26話「ショタ男は、何度だって立ちあがる」
もはや華白に抵抗する気力はなく、小悪党のように命乞いするので精一杯だ。論なく、現実はそう甘くない……荒神業魔は巨大球体を掲げ、眼下の華白を見下す。
(お腹を貫かれて、肩を貫かれて。ペシャンコにされちゃうなんて! )
「多分、今日のわたしィ、宇宙で一番不幸かも」
散々な一日に絶望する華白。そして、巨大鉄球が落される、その刹那……
「よそ見している場合かい! ボクは後ろだ! 」
死角から、カケルが颯爽と現れて、荒神業魔の背中へ張りついた。
「ッ! ✕△✕! 」
背中に害虫がつき、荒神業魔はとっさに巨大鉄球を引っ込めると、5mの図体を荒々しく振り回した。
カケルは、激しい荒神業魔の抵抗に耐えきれず、相手の脊から手を離してしまう。38点の男は雑に投げ出されてしまい、地面の上をボールのようにバウンドしながら、数メートル先にある毒木に背中から衝突した。
「ぐぅ! 」
「か、カケル! 」
華白はカケルの元へ歩み寄り、冷汗を滝のように流しながら彼の顔を覗く。
「あんな化物に、敵いっこないよ~にげよう……」
「ハア、ハァ……僕は逃げない」
カケルは華白の提案を拒み、ズタボロの体で立ち上がってみせた。
「約束したんだ。この『欠落した世界』を守るって。だから……」
「無駄だよ! わたし達みたいな『じゃない』組が戦っても、ムダなんだよ~」
「……それでも、僕は、0%に立ちむか、う」
「✕〇✕、□……」
荒神業魔は往生際が悪いハエ(カケル)へ、ドゴオ!と触手攻撃を浴びせた。
「ぐ、あああ! 」
繰り返して、1発、2発、3発……触手の猛攻がカケルへ襲いかかる。しかし、どこまでフルボッコにされようとも……
「ハア、ハア、まだッ……だ! 僕は、まだ倒れてない、ぞ」
満身創痍の体を引きずりながら、カケルは荒神業魔との距離を着実に縮めてゆく。そんなチビ男の気迫に荒神業魔は思わずたじろいでしまう。
「……ッ。〇△〇?! 」
カケルの奇行に動揺し、僅かにのけぞる荒神業魔。
合わせて、荒神業魔の胸部にある『とあるモノ』が露出した。ガラスのような透明感を備えた『水晶玉』。多角的な虹色の光りを発光するソレこそ……
「アイツの胸にあるピカピカ。アレが……法術核!!! 」
(あの水晶玉っぽいのが、ルルナさまが言ってた『法術核』だよ、ね。つまりィ~アレを壊せばハッピーエンドかも)
正真正銘、荒神業魔の法術核を目視して、華白は青い瞳を震わせた。
カケルの鼻先で、人類が破壊するべき『最終目標』が光りを放つ。この一瞬に、カケルは体中の力をフルスロットルさせた。
「おおおおおお!」
獣のごとく雄叫びを上げ、ズタボロの拳を握りしめ、全力全開の一撃を放つ。38点の男が打った一撃は荒神業魔の法術核に見事に命中した。
「カケルの……パンチが、届いた? 」
……と華白が実況するものの、所詮は人間の右ストレート。急所の『法術核』を攻撃されても、荒神業魔はケロっとしている。
(分かってたけど、ノーダメージかあ~でも……)
「やっぱり、カッコイイ……かも」
華白は、不可能に立ち向かうカケルを見守りながら『この人みたいになれたらな~』と胸の片隅でひっそりと思ってしまった。




