236話「乱入者の声」
…………
しばらく走ってゆく内に、歩は人が寄りつかない場所にたどり着いた。
「ここって、たしか…汚水区域だったけ?」
岸の上から汚水川を見渡し、ゴクリと喉を鳴らす。
「高い。もしも、ここから落ちたら…」
ここから落ちたら、楽に…なれる?…そんな魅惑的な囁きが聞こえたように気がした。
「だ、ダメだ!そんなことしたら、天国のお父さんに怒られる!」
歩は自らの頬を叩き、悪魔の誘惑に抵抗する。
「家に帰ろう。帰りを待ってくれる人は、誰もいないけど」
ちっぽけな背中を汚水川に向け、帰路に着こうとした…そのとき…
―――ズルッ
「ッ?!あ、足が、スベって?!」
歩の足が見事に滑り、背中から泥水川へ見事に転がり落ちてしまった。
―――ドボン
「ふかいッ…ひきずり、こまれッる!」
想像以上に汚水川は深く、歩の体がズルズルと泥水川へ沈んでゆく。
「口の中に泥がはいって、息が!」
手足をバタつかせ、泥水の濁流に抗うものの、状況は悪化するばかり
「おぼれ、る…だれかッ…たすけ…」
泥水の魔の手に自由を奪われ、歩の頭に『死』の一文字が浮かびあがった。
「あぁ…もう、ダメ…だ」
そして、歩がすべてを諦めようとした瞬間…
「あきらめないで。今、助けるかも!」
どこからか……オドオドとした女の声が聞こえてきて、立て続けに「とある乱入者」が汚水川にダイブした。




