27話「自ら、命綱を手放す女」
見事、カケルの右ストレートが炸裂したものの……
ッ!ドガア!!!
荒神業魔のカウンター触手攻撃がカケルの顔面にクリーンヒット。加えて、頬を殴られた衝撃でガスマスクがカケルの顔から飛んでしまう。
「カケル?! 命綱がッ! が、ガスマスクが逝って?! 」
華白の悲鳴どおり、カケルのガスマスクがゴミ屑となって地面へ落ち、空気中の毒霧が命綱を失った彼に襲いかかってきた。
「うッ! アガッ、ゲホッ! 」
痛々しく咳き込み、崩れ落ちるように片膝をつくカケル。幼馴染のピンチに、華白の緊張度が絶頂に達してしまう。
「カケル! 毒霧を吸っちゃったの?! 」
(このままじゃ、カケルが毒ガスの餌食にされる…どうにかしなくちゃ……)
「と、とにかく! 目の前のデカブツを巻かないと」
「〇✕〇…ッ! 」
荒神業魔が鼠を追い立てるかの如く、ジリジリと距離を縮めてくる。
「無敵のラスボスさん。ず、随分と、余裕こいてるかも」
華白は、相手のふざけた態度に苛立ちを覚えたが……
「煽りに踊らされちゃダメ。おおお、落ちついて一発逆転を狙おう……」
一旦呼吸を置いて『とあるアクション』を試みた。慎重に後退りしながら、腰にあるアイテムポーチをゴソゴソと探り『フラッシュ・グレネード』を取出す。
「倫理観的にどうかと思うけど……よかったあ~。兵士さんの死体から盗んで」
そう……このフラッシュ・グレネードは、毒森北側でコボルト軍団に仲間が虐殺された時、兵士の死体からコッソリ頂いた盗品だった。
「この閃光爆弾なら……わたしィのワガママ、聞いてくれるはず。多分! 」
緊張しまくりの強張った指先で、フラッシュグレネードの安全ピンをつまむ。
「はやくぅ! 神さま! ルルナさまあああ! 」
神頼みしながら、グレネードの安全ピンを限度一杯の力で引きぬいてみせた。
「たあああああああ」
腑抜けた掛け声と共に、フラッシュグレネードを荒神業魔めがけて全力投球。投擲されたグレネードがゆるやかな軌道を描き荒神業魔の頭部に「コツン」と当たって……ピカ!眩い閃光が、荒神業魔の視界を覆い隠した。
「✕〇✕ッ!!! 」
強烈な閃光に視界を遮られ、荒神業魔の動きがフリーズしてしまう。
「よッ、よおし! 」
(荒神業魔の動きがとまった。多分、閃光爆弾が仕事したんだ)
華白は敵が混乱しているのに便乗して、カケルの元へカサコソと駆け寄った。
「カケル、カケル! 」
「うッ!ぐぅ…リン。い、息が……」
「そ、そんな~。どどど、どうしよう……」
何でも良い、ガスマスクを失った彼を救う手段は?!
「なんでも良い!『毒ガス(毒霧)に感染したカケルを助ける方法』を考えなくちゃ」
(おねがい! 『打開策』を閃いて。IQ3の私の頭脳! )
「……あ、閃いたかも」
この難局を乗り切る「唯一の選択肢」が、華白の思考回路に入り込んできた。
(う~ん。この『解決方法』って、我ながら狂気の沙汰かも)
……だとしても……
「カケルを助けるには、悪魔に魂を転売するしかない、よね」
そもそも愛野カケルを護衛する為だけに、この地獄へやって来たのだ。ならば、解決方法が異常であっても行動しない理由にならない。
「わたしとカケル……どっちが大切なのか? 一目瞭然、かも」
華白は手を震わせながら、自らガスマスクの留め具へ触れる。
「彼の夢が、叶うのなら! 」
命綱であるガスマスクを顔から着脱し、人形のような素顔を毒霧まみれの空気にさらした。
「死ぬ事なんて、怖くない!かも」




