32話「謹崎雷昂」
(この娘。ちんちくりんで、凄くちっこい。仮面のせいで面構えは……見えないけど)
「貴様。それがしを『幼児扱い』するとは、いい度胸だな……まあ良い」
一方、幼女巫女はクルリと背を向け、可愛らしい声で華白に命令した。
「ついてこい」
「災難かも。仮面のロリ巫女幼女から、命令されるなんて」
「悪口なら、相手に聞こえないように吐け。阿呆が」
華白の愚痴に幼女巫女はピクリと反応すると、顔を隠している仮面を外す。
仮面が無くなって、幼女の素顔が晒される。華白は、晒された幼女の顔を見て、思わず胸をドキドキ弾ませてしまった。彼女の目色は鮮明なサファイヤブルーで、満月のようにまん丸の瞳からはハッキリとした芯の強さを秘めていた。
ちっこいロリ幼女巫女のビジュアルに、言葉を失ってしまう華白。
「も、萌える…かも」
「時代遅れの感想を垂れ流すな。間抜け…」
対して、幼女巫女はまん丸の瞳をギロリとさせる。
……それから……
「棒立ちしている暇があるのか? 小僧を死なせてしまうぞ? 」
幼女巫女はカケルのことを警告してから、トテトテと神社の中へ消えていった。
その警告に我に返る華白。
「……カケルッ」
石畳の上で寝ているカケルの元へ、足をもたつかせながら駆けつける。
(か、カケル……全身キズだらけな上に、足から頭まで血塗れだ~)
「治療しないと! とりあえず、安全なところに! 」
意識のないカケルの肩を支え、怪しすぎる神社を睨みつける。
「あのロリっ娘。怪しいオーラーが満載だけど……」
そもそも、どうして…あの巫女幼女は華白たちを助けたのか?
罠だと言うことは見て明らか、だが……
「この神社に隠れておけば、毒霧やコボルトに怯える必要はない…多分」
ならば、カケルのコンディションが回復するまで、相手の掌で踊らされるのも一つの解決策だろう。
「カケルのため、カケルのため……だから」
小声でひっそりと呟き、カケルの体を引きずりながら、慎重な足取りで神社へ向かってゆく。
「気にくわないけど、ロリ幼女のラジコンになってあげるかも」
……数時間後……
幼女巫女と華白は『畳8畳スペースの和室』でカケルの面倒をみていた。ここは毒牙神社の寝室。一般的な襖や押し入れがある普通の和室だ。
そんな寝室の中央にて、カケルは布団に包まれながら寝息を立てていた。
また、幼女巫女はカケルの枕元に寄り添い、消毒液やガーゼで彼の手当てに励んでいる模様。
カケルの治療をする幼女巫女の横顔を見て、華白はホッと胸を撫でおろす。
「罠だって決めつけてたけど。カケルを助けてくれるなんて……ありがとう」
「礼などいらぬ。使える駒を無下にしたくないまでよ」
幼女巫女はぶっきらぼうに吐き捨てながら、カケルの傷ついた体に優しく包帯を巻いてゆく。
(この娘……毒舌で乱暴で上から目線だけど~多分、常識のある悪人かも)
華白は妙な安心感を抱き、名前をさりげなく聞いてみた。
「ね、ねぇ……あなた、名前は?」
「調子に乗るな」
「ひぃ~ごめんなさ~い」
幼女の苛立った表情に、華白は(少し、踏み込みすぎたかも)と後悔する。そしたら、幼女が「……」とワンクッション置いて、華白の質問にぶっきらぼうに回答してくる。
「……『雷昂』だ」
「ら、らいこう? 」
「二度言わすな。それがしの…名だ」
その珍しい名前に、華白は首を傾げてしまう。
「謹崎雷昂。毒の女神に仕える『偉大なる巫女さま』だ」
「わ、わたしは華白隣。となり……と書いてリン」
「フン。有象無象の名称に、興味はない」
「もう、せっかく自己紹介したのに~」
(この娘。チンチクリンな見た目して、中身がチンピラかも)




