23話「セクハラおじさんの末路」
「で、これからのスケジュールだけど……」
カケルが会話を1テンポ置いて『今後の展開』について深堀りしはじめる。
「僕たちは、二人そろって孤立している。素晴らしい話だよね」
「全然、嬉しくないかも。でも、おおよその展開は想像できる。翼さん達と合流する感じだよ、ね?」
「ああ。ここから10分くらいランニングすれば、翼さんと合流できるはずさ」
「毒森を散歩とか、死んでもゴメンかも」
二人ではどうにもならないが、他の仲間が一緒なら活路が切り開けるかもしれない。
次の目標が定まり、二人の間の空気が張りつめる。そんな空気の中、カケルは華白の表情を覗き『とある疑問』を口にした。
「ところで、リン。怪我、してない? 」
「え?! なッ、なんで? 唐突な紳士ムーブ? 」
「君はコボルトに襲われたんだ。心配するのは当然じゃないか」
「え、えェ……とぉ~」
突として、怪我の事を追及され、華白は『傷痕のついた腕』を咄嗟に背中の裏へ隠した。
(傷口から『硫酸の血』! なんて……1億円積まれても、告白できないよ~)
「どうしたのさ? どうして、腕を隠すのさ? 」
「そ、それは……」
(硫酸の血が出てきた~☆なんて言ったら、カケルに嫌われちゃう。どどど、どうにかして誤魔化さなくちゃ~)
「わたしィなら、このとおり! 五体満足かも~多分……」
「……昔から、君はウソが下手だよね」
赤点レベルの猿芝居を見抜き、カケルが身を乗り出して華白の傷を覗き見ようとする。
「腕を怪我してるんだろ? だったら、急いで応急処置しないと……」
そうして、カケルが腕を見ようとした……その寸時……
「ぎやあああ! 」
何の前触れもなく、男の叫び声が遠くから聞こえて来た。
「イッ、ヒィ! 何なのぉ」
「この悲鳴は、間違いない! 仲間の声だ。しかも、近い! 」
絶叫が聞こえて来た方を見ると…そこには、血塗れ姿で倒れている兵士が一人。カケルと華白は兵士の顔を視認して声を轟かせた。
「「大尉! 」」
髭面大尉が、二人の数メートル先の地点で倒れていたのである。
「あぁ、おじさん大尉がぁ~」
(鳥頭の私でもわかる。大尉の身にとんでもない事が起きたって)
「や、やばい…かも。危険レーダーが警告してる」
「今、行きます。大尉!」
一方、カケルは躊躇なく立ち上がってから、大尉の元へ駆けつけようとする。
「まさか、助けにいくつもり?! お手本のような自殺行為かも」
「心配いらない。コンビニに行くようなモノさ。大尉を担いで戻ってくるよ」
「軽いノリで無茶しないで~」
カケルは華白の制止を払い、迷うことなく大尉を助けにいく。そんな彼の背中に、華白はヤケクソ気味についていった。
「もう! どうとでもなれ!って感じかも!」
倒れている大尉のもとへ近づく華白&カケル。
「大尉! 息してますか?! しっかりしてください! 」
「傷がエグすぎるよ。あ、ありえないかも」
大尉の傷は目も当てられない状態だった。手足は四方へ折れ、体内で砕けた骨が皮膚を突き破って、外へむき出しになっている。
(大尉の体、壊れたオモチャみたいになってる。コボルトにやられた感じじゃない、かも)
したらば、大尉が『何かを訴えるように』口を動かした。
「あ、あい……つ、だ」
大尉は呼吸を荒げ、血塗れの指先で『森の奥』を指差した。
「アイツに、タコ殴り……にされちまったんだ。ボケぇ」
支離滅裂な大尉の言動に、カケルは困惑することしかできない。
「大尉! 『アイツ』って、僕たちに何を訴えたいんですか?! 」
……その問いに応えるかのように……
ドスン、ドスン、ドスン
重量感のある足音が、森奥から華白たちの元へ接近してきた。




