華白の胸に電流が走る。
「どッ! 毒人って?! 」
「流石、馬の骨だな。本当に何も知らないらしい。フン、語ってやるから、小石サイズの脳ミソにしっかり叩きこめ」
(ヤバ。なんか、危険な香りがする……かも)
「結論から下すなら『毒人』は新人類の一種だ。かつ、森羅万象の毒素を吸収し、自信の力へ変えてしまう『毒人間』でもある」
「どどどどどど! 毒を!、自分のパワーに?! 」
ありとあらゆる毒素を、己のエネルギーに変換させてしまう新人類。最低最悪の事実を突きつけられ、華白の顔から血の気が引いてしまう。
「キサマ……毒霧を吸っても平気であろう? 血が…硫酸になっていただろう? 」
毒霧(毒ガス)をどんなに吸っても平気だったこと。緑色の血がコボルトの甲殻をドロドロに溶かしたこと。華白の脳裏で、おぞましい証拠映像が次々と再生されてゆく。
「ひぃ! わたしィ……化物に改造されて……」
「フン。ようやく着いたか。己が『異物』であるという終着点に」
「嫌。い、いやァ……」
「光栄に思うがいい。毒人に進化できる確率は100億分の一。つまり、キサマは『奇跡の外れクジ』を神引きしたのだ」
トドメと言わんばかりに、雷昂が〆の一言を発する。
「華白隣。キサマは、毒森の狂気に選定され『毒人』に転職したのだ」
非情な真実が次々と明かされてゆき、華白のメンタルが限界に達してしまう。
「ヴッ! ヴゥッエ! 」
「うじ虫め。神社のなかで嘔吐するとは……」
雷昂のゴミをみるような視線が、華白の弱々しい背中に突き刺さる。
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