21話「ちょっとだけ早い、感動の再会?」
そんな風にして、自分自身に怯えている、と…
「……ン! り……ん! リン!!! 」
聞き馴染んだ『男の声』が、死角から華白の鼓膜を叩いてきた。
(このマヌケな声って、まさか?! )
声の方面に視線をやると、そこには150cmのショタ男がいた。
「カケルぅ~」
「リン! 」
カケルが切迫した様子で、華白の元へバタバタと駆け寄る。
「銃声がしたから、まさか! と思って駆けつけてみた、けど。よかった! 君が呼吸してて」
「心配するポイント、ズレてるかも……」
カケルは、キョトンとする華白に『今後の展開』を早口で説明する。
「仲間のことは残念だけれど…今は脱出を優先するべきだ。こっちだ! ついてきて! 」
「……う、うん」
華白はモタつきながらも懸命に脚を動かし、カケルを後追い。二人は毒森北側の緑辺へ移動して、青々とした茂みへ飛び込んだ。
「窮屈だけど、ちょっとの我慢さ。あと、素手でこの葉に触れないようにね。見た目はキレイでも、全部『毒』だからさ」
「自分から、毒に触るヤツなんて、いないかも」
華白は『毒の茂み』の説明を聴き入れつつ、カケルの尻に張りついて四つん這い姿勢で進む。
「あひィ~お手本のような悪夢だよぅ」
「毒の見本があっても、何の勉強にもならないけどね」
茂みの中を進行する度、毒の草枝がVK6耐毒軍装に絡みついてくる。華白はヒラヒラスカートの軍服って?! ……と散々文句を垂れていたが、初めてこの軍服に感謝の念を抱いた。
(服のセンスはアレだけど……この軍服がなかったら、今ごろ…地獄逝きだったかも)
毒の草枝に用心し、毒の茂みから抜け出すカケルと華白。
窮地から脱出した二人を、今度は『毒の樹林』が歓迎してくる。
「ふう、ここまで逃げれば一安心かな、コボルトだってヒマじゃないだろうしね」
「多分…アイツらには休暇なんてないかも」
一応、コボルトの追跡はなく、毒植物以外の脅威は見当たらない。
かいつまんで言えば、ピンチからの脱出に成功した訳だが……
華白は震える体を抱きしめ、ガスマスクの中で奥歯をガタガタ震わせた。
「みみみ、みんな……怪物たちのデザートにされちゃった」
(それどころか!チャランポランな私『だけ』が、生き延びちゃったよおおお)
「多分、あの大乱闘じゃ……大尉だって、髭をむしり取られちゃってる。もう、お終いだあ~」
「リン。落ち着いて、深呼吸して。コボルトがオジサンの髭を集めるわけないだろ」
カケルが、一人パニックに陥る華白に優しく呼びかけるものの……
「みんな、皆……地獄へ墜ちちゃうんだ~お終いだ~」
「物騒なこと言わないでくれ。諦めるのは早いよ。部隊は機能してる……翼さんを含めて10人、生き残っているよ」
…つまり…
「希望は壊れちゃいない。亡くなった人達の汚れたバトンは、僕たちが引き継げばいい」
「カッコよく言われても……わたしィには、責任転換にしか思えないかも」
カケルの発言は混乱状態の華白に届いていない。
「毒森の肥料にされる位なら、いじめっ子たちにボコされてる方がマシかも」
そんな彼女に向かって、カケルが喝を入れる。
「リン!!! 」
「ひィ! 」
ショタ男子の大声に、170㎝の図体を強張らせてしまう華白。
驚きはしたものの、カケルの喝によって恐怖と不安が少しだけ和らいだ。そうして、胸の鼓動が落ち着いてゆき、いつものオドオドした姿勢を取りもどす。
「あぅ、ごめんなさい……かも」
「ううん。怒鳴ったりしてゴメン。どう? 大丈夫そうかい? 」
「うん。多分……」
華白の自信0の返答に、カケルは「そっかあ」と相槌をうってから……彼女の青い瞳を見て『とある失敗』の説明をする。
「リン。まずは…君を、車の中に置いてきぼりにしたこと……謝らせてくれないかな」
「ホントだよお! 放置プレイをかまされて、寿命が1000年縮んじゃったんだから! 」
カケルは、華白のブーイングを受け受け止め『装甲車に、華白を置き去りにした理由』を弁明する。
「突然、装甲車が横転させられた後……翼さんからの追跡命令が下ったんだ」
「わ、私が気絶してる間に、作戦が変わっちゃった感じィ?」
「うん。装甲車を『襲撃した敵』を追え!って命令されてね。皆、『触手の襲撃者』の追跡に赴いたのさ」
「放置プレイの理由はわかった。でも! 女子一人をほっとくのは、乙女心がわかってないかも」
「……ごめん。あの時は、とんでもないモンスターと遭遇した!って必死だったんだ。それに『君は装甲車の中にいた方が安全』とも、思ったしね」
「意識不明の幼馴染をほったらかして安全?! 男って勝手かも! 」
「……ごめん。翼さんの後を追うので頭が一杯だったんだ」
言い訳を並べられても、華白のモヤモヤは晴れないが、カケルの反省している様をみて「まあ、いいっか~」と思い至った。
(とりあえずぅ、カケルは無事だったし。絶望中の幸いってヤツかも)
「まッ、まぁ! 今回だけ特別キャンペーン! ゆ……許してあげる」
「独特なキャンペーンだね。でも、ありがとう…恩に着るよ。リン」
幼馴染の過ちを安々と許してから、気になる点を突っこんでみる。
「と、ところで、翼さん達は生きてる感じ? 」
「うん。ここから10分、まっすぐ歩けば『残りの部隊』と合流できるはずさ」
「多分、他の兵隊さん達は、別の地点でたむろしてるんだね~」
「コンビニじゃないんだけどな。一応、そんな感じだ」
「…でも、残念だ。翼さん達と一緒に『襲撃者』の足跡を追ったんだけどね。相手の顔すらも拝めなかった」
カケルの話によると、翼の部隊は『襲撃者』を見失い、上手い感じに巻かれてしまったらしい。要するに、襲撃者の情報はゼロ、触手をつかうクリーチャーである事しか分からない。華白は記憶の引き出しを開き、装甲車の窓から目撃した『触手』の姿形を脳内再生した。
「大蛇みたいな触手が……巨大な鉄球に変身かあ~」
(いやいや! 自分で言ってて意味不明なんですけど! チート触手野郎を倒すなんて、神様軍団だって出来っこないよおおお)
「さて、翼さん達と……急いで合流しないとね」
カケルは勝手に怯える華白に構わず、さっさと出発してゆく。
恐れる様子もなく、毒森の奥へそそくさと進むカケル。華白はいつも通り、幼馴染の背中を「まってェ~」と追いかけてゆく。




